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1st Stage

「シンゴーキの青信号こと青田すすむで~す!」

「同じく、黄信号の黄島ただしで~す!」


 深夜1時を回って始まったラジオ番組『ミッドナイト&ナイト』は、俺たちの掛け声から始まる。その掛け声の最後を飾るのは……。


「赤信号で渡ってしまった、赤井しんごで~す!」

「そんなことしたら捕まるわ!」


 俺のボケに対して、青田と黄島がツッコミを入れて締めるのがオープニングで行う口上のパターンだ。そこからフリートークに入るのが、俺たちの番組での基本的な流れとなる。


「5月1日の深夜1時ということで、令和に入って1時間経ちました」

「さっきテレビを見たら、渋谷でカウントダウンしている人が大勢いたけど」

「あそこはカウントダウンの名所なのかな」

「ニューヨークのタイムズスクエアに当たるのが、東京の渋谷なんだろうねえ」


 正直なところ、いつも通りにラジオ番組を進める俺たちにとって年号が変わったという実感はほとんどない。そうはいっても、番組を聴いているリスナーが令和という新年号に変わったことに関心を持っていることは確かなようだ。


 ラジオ番組に台本というものはほとんどない。俺から始まったトークは、他のメンバーへとバトンを渡すように進んでから再び俺へ戻る。お馴染みのパターンの中で、番組を面白くさせるカギは頭の中に浮かんだネタをどう生かすかだ。


 番組も中盤に差し掛かった時、俺は深夜番組でなおかつラジオだからできるコントのネタを思いついた。


「そういえば、エロ用語の基礎知識というのがここに落ちていたけど……」

「おい! 勝手に見るな!」

「どれどれ、これは……」

「勝手に見るなって言うとるだろ!」


 俺の仕草に黄島がツッコミを入れているところに、生徒指導の教師役の青田が割り込むのがコントの恒例だ。


「おいおい、こんなところでいかがわしい雑誌を見るとは」

「ちょ、ちょっと! 何するんですか!」

「これは没収だ。いいな!」

「そ、そんなあ……」

「おっ、これはなかなかいいなあ。帰ったらティッシュを用意して……」

「人のことが言えるのかよ!」


 青田のボケに反応するように、俺と黄島のWツッコミでミニコントを締めるのを見計らってCMに入った。


 俺はかすかに聞こえるフィラー音楽をよそに、他の2人に新たなコントのネタを持ち掛けることにした。


「なあ、次のネタを思いついたのだが」

「ネタって、お前のことだからエロネタとか」

「これなんか未解決事件だし、興味が湧くんじゃないかと」


 怪訝そうな顔つきの2人に、俺はスポーツ紙の社会面から切り取った記事をネタノートから出した。そこには、都内で女性用の下着が盗まれるのが100件近くにも上っているにもかかわらず、未だに犯人逮捕に至っていない旨が記されている。


「下着泥棒があって犯人が捕まっていないのって珍しいのでは?」

「こんなの110番すれば、すぐ捕まると思うけど」

「よくよく考えると、被害に遭っているのは全部外に干しているのばかりだな」


 平成の忘れ物というべき記事にうなずく俺たちだが、今はまだ番組の途中であることを忘れてはいない。CM明けになれば、ラジオブースでいつも通りにラジオ番組を進行している俺たちがいる。


 生放送を終えると、時計の針は深夜3時を回っていた。ラジオ局から出た俺たちは、反省会という名の飲み会をしようといつもの場所へ向かった。


 不夜城と言われている東京であるが、さすがにこの時間まで開いている店は少ない。それでも、深夜の街をいつも歩けば暗闇の中にポツリと明かりが灯された店がいくつか見かける。


 行きつけの居酒屋へ入ると、カウンターにいるご主人と目を合わせた。そこのご主人は、俺たちの顔を見るとお馴染みの言葉を口に出した。


「いらっしゃい! ラジオの仕事、いつもご苦労様ね」

「いつも聴いてくださって光栄です」


 下ネタが多いラジオ番組を聴いてくれる人がいることに、俺たちもついつい浮かれてしまいがちだ。そんな気持ちを締めようとカウンター席に座ろうとすると、こっちに向かって呼んでいる声が耳に入ってきた。


「あっ、野村か。仕事のほうは?」

「これからドラマのロケへ行くところなんだ」


 テーブル席から俺に声を掛けた主は、お笑いコンビ『笑ジャック』のボケ担当・野村弘真だ。


 かつて『コントグランプリ』で王者になったほどの実力派コンビだが、ここ最近はコンビの仕事よりもピンでの仕事が多いようだ。脇役としてドラマや映画のオファーも多く、芸人だけでなく個性派俳優としても注目を集めている。


 そんな野村だが、テーブルの上にはウーロン茶らしきものが置かれている。ドラマの撮影に影響が出ないようにするための配慮なのかと思っているが、本当のところは本人にしか知らないだろう。


「あまり飲みすぎたら、次の仕事に響くからこれでやめようか」

「そうだな、そろそろ店を出ないといけないな」


 俺は他のメンバーと店を出る前に、別れの挨拶をしようとテーブル席にいる野村のそばへきた。


「じゃあ、またな」

「明後日は、生放送の『昼バラライブ』にゲストで出演するから、その時はよろしくお願いしますよ」


 ピンでもコンビでも需要がある野村の姿が羨ましいのは、俺も他のメンバーも同じだろう。お笑いの王者になったコンビと、決勝に進んだだけのトリオでは雲泥の差を痛感することとなった。

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