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9話 照原日衣菜


 蓮は朝に弱い。目覚まし時計が鳴っても、スイッチを押して二度寝をしてしまうタイプの人間である。それに加えて、昨日は色々な事があった為よく眠れなかった。

 目が覚めて、壁掛け時計の針を見た蓮は慌てて身支度を始めるが、気分は憂鬱だった。クローゼットの方に目線を移すと、女子用制服のブレザーがある。蓮は溜息をつきながら、昨日の事を思い出していた。





「これ、瑠依が使わないから貸すってよ」


 錐野が蓮に渡したのは、蓮が通っている学校の女子用制服だった。


 蓮の学校は中高一貫校で、彼は今、高校1年生である。錐野の妹、赤崎瑠依は中学2年生で、蓮と同じ学校に通っている。瑠依が念のため買っておいた予備用の制服を、全く使わないからと言って蓮に譲ってくれたのだと錐野は言う。

 

「これ、俺が着るの?何で?」

「お前、今の身長に合う服持ってるか?今のお前は瑠依と同じくらいの身長だからな。サイズが合うだろ?だから貸すってよ」

「むう。瑠依にありがとうって伝えておいてくれ」


―――そのような事があり、蓮は学校に女子用の制服を着ていく事になった。渋々と制服に着替え、チョーカーを身に着けて1階へ降りる。すると、朝食の支度をしていた蓮の母が驚いた顔で言った。


「あら、蓮。元に戻ったの?」

「あー、これは…元に戻ったというか、応急処置というか…」

「ふうん。まあいいわ。ご飯あるから食べなさい」


 適当な説明をしたのに、意外とすんなり聞いてくれたので拍子抜けした蓮だったが、遅刻しそうな時間になってきたので慌てて朝食をかき込み、登校準備をして外を出た。


 錐野がくれたチョーカーの効力は十分に発揮された。学校でクラスメイトに会っても、誰も蓮が女の姿になっている事に気付かず、いつも通りの挨拶を交わして終わる。声も蓮が男だった時の声にチョーカーが変換してくれる為、周囲は蓮の体の変化に全く気付かない。

 誰も自分の異変に気付く者がいないのは少し寂しい気もしたが、バレたら大騒ぎになる事は目に見えているので仕方ない。チョーカーをくれた錐野に感謝したところで、チャイムが鳴る。


 教師が出欠を取っている間、妙な視線を感じたので蓮が辺りを見回すと、あるクラスメイトとばっちりあった。


 目が合ったクラスメイトの名は照原(てるはら)日衣菜(ひいな)。明るい性格と社交性の高さから、広い交友関係を持つ女子である。

 太陽の日差しのような眩しさを放つ金髪が特徴的な彼女は、前の方の席に座っているにも拘らず、斜め左後ろの席にいる蓮をじっと見ている。蓮は非常に嫌な予感がしたが、杞憂である事を願った。


 朝礼が終わると、教室内が少しにぎやかになる。さっきの視線が気のせいでありますように、と蓮は思っていたが、そのささやかな希望はすぐに打ち砕かれる。日衣菜は蓮の席の目の前まで来て言った。


「君、転校生?そこって来条君の席だったと思うんだけど…」


 蓮の嫌な予感は的中した。


「照原にはさ、俺が女の子に見えちゃったりしてる?」

「?女の子だけど…あー、そういう」


 日衣菜は、蓮の身に着けているチョーカーを見ると、全てを察したかのような顔をした。


「さて、どうしたものかな」

「な、何でチョーカーの効果が効いてな」


 蓮が言いかけたところで、照原が「しーっ」と言って口元に人差し指を当て、静かにするように合図をする。


「話がある。昼休み、屋上。わかった?」

「お、おう」


 日衣菜と蓮が昼休みに屋上で会う約束をしたところで、他の女子が日衣菜に話しかけてきたので、会話は中断された。別れ際、日衣菜は蓮の方をちらりと見たが、蓮は少し気まずくなり目をそらした。





 昼休みのチャイムが鳴ると、早速蓮は屋上に続く階段を上っていく。屋上の扉を開けると、日衣菜が一足先に来ていて、屋上の手すりに寄りかかって灰色の空を見ていた。昼頃から雨が降ると天気予報で言っていた通り、今にも雨が降りそうな曇り空だったからか、蓮と日衣菜以外は誰もいなかった。


「お、来条君。待ってたよ」

「ごめん待たせた。話って何?」


 日衣菜は蓮の方を見て軽く微笑む。日衣菜とは普段話す機会が少なかった為、蓮はどう話を振っていいかわからず、ぎこちない話の振り方をしてしまった。日衣菜は自分自身の首元を指で指しながら言った。


「そのチョーカー、赤崎錐野のでしょ」

「え、何でわかんの」

「知ってるよ。彼、魔法使い界隈では有名人だから」


 蓮は錐野の言っていた事を思い出す。チョーカーは魔法使いには通用しない。日衣菜にチョーカーの効果がないという事は、まさか。蓮は恐る恐る聞いてみる。


「まさか、照原も魔法使いだったりするのか?」

「うん」

「まさかクラスメイトにいるとはな…」

「あははっ。残念でした」


 日衣菜はいたずらっぽく笑った後、少し間を置き、話を切り出した。


「で、何で女の子になっちゃったの」

「なんか、影とかいう奴の仕業らしい」

「そう?私は魔法使いの仕業だと思うけどなー。案外近くにいたかもしれないよ?君を女の子の姿にした人が」


 日衣菜はそう呟くと、再び今にも降り出しそうな曇り空を見上げる。何でそう思うのか、蓮が聞こうと思った時、頬に冷たい雨粒が当たる。雨粒が屋上のコンクート床に次々と落ちていく。


「あー、やっぱり雨が降ってきちゃったか。教室に戻ろうか。さっきの話、ただの勘だから気にしないで」

「…わかった」


 2人は小走りで校内に入り、日衣菜が他のクラスメイトに用があると言った為、それぞれ別の行動をとる事にした。





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