12th Stage
1拍2日の共同生活を行う相方が住んでいるところへ行くと、コンパクトな2階建ての一軒家が目の前に現れた。
築40年は経っているであろうその建物は、昭和にタイムスリップしたような下町特有の人情が感じられる風景にそのまま溶け込んでいる。
「この建物、お前が自分で買ったのか?」
「一応、ここを管理する大家さんから借りているけど」
聞くところによると、この一軒家は月9万円で借りることができるそうだ。けれども、ここを借りるには他に敷金と礼金が必要になるが……。
「王者になったから、一軒家に住もうかなと探していたら偶然見つかって」
「へえ、すごいなあ」
相手の言葉に合わせるように相槌を打つ俺だが、風野の口ぶりにはどうしても鼻についてしまいそうだ。それでも、今回の企画は俺と風野が期間限定で共同生活する設定なのでこんなところで文句を言う訳にはいかない。
ちょっと気になったのは、入り口のドアの前でキョロキョロと見回す風野の様子だ。すぐ家の中へ入ればいいのに、なぜこういうことをするのか疑問を抱いてしまうのは俺だけだろうか。
家のすぐ横には、古びたカーポートを取りつけた駐車場が見えた。カーポートの向きからして、ここに風野の自動車と自転車が駐車しているようだ。
この車が軽で白色のワンボックスカーだということは、俺に限らず誰が見ても明らかだろう。そんな俺は、ある一点に集中しようと車体を凝視している。
「このナンバープレート、『品川58× そ××-××』って……」
軽自動車を示すそのナンバープレートは、俺が路上を歩いている途中のコーポに沿って停車していたワンボックスカーのナンバープレートと完全に一致している。
「何かの間違いかもしれない」
再びナンバープレートを見たが、それは地名も番号も以前見た時のとそっくりだ。
普通の人だったらどうでもいいことだが、俺には脳裏から離れられない出来事が次々と浮かび上がってきた。
「未解決のままの下着盗難事件、収録ギリギリにやってきても悪びれない風野の様子、そして……」
俺はモヤっとしたままで、風野の自宅の中へ入ろうとドアを開けた。玄関で靴を脱いで上がると、そこは俺たちのマンションとは明らかに匂いが違うことを感じ取った。
「う~ん、どうもなあ……」
「赤井、どうしたんだ?」
「これは青田から聞いた話なんだが」
風野に特段問題がなければ、共同生活早々から耳の痛い話をすることはない。もちろん、こちらからの話にきちんと耳を傾けてくれるという性善説が前提となるが……。
そんな時、風野のほうからスマホの着信音が聞こえてきた。風野は、俺から離れるように台所のほうへ入ってから相手の通話に出ることにした。
台所からは、風野が電話の主と頷きながら話しているのが聞こえてきた。もちろん、風野が電話の相手とどんな会話をしているかは分からない。
「そうですか。すぐにそちらへ行きますので……」
企画が始まった矢先の風野の応答に、俺は唖然として立ち尽くしている。なぜなら、この共同生活企画を行うに当たって、笑ジャックの2人とも他の仕事を被らせていないはずだからだ。
通話を終えた風野に俺のほうから尋ねると、住処の主は空気を詠まずにその場で言葉を返した。
「ちょっとすまないけど、急に仕事が入ったので」
「仕事って、まさか闇営業?」
風野は、都合の悪い言葉をスルーするとすぐに玄関へ向かった。すると、俺のほうへ振り向いた風野は何か言おうと口を開いた。
「言い忘れたけど、2階のほうへ行ったらダメだぞ」
「どうして2階へ行ったらいけないのか」
「大事な荷物を置いている場所だから、絶対に触るんじゃないぞ」
やけに語気を強める風野の発言に、俺は反論することなくそのまま従うことにした。
この企画は、相方との信頼関係があって成り立つものだ。俺自身の発言で波風を立てるわけにはいかない。
「もう夕方だけど、晩ご飯はどうするんだ」
「仕事が終わったら、外で食べに行べることにするから」
「冷蔵庫に食材とかは?」
「あまりないなあ。カップ麺とかはいくらでもあるけど」
「じゃあ、近くのスーパーで必要な物を買って自分で作るよ」
「それなら、台所の引き出しにある鍵でドアを閉めてくれよな」
風野が玄関から出るのを見届けると、俺のほうもスーパーへ買い出しに出かけることにした。家のほうは不在になるので、台所の引き出しから取り出した鍵でドアの施錠をして外へ出た。
「あれっ? ワンボックスじゃなくて自転車で出かけたのかな?」
自転車だったら、風野が向かった先はそんなに遠くではなさそうだ。とりあえず、俺は翌朝までの食事に必要な材料を買おうと近所のスーパーのほうへ向かって足を進めることにした。




