真夜中の峠の生放送
夏なのでありきたりな怪談。人物名は適当ですので同名の方とかがいても一切関係ありません。
それはとても暑く、湿気がこもり不快な熱帯夜のことだった…
とある大学の学生アパートで夏の課題を片付けようとしていた三人の学生があまりの暑さにだれていた。
「だぁー、こう暑くちゃやる気でねーよ!」
そう言って机から身体を離して仰向けに転がる修一に輝也が同意する。
「確かになぁ、なぁ昇なんでエアコン点けねーんだよ?」
輝也の言葉にこの部屋の住人の昇は言葉を返す。
「仕方ねーだろ、かなり年代物だったせいか昨日とうとう御臨終したんだからよ」
「それなら新しいの買えよ!」
「貧乏学生に無理言ってんじゃねーよ」
そんなやり取りをしていると修一が「とにかく少し休憩しよーぜ、コンビニでも行ってアイスでも買ってこよう」と意見したので輝也も昇もそれに賛成して三人は一度部屋を後にした。
暗い道を三人でコンビニへと向かう途中、輝也がふとこんなことを口にした。
「しかし暑いよな、まさに夏って感じだぜ」
その言葉に二人も同意して言葉を返す。
「ホントにな、夏といえば海とかにも行きてーけど野郎だけで行ってもなぁ…」
「はぁ…どうして気温は暑いのに俺達は恋愛に関しては真冬なんだろうな」
「やめようぜ虚しくなるだけだ」
そんな他愛もない会話をしながらコンビニに向かった三人は持って帰るまでに溶けてもあれなのでコンビニの駐車場の隅っこの方でアイスを食べ始める。
そうして少しの涼を感じた三人は一緒に購入したサイダーを飲みながら少しその場で会話を始めた。
「そういえば夏といえばよ、小学生の頃とかは怖い話とかよくしてたよな」
修一のその何気ない一言に輝也と昇の二人も「あったあった」と同意して少しその話で盛り上がった。
「トイレの花子さんとか13階段とかだよな、どこの学校にもあるよな」
「夜中に動く人体模型とか、笑う音楽室のベートーベンの肖像画とかもあったな」
昔よく聞いた怪談話とかを話ながら盛り上がっているとふいに昇が「そういえばよあの話お前らは知ってるか?」と二人に尋ねる。
「「あ?なんの話だ?」」
修一と輝也がそう聞き返すと昇は話始める。
「こないだうちの学生の一人が事故で死んだの覚えてるか?」
「ああ、たしか峠をバイクで降りてるときに事故って崖から落ちたんだったよな?」
「聞いた話じゃカーブを曲がりきれずガードレールに突っ込んでそのまま落ちたとか聞いたな」
「それそれ…その死んだやつと仲が良かったって奴が俺と同じゼミにいてな。そいつから聞いたんだけどその事故って死んだ奴って高校の時にモトクロスバイク競技で全国まで行った奴なんだよ」
「え…マジかよ、そんな奴がどうして事故なんか起こしたんだ?」
「そうだぜ、事故った峠のカーブって俺も車で通ったことあるけどそんな急でもないだろ?」
「そう思うよな?しかも更にそいつに聞いた話だと警察の調べでは事故現場にはブレーキがかけられた痕跡は無かったって言うんだ」
「はぁ?じゃあ死んだ奴は自分の腕を過信してブレーキもかけずに曲がろうとしてミスったってことか?」
「いやそれはねーだろ?モトクロスバイクで全国に行くほどの奴がそんな無謀なことするわけねーよ。あのカーブは急ではないが幅は狭いしな。些細なミスで死ぬかもしれない競技をしてた奴がそんな無計画なことするわけねーよ」
「じゃあ何らかのアクシデントでブレーキが壊れてたとかかな?」
「それも考えにくいな、バイク乗りは整備にシビアだと言うしよ。メンテは怠らねーだろ」
「じゃあなんでソイツは事故ったんだよ?」
「俺が知るかよ…」
修一と輝也の会話を聞いていた昇が「それについてちょっと気になることがあってな」と口にする。
「「なんだよ?」」
二人がそう言ったので昇は話を続ける。
「ソイツからそう聞いた俺は興味を持ってちょっと調べてみたんだけどよ、すると面白いことがわかったんだ」
「面白いこと?」
「一体なんだ?」
「ああ…図書館で昔の記事を調べたらよ、あそこの峠では毎年夏になると数件の死亡事故が発生してるんだ。しかもほとんど夜中の同じ場所でな」
「マジか?」
「呪われてんじゃねーの?」
「それでその記録をもう少し細かく調べたんだが、するとある人の証言が残っていたんだ」
「証言?」
「誰の?」
「10年くらい前にそこの峠で事故を起こした人がいたんだが、その人はたまたますぐに人が通りかかって病院に運ばれたんだ。もっとも…三日後に亡くなったらしいがその人は病院に運ばれたとき亡くなるまでずっと同じ言葉を繰り返していたらしい」
「なんて言ってたんだ?」
「前に事故った人にラジオで呼ばれた」
「なんだそりゃ?」
「つまりあの世から一つ前に事故った奴が呼びかけてきて事故を起こしたって言うのか?」
「そこまでは知らねーけどよ、そういう記録が残ってたんだよ」
「嘘くせー」
「そんなことあるかよ」
昇の話に二人は「馬鹿馬鹿しい」と一笑に付した。
そんな二人に昇は「じゃあ確かめにいくか?」と提案する。
二人は「いいぜ、どうせ部屋に戻ってもこう暑くちゃ課題をやる気にならねーしよ」と同意した。
そんなわけで三人は輝也の運転する車で件の峠までやって来た、時間も遅いためか三人以外に人はいない。
「確かここから少し下ったとこだよな?」
「ああ、そのはずだ」
「それじゃあ行こうぜ、念のために徐行でゆっくり下りるとするか」
そう言って三人で降りていくと途中で修一が「静かなのもあれだなラジオつけよーぜ」と言ったので助手席の昇がラジオをつけた。
するとラジオからは淡々とした男の声が聞こえてきた。
『夏の夜のホラーナイトラジオー、今夜は皆さんから寄せられた恐怖の体験を生放送で紹介していきます』
「お、なんか夏らしい番組だな」
「もしかしてこれが心霊現象なのかな?」
「はは、んなわけねーだろ」
そんな感じで下っていくとやがてラジオから声がし始める。
『これは俺が体験した話なんですが…』
「お、始まったな」
三人はゆっくり下りながらラジオに耳を傾ける。
『俺の通う大学の近くにちょっとした峠があるんですが、そこは毎年不思議と夏になると事故が発生して人が亡くなるという噂がありました』
「はは、なんていいタイミングだよ。俺達の話と似てるじゃねーか」
修一はそう言って笑った。
『それで俺はその事故の記録を調べてある人が事故に遭ってから亡くなるまでに「ラジオで呼ばれた」と言っていたことを突き止めました』
「え?」
ラジオの声に昇が少し反応する。
『そして俺は…その話からその噂を確かめてやろうと、一人でバイクに乗ると夜中にその噂の峠にやって来ました。これでも俺はモトクロスバイクで全国に行ったこともあるので運転には自信があります。行く前にブレーキやエンジンの調子も確認していました』
「お、おいこれって…」
ラジオから流れてくる言葉に運転している輝也も少し焦り始める。
「ぐ、偶然だ偶然…んなわけねーだろ」
修一はそう口にするがその声色は少し震えていた。
ラジオからは淡々と言葉が流れている。
『そして峠をゆっくりと下りていった俺はバイクにつけたラジオから流れてきた番組に耳を傾けました…その番組は視聴者からの恐怖の体験を紹介していくという番組でした…』
「や、やばくないかこれ?ラジオ消せ!」
「そ、それがさっきからスイッチ押してるのに消せねーんだよ」
『そして語られた体験はとある峠での多発する死亡事故についてでした…俺はその内容に聞き覚えがあり慌ててラジオを消そうとしましたがなぜかラジオは消えませんでした』
「と、とにかく車止めろ輝也!降りるぞ!」
「それがブレーキが効かねーんだよ!さっきまで徐行のために踏んでたのに効かなくなりやがった!」
「おい、下りだからスピード上がってきてるぞ!ヤバイぞ!」
『俺はバイクを止めようとしたんですが何故かブレーキが効かなくなり速度は上がる一方でした…』
「仕方ねぇ、怪我はするかもだが飛び降りるぞ!」
三人はベルトを外してドアを開けようとするが何故かドアは開かない。
「あ、開かねぇ!」
「鍵開けてるのになんでだよ!」
「ヤバいもうすぐあのカーブだぞ!」
『俺はバイクから飛び降りようとしましたが何故かハンドルから手が離れませんでした…そして俺はそのままカーブを曲がることができずに…』
「「うわぁぁぁぁぁ!!」」
三人が乗った車はカーブを曲がりきれずにガードレールに突っ込むと崖から落ちた、落下しながらも車の中ではラジオから声は出続けている。
『落ちて死にました。だけどこのままだと俺はここに縛られてあちらの世界に行けません、だからこのラジオを聞いた人は…』
『俺と交代してください!』
その言葉を最後に三人を乗せた車は崖下に激突すると爆発した。
その数日後…夜中にこの峠を下りている車が一台通っていた。運転手の男性は「こう暗くて静かだと不気味だな、ラジオでも点けるか」とスイッチを押した。
『夏の夜のホラーナイトラジオー!今夜は皆さんから寄せられた恐怖の体験を生放送で紹介していきます』
「なんか夏らしい番組だな…」
男性がそんなことを呟きながらラジオに耳を傾けるとラジオから声が流れてきた。
『これは俺達三人が体験した話なんですが…』
―終わり―