41話 錐野救出大作戦!(2)
「日衣菜ちゃん!ごめんね急に。ちょっと協力してほしい事があるんだけど…」
瑠依は作戦があると言った後、携帯で誰かと通話をし始めた。会話内容からして、相手は日衣菜だと思われた。一体日衣菜に電話して何を始める気なのだろうか。
暫くすると、誰かがインターホンを鳴らしたので、瑠依は階段を降りて玄関へ走る。そして彼女が部屋に戻ってきた時には、瑠依の隣にもう1人、見知った顔の青年、四岐が立っていた。
「やっほー!蓮!元気してた?今日も可愛いね!」
「何で四岐がここにいるんだよ」
「こわっ。そんな睨むなよ。笑った方が可愛いぞ?」
おどける四岐が癇に障ったのか、睨みつけている蓮の目がさらに鋭くなる。瑠依は、「はいはい喧嘩しないの!」と2人の間に割って入るようにして言った。
瑠依の考えた作戦とはまず、恋人のふりをした蓮が、明日の日曜日に遊園地デートの予定があるという設定で錐野に話しかけるところから始まる。事情を知らない錐野はおそらく困惑するだろうが、察しのよい彼の事なので瑠依の作戦だと気付いてくれるはずだ。
そして日曜日、デートに来た2人が仲睦まじいカップルっぷりを影に見せつける事で、錐野に憑いた影を追い払う…という内容だった。
「錐野、今魔力吸われて苦しいんだろ?デートどころじゃないだろ」
「それは大丈夫。魔光会特製魔力ドリンクを飲めば、消耗した魔力は補えるわ!冷蔵庫で冷やしてあるの。多分もう飲んでると思うから、そろそろ効いてる頃じゃない?それより!問題は!アナタよ!蓮!」
いつもに増して元気の良い声。瑠依は蓮に指をさす。何故この幼馴染みは兄がピンチの状態の時にこんなウッキウキなのだろか。何か企んでいるに違いないと思った。蓮は苦々しい顔をした。
「なんだよ。俺が頼りないってか?恋人のふりくらい出来るよ。多分…」
「多分じゃダメなのよ!ぶっつけ本番じゃ、絶対蓮と兄ちゃんはいつもの調子みたいな感じになって、恋人のふりをしてるってバレてしまうのは目に見えているわ。そこで四岐さんの出番ってわけ!」
名前を呼ばれて、今まで瑠依の話も聞かずに窓の外を見ていた四岐が振り向いた。
「俺の出番でーす」
「何でコイツの出番なんだよ」
四岐は上に群青色の半袖シャツ、下は黒のデニムパンツというスタイルで、以前ボロ布のような服着ていた時とは違い、見た目だけなら好青年だ。服を変えるだけでここまでイメージが違うものなのかと蓮は少し感心した。その視線に気づいたのか、四岐はからかうような薄笑いを浮かべる。
「どう?俺結構イケてるだろ?」
「うるせえ。何でお前はここにいるんだ」
「瑠依ちゃんに頼まれたんだよ。蓮がちゃんと恋人のふりができるように、ちゃんと練習させたいってな。俺は瑠依ちゃんの兄貴の代わり…つまり練習台ってわけだ」
「はあ?どういう事だよ瑠依」
蓮が不満げに瑠依に顔を向けると、彼女は「私って賢いでしょ?」と言ってウインクを飛ばした。全く賢くない。何故この男が錐野の代わりなのか。他の人間はいなかったのかと蓮が問うと、魔法使い関係の繋がりでの男の知り合いが四岐しかいなかったからだと答えた。
「細かい事はいいから早く始めるわよ!兄ちゃんのために、蓮は完璧な恋人を演じなきゃいけないのよ!ほらこれ着て!」
瑠依からデパートの紙袋を渡され中身を見てみると、綺麗に畳まれた服が入っていた。広げてみないとわからないが、おそらくデート用に着る服が一式揃っている。形から入れという瑠依のメッセージとして受け取った蓮は、着替えるために洗面所を借りた。
☆
「きゃー!似合ってるじゃない!」
着替えが終わって瑠依の部屋に戻ってきた蓮を見て、瑠依が黄色い声をあげた。ベージュ色のブラウスに赤色のフレアスカート。スカートは任務の時に散々履いてきたので慣れてきたのだが、いつも着ないタイプの服で、しかもデート用だと思うと蓮は心が落ち着かなかった。
「私が考えた遊園地デートプランを紙に書いてみたわ。それに沿って練習してもらうから」
瑠依は小さなメモ用紙1枚を蓮に渡す。そこには当日の遊園地デートのざっくりとした予定が書かれていた。最初の予定は『駅で待ち合わせ!彼女っぽくする!』らしい。本当にざっくりとしている。
瑠依に背中を押されて、蓮は四岐の隣に立たされた。瑠依は映画監督の気分にでもなったのか、腕を組みながら2人を見ている。もうトレーニングは始まっているらしい。最初に声をかけたのは四岐だった。
「蓮!待たせたな。今日の服、似合ってるよ」
「おう」
「俺、遊園地とか久しぶりだからさ…蓮も?」
「ああ」
「母音しか話さないじゃん…」
瑠依が「カットカーット!」と言いながら蓮に詰め寄った。
「こらー!蓮!彼氏の前で、そんなテンションの低い女の子いる!?」
「ごめん。どうすればいいのかわからなくて」
「駄目よ!ちゃんと恋人のふりしなきゃ…でもよく考えたら、いつも暗めの蓮にいきなりテンション高くしてってのも無理な話か…じゃあこうしましょ!私の物真似をしなさい!」
「瑠依の真似?…わかった。やってみる」
もう一度四岐の隣に立ち、最初のシーンからやり直す。四岐がまた同じやりとりを始めた。
「待たせたな。今日の服、似合ってるよ」
「ほ、本当?!気合い入れて選んだ服だから、う、嬉しいわ!」
蓮は恥ずかしい気持ちを堪えながら、顔を赤くして瑠依の真似をする。その姿がおかしかったのか、四岐は腹を抱えて笑った。一生懸命にやっているところを笑われた蓮は、まだ赤くなっている顔のまま怒った口調で言った。
「お、お前!何笑ってんだ!」
「いや、だって面白いから…俺、思ったんだけどさ。蓮は無理にテンション上げなくても、いつもの蓮のままでいいんじゃねえの?」
「何で?」
「恋愛にも色々な形があるからだよ。蓮は俺の事嫌いだから今はテンション低いけど、瑠依ちゃんの兄貴と一緒ならもうちょっと楽しそうにできるんじゃない?楽しそうにしている2人を見れば、影だってきっと諦めるさ」
「でも、それだと恋人じゃなくて友達だってバレないか?」
「確かに、瑠依ちゃんが想像しているようなカップルみたいなやりとりはできないだろうけど、友達みたいな関係の恋人だっているからな。今日、お前が“デート”って言って錐野を誘えばそれだけできっと、影はお前達を恋人だと思い込んでくれるはずだぜ」
悔しいが四岐の言う通りだと蓮は思った。下手な演技をした方が、逆に影に不審がられるかもしれない。だったら自然体で勝負した方がいい。
瑠依も四岐の話を聞いて納得したのか、少し考えている素振りを見せて言った。
「確かに四岐さんの言う通りだわ。先にデートって言ってしまえばとりあえず影からしてみれば蓮と兄ちゃんは恋人って思うはずよね。私ったら、蓮をおもちゃにするのが楽しくてつい大事な事を見逃してたわ。わかった。それでいきましょう」
「お前今、俺の事おもちゃって言った?」
結局、今までのやりとりは何だったのか。ただ瑠依に振り回されただけでは?蓮は色々言いたい事があったが、今は錐野の事が心配なので口をつぐんだ。




