15th Stage
次の日の朝、俺は風野の家の居間で横になったままで眠っていたことに気づいた。スマホの時計は5時を15分ほど経ったところだ。
「すぐに朝ご飯の準備をしないと」
トリオで深夜のラジオ番組を担当しているためか、朝早くから体を動かすのはそんなに苦にならない。フライパンで目玉焼きを焼いたら、千切りキャベツとともにお皿に盛りつけて主菜の完成だ。
昨日作ったわかめの味噌汁と、レンジで温めたパック入りご飯をそれぞれ2人分準備して朝食の準備を終わらせた。
「風野は2階で寝ているようだが……」
本来なら、風野の部屋へ行って布団から起こしたいと思うところだ。けれども、風野から2階へ行くなと言われているので、俺はそれに従うしか他はない。
そんな時、階段から降りる音が俺の耳に入ってきた。どうやら、風野は自分から起きて下の階へきたようだ。
俺は、小型カメラを用意して起床したばかりの風野の様子を撮影することにした。この企画の良いところは、作り物ではない芸人たちの素の姿をネット配信により伝えることができることだ。
「風野、おはよう。朝飯もう作っているから」
「ああ、ありがとうな」
居間にカメラを固定すると、朝ご飯を食べながら会話する様子の収録を開始した。案の定というか、風野の話は最近の仕事のことや相方の野村との関係といった無難な内容のようだ。
そんな風野に、俺はある一言を伝えようと口を開いた。
「俺が言うのもなんだが、ここ最近はゲスト出演以外で笑ジャックが出るのを見たことがないんだけど」
「確かに、野村は役者の仕事もあるので……」
「2人がコンビで出るのがなかなかできないということだな」
「は、はい……」
俺からのダメ出しに、風野は言葉少なに答えるしかなかった。
「そうなると、風野がピンでどれだけ頑張れるかによるわけで」
「人生相談の番組のゲストに、健康食品の通販のゲスト……」
風野がゲスト出演するのが、さながら『あの人は今』のフレーズが似合いそうな番組が揃っていることに俺は思わず頭を抱えた。お笑いライブやイベントへの出演もあるが、これらを含めても風野の仕事がない日は1か月の半分近くだ。
「コントグランプリ王者から10年近く経つ中で、野村と風野はどこで差がついてしまったのか……」
野村が個性派俳優の道を歩んでいる中、風野も自分なりの個性を出していれば『コンビ内格差』はさほど気にならなかっただろう。
「俺たちも CeroTubeチャンネルをやっているから、風野も自分でチャンネルを持ったほうがいいと思うぞ。どうせ暇な時間が多いようだし」
「とりあえず考えておきます」
俺たちシンゴーキも、トリオやメンバー個々でのレギュラー番組等の仕事がいつなくなってもおかしくない。シンゴーキチャンネルは、今までの与えられた仕事ではなく、自分たちの手で企画から配信に至るまで行うことが魅力だ。
風野との共同生活企画も残りわずかだ。それだけに、風野がこの期に及んで惰性で仕事を受けることしか考えていないことに虚しさを感じるのは俺だけだろうか。




