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5話 いきなり人形が話しかけてくるのは普通に怖い


「それで、これからどうするんだ?」


 蓮はティッシュで鼻をかんだ後、錐野に今後の事を聞いた。散々泣いてしまったせいか、鼻が少し赤い。錐野はズボンのポケットから、古びた鍵を取り出して言った。


「まずは、お前を加藍からん様に会わせる」

「カラン様?誰?」

「魔法使いで構成された、魔光会まこうかいっていう組織がある。魔法使いは皆、魔光会に所属して、そこで与えられる影退治任務を受ける。加藍様はその魔光会の会長だ」

「そんな偉い人に会いに行くのか…ていうか、どこに行くんだよ?」

「鏡界へ行く」


 錐野は持っていた鍵を頭上にかざし、空を切り裂くように縦に振った。すると、突然黒い霧のようなものが蓮達の前に現れた。

 黒い霧は次第に形を作り、楕円状の真っ黒な異空間が出来上がった。蓮が恐る恐る近づいて覗いてみると、その空間は触れれば飲み込まれてしまうのではないかと思う程、真っ暗であった。


 今までに見た事のない現象に、蓮は言葉を失ってしまったが、錐野は説明を続ける。


「この真っ暗な空間が鏡界への入り口だ」

「えっ。これ、何?触って大丈夫なやつ?」

「行くぞ。ほら、普通に入れるだろ」


 錐野はそう言って得体の知れない異空間に平気な顔をして足を突っ込むので、蓮は面食らい、不安になって反射的に後退ると、錐野は彼の腕を力強くグイッと引っ張って異空間まで引き寄せた。その反動で、蓮は床に躓き、そのまま異空間に顔から突っ込んだ。


「うわー!真っ暗なんだけど!怖いんだけど!」


 蓮は思わず叫んで目を瞑るが、別に何が起きる事もなく、恐る恐る目を開けると、そこは小さな1つの部屋だった。

 床も壁も一面真っ白で、3つの木製の黒い扉が並んでいる以外は何もない。蓮が部屋を見渡して動揺している中、すぐ隣で咳払いが聞こえた。


「…腕を離してくれないか」

「あ、ごめん」


 異空間に入る時に咄嗟に掴んだ錐野の右腕を、蓮はぱっと離す。錐野は非常に気まずそうな顔をしている。何か気に障る事でもしてしまったのだろうか。無意識に錐野の右腕を両腕でがっしり掴んでしまったのがよくなかったのだろうか…蓮は色々考えたが、よくわからなかった。


 実際のところは、蓮の豊かな胸が、錐野の右腕に押し付けるような形で当たっていたから…という理由なのだが、蓮がそこまで気付く事はなかった。


「ここはどこだ?」

「もう鏡界の中だ。ここは『(つなぎ)(のま)』といって、鏡界の玄関的な役割を持つ空間だ。鏡界に入る時は必ずここを通る」

「へえ…あのドアを開ければいいのか?」


 蓮は試しに、3つ並んでいるうちの1つの扉を選んで開けようとしたが、鍵がかかっていた。


『ようこそ、繋ノ間へ。どこへ行かれますか』


 突然後ろから幼い女の子の声がしたので蓮がふり返ると、そこには西洋風の人形が古びた木製の椅子に座っていた。

 さっきまでは椅子も人形もいなかったはずなのに、いつの間に置かれたのだろうと疑問に思いながら、蓮は人形を前にやや身構える。人形本体が話しているのではなく、声の主は別の場所にいるようだ。それはまるでホラー小説の導入部分のようで、非常に不気味な光景であった。

 しかし、錐野は喋る人形の事はまったく気にしていないといった様子で、人形の質問に答える。


「加藍様に会わせてほしい」

『かしこまりました。では、『(ほし)(のま)』へ繋ぎます。一番右の扉を開けてください』


 人形の言う事に従い、錐野が扉を開けると、頂上が見えないほど長い階段が2人の前に表れた。真っ暗な空間の中、階段のみが、淡く白い光を放っている。

 これからこの階段を上る必要があると察した蓮は、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「上るの?これ。どこまであるんだよ」

「星ノ間はこういう仕様なんだよ。お前、別に運動神経悪くないだろ?」


 2人は黙々と階段を上り始めたが、沈黙に耐えかねた蓮は錐野に話しかける事にした。


「なあ錐野。星ノ間ってなんだ?」

「星ノ間は、加藍様がいる部屋だ」

「鏡界って影がいるんだよな?俺みたいな魔法使いじゃない人間が行っても大丈夫なの?危なくない?」

「それは大丈夫だ。影が侵入出来ないように魔法で細工された場所が、鏡界内にいくつかある。さっきの繋ノ間もそうだし、これから行く星ノ間もそうだ。『間』がつく場所は鏡界内において安全ってわけだ」

「なるほど」


 そうこう話しているうちに、2人は最後の段を踏み切って上り終えていた。目の前には、階段と同じく白い光を放つ扉が1つあった。




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