17th Stage
この日、俺たち3人は生放送に出演するためにラジオ局のスタジオブースへ入った。深夜1時の時報が鳴ると、『ミッドナイト&ナイト』の番組名が入ったサウンドロゴを流しながらいつもの口上でスタートした。
「シンゴーキの青信号こと青田すすむで~す!」
「同じく、黄信号の黄島ただしで~す!」
「赤信号で渡ってしまった、赤井しんごで~す!」
「そんなことしたら捕まるわ!」
俺たち3人が順番に口上を述べてから、最後に青田と黄島によるツッコミで番組が始まるのがいつものパターンである。だが、今日はいつもと違って俺のほうから最初にお知らせを伝えることになっている。
お知らせを番組の最初に入れるのか、最後に入れるのかは伝える内容によって異なる。ちなみに、出演者の不祥事といった悪いお知らせは放送局のベテランアナウンサーが伝えるのが基本だ。その際のBGMは一切流さないので、番組を聞き慣れているリスナーには違和感を持つ人が相当多いと思う。
今回のお知らせは、当然ながら悪いお知らせではない。むしろ、俺にとってはラジオパーソナリティとしてさらにステップアップする絶好の機会だ。
「以前、『オラジ通り』月曜パーソナリティの代理として出演したことがありましたが、10月から……」
「10月から何を?」
「いかがわしいことでも?」
「おい! 俺の話の途中で遮るんじゃねえ!」
青田と黄島のWツッコミで話題が途切れたが、俺はそんなことで気にすることはない。俺たちに求められているのは、淡々と話を進めるよりもお笑いで新しい化学反応を生み出すことだ。
「ということで、改めて発表いたします! 赤井しんごは10月から……」
「10月から」
「あの番組の」
「赤井しんごは10月から、『オラジ通り」の月曜パーソナリティとしてレギュラー出演することが決まりました!」
テンションを上げながらしゃべり終わると、コントロールルームにいるスタッフたちが拍手する姿が目に入った。それは、俺にとってお笑い芸人という仕事の楽しさに改めて気づく瞬間となった。
けれども、この業界には他の業界と同様に勝ち組と負け組がはっきり分かれるのもまた事実だ。新しいレギュラー番組をスタートすることもあれば、逆に番組が打ち切りになることもあるのがこの世界の厳しさと言えよう。
それを如実に表したのが、自宅マンションに戻った時にかかってきたマネージャーからの電話だ。それは、以前に青田から聞いた配信番組『青田と風野のツーショット』のリニューアルに関する内容だ。
「先方から、来月にリニューアルするこの番組へシンゴーキの3人にレギュラー出演してほしいという連絡があったので」
現在配信中の内容を引き継ぐことから、『シンゴーキのスリーショット』とシンプルな番組タイトルに変更するそうだ。
一昔前だったら、芸人の出演媒体はテレビとラジオのいずれだったけど、今の時代はインターネットもメインの媒体だ。そもそも、俺たち自身もCeroTubeでシンゴーキチャンネルを持っているし、誰かに誘われなくても自分たちのアイデアと行動力があれば稼ぐことができる時代となっている。
時代の流れに乗り遅れると、それに伴う損失は自分が思う以上に大きいものになるだろう。レギュラー番組を失った風野は一体どこを目指すつもりなのか、それは俺たちも全く分からない。




