13th Stage
共同生活先の風野の家へ戻ると、スーパーで買った食材の中から必要な物だけを用意して夕食を作る準備を始めた。残りの食材は、日持ちをさせるために冷蔵庫に入れることにした。
ニラの卵とじとわかめの味噌汁は、次の日の朝に風野が食べる分も考慮しながら作っている。この家には炊飯器がないので、レンジでチンすることができる5個パックで購入したご飯を温めようと取り出した。
「これがあれば、風野でもご飯を食べることができるし」
売れない時代から自分で料理をしてきたことが、こういう時に役立つものだと改めて感じる機会となった。
居間のテーブルで夕食を食べていると、テレビを見たくなったのでリモコンで電源を入れることにした。テレビに映っているのは、男女のキャスターが揃って出演しているニュース番組だ。
俺は、夕食を食べながらテレビの画面を凝らすように見入っていた。すると、にわかに信じ難い内容のニュースが流れていることに気づいた。
「インターネット上で女性の使用済み下着の売買を行うWEBサイト『にゃん2フェチ』が無店舗型性風俗店営業の届け出をしなかったことを知りながら営業をしていたとして、警視庁はサイトの運営者を風営法違反の疑いで逮捕しました」
テレビの画面では、キャスターがそのニュースを続けて伝えていた。
「警視庁は、このサイトへの出品者にも事情聴取をするなどして事件の全容解明を急いでいます」
こんなニュースを報じるよりも大事なニュースや社会問題があるだろと言いたくなる気持ちはよく分かる。けれども、事件の当事者からすれば、些細なことであっても深刻に考えるのは想像に難くないだろう。
ここへくる時に持参したネタノートを出すと、俺はこれまで自分が目にした出来事を書き出すことにした。
「あまりにも偶然過ぎる気が……」
駐車場にある軽のワンボックスカーのナンバープレートが、少し前に別のコーポに停まっていたそれと全く同じなのは確証済みだ。もしかしたら、風野が口にした急な仕事というのは……。
「だからと言って、風野がやましいことをしていると断定するわけにもいかないし」
必要事項をネタノートに書き終えると、俺が持ってきたバッグケースの中へすぐに収納した。そして、同じバッグケースから動画撮影用のカメラを取り出した。
「ただ今、風野は急な仕事でここにはいません。この家の1階はどうなっているのか、これから俺が案内します」
今回の共同生活は、あくまでシンゴーキチャンネルの企画の一環で行っているものだ。俺たちのチャンネルを見てくれるファンに向けて、笑いを交えながら面白く伝えようと動画撮影を続けている。
急な仕事で風野が外へ出たという想定外のハプニングに動ずることなく、動画撮影は特に問題なく終えることができた。本来の共同生活を行う企画の趣旨からすれば物足りないだろうけど……。
「もう8時か……」
時計の時刻を確かめたその時、俺は風野の口から飛び出した言葉を思い出した。
「2階は大事な荷物を置いている場所って、一体どういうことだろうか?」
風野に対するモヤモヤとした疑問に、俺は居間にバッグケースとともに置いているカメラつきドローンの収納ケースに手を伸ばした。




