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44話 錐野救出大作戦!(5)


 影の少女は鏡界へ帰っていった。新しい恋を探すといって意気込んでいたので、蓮は「いい相手が見つかるといいな!」と応援の言葉を送ると、彼女は嬉しそうに笑った。


 遊園地に後にし、家まで一緒に帰る事になった蓮と錐野は、電車に乗って席に座った。車内は人がまばらで、同じ車両にいる他の乗客は二、三人程度だった。

 無事問題が解決した安堵からか、上機嫌になった蓮は観覧車から降りた後、園内にあるお土産屋に寄って遊園地のマスコットキャラクターのぬいぐるみを買った。席に座って膝の上に乗せた袋から覗くぬいぐるみを見て、蓮は思わず頬が緩む。錐野はそんな彼を微笑ましく見ていた。


「なあ、錐野。さっきの影の子が言ってた話、俺が女の体になった事と関係あると思うか?」

「どうだろうな。お前、体を乗っ取らせてくださいって言われて、いいですよって言うか?」

「言わないな。怖いもん」

「…それが大事な友達だったら?例えば俺とか」

「錐野が?言わないだろお前はそんな事」

「当たり前だ。言ったらの話だよ。」


 蓮は少し考える素振りをした後、真剣な顔つきで言った。


「…もし、お前がそれを俺に頼む事があったら、余程追い詰められているわけで…その乗っ取りって行為が、お前にとって凄く大事な事なんだとしたら……多分、いいよって言うと思う」

「死ぬんだぞ?それでもか」

「まあ、うん」

「断れ馬鹿。自己犠牲も大概にしろ」


 錐野は軽く笑って、自分より背丈が低い蓮の頭をコツンと軽く拳で叩いた。急に頭を叩かれた蓮は頭を押さえて錐野を見たが、彼の顔は笑っていないかった。

 今の質問には何の意味があったのだろうか。蓮が聞いても錐野は黙ったまま答えてくれなかった。





「今日はありがとうな、蓮。お前がいてくれて助かったよ」


 家の前まで着いた二人。その別れ際に錐野が礼を言った。


「錐野にはいつも助けられてるしこれぐらいはしないとな」


 蓮はそう言って家の門の取っ手に手をかけて押すと、鉄の軋む音がした。錐野はまだこっちを見ている。


「蓮、あのな…」

「ん?」


 声をかけられたので蓮は顔を上げる。錐野は何かを言いかけた様子だったが、何か思い止まったかのように途中で言うのをやめて、代わりに「じゃあな」と別れの言葉を言った後、自分の家の玄関へと入っていった。





 瑠依は台所で夕飯の支度をしていた。フライパンの上でジュウジュウと肉を焼く音が聞こえる。今日の夕食当番は錐野のはずだが、災難だった兄に対して気を利かせてくれたのだろう。ダイニングルームには料理のいい匂いが漂っていた。兄が帰ってきた事に気付いた瑠依は、台所からひょいと顔を出した。


「おかえり兄ちゃん!成功したっぽいね!」

「ああ。お前の作戦のおかげでな」


 瑠依は得意げな顔で「まあね!」と言い、フライパンに視線を戻した。錐野はダイニングチェアに座ってリモコンを手に取ったが、テレビの電源を付けずに瑠依に再び話しかけた。


「……なあ、瑠依」

「ん?何よ」

「蓮って俺たち以外にも仲の良い友達っているよな?」

「そりゃいるでしょ。チームの子とも仲良くやってるし。何で?」


 兄の質問の意図がわからず、瑠依は首を傾げる。錐野はリモコンを手にしたまま、電源が入っていないテレビの真っ暗な液晶画面を見ている。


「アイツは…蓮は、どうしようもなく怖がりでビビりなのに、自分にとって大事な人間の為なら命を懸けるような奴なんだ。俺はそれが怖い。アイツはいつか、誰かに命を捧げて死んでしまうかもしれない。そんな気がするんだ。昔から薄々気付いていた事だが、蓮は自分の命を軽く見ている。瑠依、お前もそう感じた事はないか?」

「ちょっと待って、何の話?」


 どんな事があっても動じない兄が何かに怯えているような、冷静さを失った口調で話してきたので瑠依は困惑した。瑠依の顔を見て我に返った錐野は、いつもの落ち着いた口調で言った。


「…今の話は忘れてくれ」

「うん、わかった」


 今の話は一体何だったのか、瑠依は不思議に思ったが、これ以上この内容に触れてはいけないような気がしてそれ以上兄に何も聞かなかった。





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