11th Stage
俺たちは、配信専用スタジオにてシンゴーキチャンネルの新スタッフ2人と事前の打ち合わせを行っている。いずれも『青田と風野のツーショット』のスタッフとあって、いつも顔合わせしている青田にとって気心の合う相手だ。
「とりあえず、赤井と風野の組み合わせは確定だな。もう1組は青田と黄島に野村を加えた3人になるけどいいかな?」
「今回の企画だと、相性も考えるとこの組み合わせしかないのでは?」
「少なくとも、青田は風野と組みたくないのは明らかだろうし」
放送作家の坂塚と企画内容について確認すると、配信スタジオの入り口前で番組のオープニング部分の撮影を開始した。
「こんにちは! 青信号こと青田すすむで~す!」
「同じく、黄信号の黄島ただしで~す!」
「赤信号で渡ってしまった、赤井しんごで~す!」
「3人揃って、お笑い信号機ことシンゴーキで~す!」
いつもの口上でスタートするのに続いて、今回の企画内容をフリートークを交えながら紹介するのが一連の流れだ。ゲストの笑ジャックが登場するのはその後となる。
「あのお笑いコンビと1泊2日のきょう~どぉう~せいかつぅ~!」
映像スタッフの峰渕は、三脚で固定した小型カメラで俺たち3人による息の合ったオープニングに一発でOKを出した。
「次は、笑ジャックの2人が出てくるからお願いしますよ!」
峰渕からの声に、俺たちはカメラの被写体を意識しながらこの日のゲスト芸人を呼ぶことにした。
「今日ここにきてくれたのは」
「コントグランプリ王者の」
「笑ジャック!」
俺たちが順番通りにゲストの名前を告げると、2人組のお笑いコンビが廊下を進みながら合流してきた。
「風野秀一!」「野村弘真!」
「2人合わせて! 笑ジャック!」
相手からの口上が終わるのを見計らって、俺のほうから風野へジャブを繰り出そうとあの言葉を掛けた。
「ふむふむ、風の噂ではいつも本番寸前ギリギリにやってくるそうだが」
「ちょっと待ってくれよ! こっちもすぐに……」
風野のほうも俺のほうへ話題を返そうとするが、とっさに言葉が出てこなくなってしまった。
「いやらしいことを考えたりとか」
「あっ! そうそう、それです! それです!」
風野は、俺の助け舟に乗っかりながら何とか答えることができた。ドラマや映画と違って、台本がない今回のような企画では相手の状況に応じてアドリブを交えることが必要になってくる。
それに、シンゴーキチャンネルのようなWeb動画の場合には地上波では難色を示しそうな企画も寛容だ。今回の企画以外にも、動画配信用としてテレビ局で没になったものを含めた企画が俺の手元にいくつか持っている。
俺たちと笑ジャックの5人によるフリートークを行っていると、撮影担当の峰斑が俺たちのほうへフリップで指示を出した。そこには、『1泊2日の共同生活』という今回の企画が記されていた。
スタッフの意図を汲み取ると、俺は今回の企画の内容を他の出演者へその場で伝えることにした。
「今回は、俺たちシンゴーキと笑ジャックのメンバー同士で1泊2日の共同生活を行います!」
俺は、スタッフから目隠しシール4枚が貼られたフリップを渡されるとカメラに映るように差し出した。目隠しシールを順番にはがすと、俺たち3人の共同生活の相手が決まるという塩梅だ。
「シンゴーキ赤井の共同生活の相手は、笑ジャック風野! そして、シンゴーキ青田と黄島の共同生活の相手は、笑ジャック野村!」
こうして、シンゴーキと笑ジャックのメンバーの組み合わせによる1泊2日の共同生活がいよいよ始まった。そこで垣間見た風野のもう一つの顔とは……。




