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99話 最後の戦い(12)


 時間は少し遡り、三十分前―――。


 夢乃と瑠依が属していた退治チームは捜索チームからの増援依頼を受け、虚念が大量発生している洋館へ移動していた。その道中、夢乃の服のポケットの中に入れていた魔視石が点滅しながら黄色い光を放ち始めた。


 ちょうど虚念が目撃され始めた時のこと。赤色の影が消えて役目を終えようとしていた魔視石は、魔法使い同士で連絡を取り合えるようにする為、魔法によって再加工された。鏡界内では電話が使用できないので、電話のような役割を担うようになった魔視石は、魔法使いの間で重宝されていた。


「夢乃の石、光ってるわ。連絡がきてるんじゃない?」


 隣にいた瑠依がそう教えると、夢乃は慌てて石を手に取り、耳に近付けた。


「花城です。どうしました?」

『迷よ。夢乃ちゃん達にちょっとお願いがあるんだけど…』


 零が洋館から持ち出した人形の行方を追うために、夢乃達に協力してほしい―――迷の話を聞き終えると夢乃は少し考えてから言った。


「わかりました。零の場所まで行きます」

『今からロックを解除するから、そうしたら位置がわかるようになるわ……妹人形の位置情報が直接頭に流れ込んでくるから、慣れるまでちょっと大変だけど…でも、本当にいいの?」

「え、何がですか?」

『隠してたんでしょ?人形使いだってこと。瑠依ちゃんには必然的に知られることになるけど…』

「仕方ないですよ。今は零が優先です」


 夢乃は穏やかな声でそう言うと、電話を切った。





「ふー、上手くいったわね」


 動かなくなった少女型人形の様子を確認し、瑠依は一息ついた。


 瑠依の特殊魔法『人形操作』による魔法の上書きにより、零は人形を操れなくなった。糸形家の洋館から持ち去られた人形は一体のみ。今、洋館の周りでは魔法使いが目を光らせている。彼はもう同じ手は使えないだろう。


「るーちゃんの新技、すごかったね」


 夢乃が褒めると、瑠依は照れながら笑った。


 瑠依の特殊魔法による新技、自分の体をぬいぐるみの中に隠すことができる魔法。彼女はその魔法を使ってクマのぬいぐるみに自分の身を隠し、夢乃がそれを持ち運んでいた。零に敵が一人と思いこませ、最後に油断したところで隙をつく―――迷が考案した作戦は上手くいった。


「でも夢乃が人形使いだったなんてね。びっくりしちゃった。お人形さんみたいに可愛いとは思ってけどまさか本当に人形だったなんて……」


 瑠依は地面でうつ伏せになっている少女型人形を肩に担ぎながらそう言うと、夢乃は後ろめたそうな顔をした。


「ごめんね、今まで隠してて……」

「何で謝るの?いいじゃない別に。それより夢乃の塊は?」

「多分もうすぐ来ると思う」


 背後から、獣のような重く響く唸り声がした。瑠依がぎょっとした顔で振り返ると、そこには自分達よりも何倍も大きな体を持った黒い毛並みの熊のような獣が赤い目を光らせていた。


「おかえり、クマちゃん」


 夢乃はその獣に近付き頭を撫でると、獣は気持ちよさそうに目を瞑った。


 一見恐ろしい見た目をしたその獣は、夢乃の塊であった。零を追跡中、夢乃は行く手を阻む虚念達の退治を自分が飼っている熊型の塊に任せていた。零の元まで無事たどり着けたのも塊のおかげである。

 熊型の塊は攻撃力が高い分魔力の消費量が激しく、並みの魔法使いでは扱えない為、選ぶ者は殆どいない。この塊は非常に強力な力を発揮するが、その珍しさから周りの魔法使いから注目を集めることになる。目立ちたくない夢乃にとって、熊型の塊はいざという時のみの切り札であった。


「これからどうする?一度戻る?」

「そうだね。保護した人形も届けなきゃだし……るーちゃん、あのね…」

「わかってるわよ。他のチームの子には、夢乃が人形使いだってことは言わない」

「……うん。ありがとう」


 瑠依の気遣いに感謝しつつ、夢乃は眉を下げて笑った。


 人形を保護したことを迷に連絡した後、夢乃は鏡界の地図を取り出して地面に広げ、赤色のボールペンで線を引き始めた。地図を覗き込んで瑠依が何をしているのか問うと、夢乃は地図のある場所を指して言った。


「妹人形が移動してきた道を書き出しているの。追尾機能のロックが解除された後、解除前までの人形の位置情報……つまり、零が人形を持ち出した直後の移動ルートもわかったから」

「凄いわね!何かわかった?」

「うん。零は人形を洋館から持ち出した後、近くにあった森の中に入っているけど、その後一度森を抜けていたの」

「え?でも人形は森の中にいたわよね?戻ってきたの?」

「森を出た後、ある地点から折り返して森の方へ再び向かった形跡がある」

「でも零本体はいなかったから……人形だけ森へ戻ってきたってこと?」

「多分そうだと思う。そうなると、その折り返し地点に何かがあると思わない?」


 夢乃はにやりと笑い、零が折り返した場所を再び指した。そこは、古い小屋がある場所だった。



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