18th Stage
気がつけば、秋も深まろうとする時期に入っていることを俺も実感している。
月曜にパーソナリティを担当するようになった『オラジ通り』の反響もすこぶる大きいそうだ。番組を聞いている高年齢層主体のリスナーにも、シンゴーキというお笑いトリオの知名度が少しでも上がればと番組に臨んでいる。
そんな俺だが、番組中で苦手と思ってしまうことがないわけではない。
「年齢を重ねた人に注目の成分・エラグ酸が入った……」
俺が一旦席を外すと、メインパーソナリティの江村佐織が通販会社と電話で繋いでラジオショッピングを行っている。その様子を冷ややかな目で見てしまうのは俺だけだろうか。
生放送を終えてラジオ局から出ると、住処であるマンションに向かって歩いている。目の前には、不夜城とよばれる深夜の時とは違った風景が広がっている。
見慣れた景色の中を進んでいる途中で、俺は一旦立ち止まってスマホのニュース画面を覗いていた。最初に確認するのは、俺たちが気にしている例の一件のことだ。
「そういえば、あの事件もいつの間にか取り上げられなくなったなあ」
一部界隈の媒体で賑わっていた下着泥棒の事件も、他のネタに興味が移るとともに取り上げることがなくなってきた。熱しやすく冷めやすい国民性というのはこのことだろうか。
しばらく歩いた先には、俺たちが共同生活するマンションが遠くから姿を現した。早足でマンションへ向かおうとしていると、白の軽ワンボックスカーが道路を走っているのが目に入った。
その車をチラッと見た時、風野の家の駐車場に停めている軽のワンボックスとナンバープレートを含めてそっくりだということに気づいた。
自分の車でないなら気にするなよと言う人も多いだろう。だが、 CeroTubeチャンネルの共同生活企画で『下着部屋』をこの目で目撃したことを考えれば、相手に対して厳しく見てしまうのは無理もない。
マンションの出入り口の前で立ち止まると、俺は頭の中で過去の出来事を思い起こしている。そんな時、目の前の道路を警視庁のパトカーが通り過ぎていく様子に気づいた。
「あのパトカー、まさか軽のワンボックスカーの後をついて……」
赤色灯の点灯とサイレンは、犯罪の抑止力として十分に発揮されるパトカーの象徴と言えよう。しかし、そのパトカーはサイレンを鳴らすことなく空気のように走っていた。その姿に、俺は不気味さを感じずにはいられない。
「もしかして、尾行目的とか? ま、まさかよね……」
犯罪ドラマのような考察をつぶやきながら、俺は他のメンバーが待っているマンションの自室へ入った。




