42話 錐野救出大作戦!(3)
日曜日、蓮と錐野は作戦通り遊園地でデートをする事になった。最初に蓮がデートに誘った時、一瞬錐野は驚いた顔をしたが、すぐに意図を察して頷いてくれた。
二人は最寄り駅で待ち合わせする事になった。家が近いのだから一緒に行けばいいのでは?と蓮は思ったが、「デートの待ち合わせは最寄り駅がいい」という瑠依のこだわりによりそうなった。
先に到着して待っていた錐野が携帯から顔を上げた。蓮は小さく手を振って声をかける。
「ごめん、待った?」
「いや、今来たところだ」
錐野はドリンクを飲んで魔力を補充したからか昨日の朝のような辛そうな様子はなく、いつもの調子に戻っていたので、蓮はひとまず安心した。錐野に憑いた影が今日は姿が見えない。瑠依曰く、姿を見えなくなっても憑いた影は魔法使いの後ろにずっといるらしい。蓮にとって、影の姿が見えないのは好都合だった。ずっと後ろから見られていては、気が散って仕方ない。
だが、問題はこれからだった。自分はこれから、錐野の恋人役をしなくてはならないのだ、いくら自然体とはいえ、友人の助けられるかどうかが自分にかかっている。緊張して顔がこわばっている蓮を見て、錐野はわずかに笑みを浮かべた。
「蓮」
「何?」
「服、似合ってる」
「お、おう…」
瑠依が選んでくれたデート用の服を急に褒められ、反応に困った蓮はぎこちなく言った。結局、四岐の時と同じ返しをしてしまったな…と、言った後にそう気付いた。
☆
遊園地に来たのは久しぶりだった。こういった賑やかな場所が苦手なのではなく、単に来る機会がなかった。錐野もそこは同じだったようで、園内で一際存在感を放つ観覧車を懐かしそうに見ている。
「遊園地に来るのは久々だな。最後に来たのはいつだったか…家族とだったかな。瑠依がまだ小学生の時だった」
「アイツ、こういうところに来ると凄いはしゃぎそう」
「そうだな。凄く元気に走り回ってた。放っておいたら迷子になりそうだったから俺がずっと見張ってた」
「ハハ、アイツらしいな」
あまりにも錐野がいつもの調子で話を振ってくるので、デートである事を忘れ、蓮もいつもの友達感覚で話してしまう。自然体でいいとは言われたが、本当にこんな調子でいいのだろうか。
周囲を見渡すと、仲良く手を繋いでいるカップルがいた。ああいった事をすれば少しはそれっぽい雰囲気が出るのだろうか。さすがに手を繋ぐのはハードルが高すぎるので、蓮は錐野の袖を軽く摘まんだ。
「…子供かお前は。迷子になりたくないのか」
「ち、違う!そうじゃない!これは…」
錐野の言う通りだった。これでは母親にくっつく子供のようだと気付いた蓮は、手をすぐに離した。
☆
メリーゴーランド、コーヒーカップ、ジェットコースター…瑠依の考えた計画に沿って、蓮達は次々と遊具に乗った。最初は緊張していたが、今はそれもなくなり、蓮は純粋に楽しんでいた。しかし、次に行く場所はどうやら楽しめそうにもない。
「もう外装だけで怖いんだけど…」
二人の目の前にあるのはお化け屋敷だった。建物のあちらこちらに血のようなものが塗られている。昨日、お化け屋敷に行けと瑠依から言われた時、蓮は猛反対した、しかし、結局言いくるめられてしまって今に至る。蓮は押しに弱かった。
お化け屋敷の前には何人か並んでいた。二人は後ろに並ぶと、蓮は憂鬱な表情で言った。
「もう既に生きた心地がしないな…」
「お前、こういうの苦手だよな。何で?」
「怖いからだよ!逆に何で錐野は怖くないんだよ」
「何でって言われてもな…」
錐野は理由を聞かれて返答に困っている様子だった。滅多に物事に動じない錐野が、蓮は昔から少し羨ましかった。自分も錐野くらい冷静でいられたらいいのだが、怖いものは怖い。
列が進み、自分達の順番が回ってきたので、スタッフの指示通り紫色の暖簾をくぐると、室内は薄暗く、ひんやりとした冷気が漂っていた。蓮は周囲を警戒しながら小さな声で呟く。
「霊的なものを感じる…」
「いや、冷房が効いているだけだろ」
二人が並んで歩いていると、急に前から人が勢いよく手を広げながら出てきたので、蓮が錐野の腕にしがみ付いて叫んだが、錐野は全く動じていない様子で真顔のまま歩き続けた。
その後も急に後ろから物音がしたり、冷たい風が吹いたりして、何かが起きる度に蓮は錐野にしがみついた。やっと出口が見えて外へ出ると、蓮は疲れ切った表情をしていた。それを見て、錐野がふっと笑った。
「蓮、お前は本当に面白いな。見ていて飽きない」
「うるさい」
「次は何にする?もう日が暮れてきたけど」
既に日は沈みかけ、空は綺麗なグラデーションを描いている。
「観覧車。それ乗って帰ろう」
「わかった」
瑠依が考えたデート計画の最後の遊具は観覧車だった。お化け屋敷で疲弊した蓮にとって、ゆったりした動きの観覧車が最後なのは救いだった。




