プロローグ
前代未聞という言葉がふさわしいこの事件を知ったのは、昨年の年末に差し掛かった時だ。年末年始の稼ぎ時に、業界の顔に泥を塗ってしまったことに俺たちも思わず狼狽したほどだ。
この業界に入って20年以上になるけど、こんなことに出くわしたことは今まで一度もない。絶対にあってはならないことだけど、実際に起きてしまったのだ。不祥事という3文字で片づけられるものではない。
そんな俺の名前は赤井しんご、お笑いトリオ『シンゴーキ』の最年長メンバーだ。養成所を経て別の人とお笑いコンビとしてデビューするもパッとせずに数年で解散。それから間もなくして出会ったのが、養成所を卒業したばかりの青田すすむと黄島ただしの2人だ。
行きつけの喫茶店で意気投合した俺たちは、コントをメインとした『シンゴーキ』を3人で結成した。結成してから10年ほどはお笑いだけでは食って行けず、生活のために俺たち3人はアルバイトをしてどうにか生活していける状態だった。
転機となったのは、3年前の『コントグランプリ2017』のことだ。そこで決勝まで進んだ俺たちは惜しくもグランプリ獲得を逃したものの、この様子を見ていたテレビやラジオのプロデューサーから番組出演のオファーが次々と届いたのだ。
その後は、テレビやラジオで様々な番組に出演するのはもちろんのこと、コントをメインとしたお笑いライブも満員の観客を集めて成功するなど、多忙を極めつつも順風満帆の日々を送っている。
けれども、毎年のように新しいお笑い芸人がブレイクしている昨今、トリオとしてのアピールを怠るとやがてお笑い界からも消えてしまうだろう。少しでも時間があればネタ作りに没頭してお客さんを笑わせるコントを作り上げること、それが競争の激しいお笑い界で俺たちが生き残る道だ。
これから書くのは、俺たちと公私にわたってつき合いのあったお笑いコンビのことだ。あの事件があってからは……。
今回の件が由々しき事態なのはよく分かる。俺が強く言いたいのは、他の芸人たちを同じ色眼鏡で見てほしくないということだ。