14th Stage
収納ケースから取り出したドローンを廊下に置くと、コントローラーで慎重に機体を上昇させながら動かしている。階段に当たらないように、俺はドローンを前進と上昇を繰り返しながら2階へたどり着いた。
2階へ上がると、ドローンを誤って踏まないようにしながら2つの部屋の位置を確認した。先に右側の部屋を開けたが、そこには本棚や机が置かれたごく普通の生活感あふれる部屋だ。
「いかがわしいのがいくつかあるようだが……」
本棚には、お笑い芸人が登場する雑誌のほか、美少女を扱ったグラビア雑誌や成年向けのエロ雑誌が何十冊もあるが、このくらいなら別に気にするほどではないだろう。
隅っこには、畳まれた敷き布団や掛け布団が置かれていることから、風野がこの部屋を寝起きするための場所として使っているようだ。
「では、左側の部屋は……」
俺は、もう1つの部屋のドアノブに手を掛けた。そのドアが施錠されている可能性も考慮しながら……。
「よく落ち着いて……」
左側の部屋を開けて電灯を点けた途端、俺の目の前には前代未聞といえるものが室内の一角に積み上がっていた。
「これって、もしかしてパンツ……」
確かに、風野は女子高生を演じるコントを行うことが多い。女子高生になり切ろうとわざわざ女性用のパンツをはくということも考えられるだろう。
しかし、部屋の一角にはパンツだけでなく、女子高生が着るであろう制服やスカートも積み重なっている。
「パンツだけでも数十枚も……」
俺は、自ら持ってきたカメラつきドローンを『下着部屋』の内部に撮影するためにコントローラーを動かしている。風野が使っている部屋の密かな事実が、ドローンによって次々と撮影されるに至った。
けれども、この事実を決して本人の前で暴露させてはならない。なぜなら、風野との信頼関係が完全に破綻するのが確実になってしまうからだ。
ドローンで撮影する時も、この『下着部屋』の『私物』には決して手を触れないようにしている。撮影を終えて電灯を消すと、この部屋のドアをきちんと閉めてからドローンを持って1階へ降りることにした。
収納ケースにカメラつきドローンを戻したその時、玄関のドアを開ける音が俺の耳に入った。玄関へ出ると、そこには風野の姿があった。
「仕事のほう、どうだったの?」
「急なイベントが入って、どうしても人手が足りないので」
「そのイベントはどこで?」
「ここから離れたところにあるパチンコ屋で」
俺は、風野の言うイベントがどういうのかは全く知らない。ただ、そのイベントが所属事務所を通していない闇営業の可能性は高そうだ。
「なんかいいにおいがするなあ。何か作ったの?」
「ニラの卵とじとわかめの味噌汁。レンジでチンするご飯も買ったから」
「向こうで食べようとしたけど、時間がなかったので家に戻って食べることにするわ」
時計の針は9時を回ったところだ。風野の仕事は、食べる暇もないほどの忙しさだったのだろうか。
「さあ、今日の晩ご飯はこちらです!」
ベテラン芸人による往年の人気コーナーのフレーズをもじりながら、風野が食べているおかずを小型カメラで撮影していた。




