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52話 暗雲(1)


 紫夜が中学生だった時の事だ。鏡界で三人の魔法使いが遺体で見つかった事件があった。三人とも中学生の魔法使いで、一人は女で、二人は男だった。三人とも心臓に刃物で突き刺された痕があり、それが原因で死んだらしい。

 遺体は魔法使いにより現界へ運ばれ、魔光会はその対応で色々と大変だったらしいが、最終的にこの件は現界では殺人事件として扱われた。当然、一般人は鏡界や影の存在を知らないので、犯人は人間であると考えていた。だが実際は影に殺された可能性が高い。魔光会の上層部はそう考えたが、一つだけある疑問が残っていた。


 殺された三人の魔法使いは全員同じチームで活動していた。しかし、このチームにはもう一人メンバーがいた。それが奈月癒枝だった。そもそも事件が発覚したのは、奈月がその遺体を発見して魔光会へ報告したからで、この事件の第一発見者が彼女だったのだ。

 奈月の話によると、自分含む四人が探索任務に向かう途中、突然何者かからの襲撃に遭い、気付いたら自分以外のチームメンバーが殺されていたという事だった。


 では、何故奈月だけ襲撃に遭わなかったのか?彼女に聞いたが、それはわからないとの事だった。犯人が影だったとして、一体何の目的があって三人を殺し、奈月だけ生き残ったのだろうか。魔光会の上層部のみで行われた臨時会議。そこで一人の魔法使いがある仮説を立てた。


―――奈月癒枝が三人を殺したのではないか。


 奈月の特殊魔法は『心読(しんどく)感知(かんち)』と呼ばれる相手の心を読む事ができる能力を持つ。攻撃特化の魔法ではないので、チームでは戦いを支援する位置にいるかと思いきや、彼女はむしろその逆だった。彼女は武器の扱いに長けていて、メイン武器の大鎌だけでなく、大型のナイフも任務中は常に携帯していて、チームの中で一番多くの影を仕留めていた。

 奈月のいたチームはBランクだったが、奈月だけはAランクチームにいてもおかしくない実力の持ち主で、チームメンバーの中では一人だけ浮いていたくらいだった。


 その背景を考えると、奈月が三人を殺した可能性は否定出来なかった。とはいえ、影が奈月の実力を察して勝てないと判断してそのまま引いたという線もあるので、結局のところ犯人はわからないまま、臨時会議は終わった。


 その後、この事件は魔法使いの間では知らぬ者はいないほど話が広まっていき、奈月癒枝の名前も知れ渡り、様々な憶測が飛び交った。奈月を犯人だと思う者は少なくなく、奈月は魔法使いの世界での居場所を完全に失った。奈月は事件の後、魔法使いとしての活動を一切しなくなった。


 この事件は現在も未解決事件として、犯人がわからないままの状態が続いている。





「証拠もないのに奈月を犯人扱いするなんて、酷いじゃないか!」


 紫夜の話を聞き終わると、蓮は怒りによって震えた声で言った。それを聞いたベンチの近くにいた人達が一瞬蓮の方を見たが、所詮若者の喧嘩だろうと思ったのか、すぐに目線を逸らした。

 奈月は労力を割いて蓮に魔法使いのあれこれを教えてくれた。そんな親切な人間が人殺しをするはずがない。そんな奈月を、ただ同じチームで一人だけ助かって、武器の扱いに長けていたと理由だけで犯人扱いをされるのはあまりにも酷な話だ。


「僕もその話を聞いた時、奈月癒枝が犯人だとは思っていなかった。証拠もないからね、影の仕業だろうとう当時は考えていた。だけど、蓮と会っていると聞いてちょっときな臭くなってきた」

「何がだ?奈月は親切心で教えてくれただけだ」

「蓮じゃなかったらそうだったかもね。だけど、蓮。君は今何者かに狙われている。君自身が特別な存在なんだ。そこに奈月癒枝が関わってきたとなるとやはり怪しい。彼女、錬ノ間にいたんだよね?魔法使いをやめたはずの彼女が何故?」

「また再開するって言ってた」

「ほら、やっぱり怪しい。僕も詳しくはわからないけど、例えば奈月癒枝が影と繋がっていて…」


 紫夜が言い終わる前に蓮は無言でベンチから立ち上がり公園を後にする準備をし始めた。


「どこに行くの」

「家に帰る。紫夜が俺の事を心配してくれるのは嬉しいよ。でも、奈月は本当にいい奴なんだ。そんな事言わないでくれよ」

「そうだね、悪かったよ。でも一応今の話は覚えておいてくれないか」

「…わかった。じゃ、俺はこれで」


 蓮はそう言って足早に公園を後にした。その後ろ姿を見送りながら、紫夜はわずかに笑みを浮かべたまま「怒らせちゃったかな」と周りに聞こえない小さな声で呟いた。



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