表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/116

40話 錐野救出大作戦!(1)


「大変よ!蓮!」


 土曜日、5月の暑すぎず寒すぎずのちょうどよい気候の中、蓮はベッドで心地よく眠っていたところ、それを邪魔するかのように忙しなくインターホンが鳴ったので玄関まで行って出てみれば、焦った表情の瑠依が立っていた。

 今は朝の7時で、蓮はまだ眠気が覚めていなかった。半分目を開けた状態で少し不機嫌そうに瑠依の方を見る。


「瑠依か…なんだよこんな朝っぱらから」

「お兄ちゃんが変な女に憑かれたのよ!」

「は?」


 起きたてでまだ上手く頭が回らない蓮は、瑠依の言っている事がよく理解できなかった。呆然としている蓮の手を引っ張り、瑠依は隣合わせになっている赤崎兄妹の家に半ば強引に連れて行った。





 瑠依に連れてこられたのは錐野の部屋の前。そっと瑠依が扉を開けると、錐野は床に足をつけて、ベッドの上に猫背気味になって座っているが少し様子がおかしく、辛そうな表情をしている。

 だがそれよりも最初に目についたのは、錐野の背後にいる半透明になっている女の姿だった。女は腰まである長い髪をしていて、前髪が長くて顔が見えない。例えるならば、それは幽霊のようなものだった。蓮は咄嗟に瑠依に後ろに隠れる。


「き、錐野の後ろに、ゆ、幽霊が!」

「あれは幽霊じゃない。影よ。兄ちゃん、昨日任務で鏡界に行ってたんだけど、その帰りに憑かれたみたい」


 蓮は目の前にいるのが幽霊じゃないと知って一瞬安心したが、錐野に影が憑いている状況はどうにかしないといけない。


「錐野が自分で退治できないって事は相当強い影って事なのか?」

「いえ、むしろあれは人型ではかなり弱い部類に入るわね」

「じゃあ何で錐野は退治しないんだ?」

「場所を変えましょうか」


 瑠依は人差し指を口元に当てる。どうやら影に聞かれたらまずい内容らしく、瑠依の部屋に行く事になった。





 瑠依の部屋は魔法用のぬいぐるみが沢山置かれていて、花柄のカーテンや水玉模様のカーペット等、可愛らしい雰囲気の部屋になっている。瑠依と蓮は床に2つ置いてあるクッションの上にそれぞれ座った。


「さっきの幽霊みたいな影…あれはね、多分お兄ちゃんに惚れたんだわ」

「は、はあ?錐野に?影が?てか、何でそんな事がわかるんだよ」


 確かに錐野は女子にモテるタイプの男だが、何故そんな事が瑠依にわかるのか。瑠依は勉強机の引き出しから一冊のノートを取り出し、文字がびっしりと書かれているページを開いて蓮に見せた。


「人型ではよくいるタイプの影なのよ。恋に関する記憶の欠片を持った影が、時々ああやって鏡界にいる魔法使いに憑く事があるの」

「でも確か影って現界には長い時間いられないんだろ?」


 魔力を食糧とする影にとって、魔力がない現界での活動は制限される。いくら人型でも、ずっと錐野に憑いていてはそのうち限界がくるはずだ。


「そうよ。でもこのタイプの影は魔法使いに憑く事で自分の魔力を魔法使いから吸い取るから、現界にい続ける事が可能らしいわ。逆に言えば、兄ちゃんが魔力を吸われているから、今結構しんどい状態だと思う。魔力ってなくなると元気がなくなるって言うし」

「じゃあ早く何とかしないと!対処法とかないのか?」

「影によって対処法は異なるわ。で、今回私が試してみようと思うのは…」

「思うのは?」


 もったいぶって答えない瑠依に痺れを切らす蓮。すると、彼女は蓮を指さして言った。


「蓮!アンタが兄ちゃんの恋人になりなさい!」


 一瞬時が止まったかのように沈黙が流れる。言われた事がすぐに理解できない蓮。やがてその意味を理解し、蓮は間の抜けた声を出した。


「は…はあ~!?」


 この幼馴染みは何を言っているのか。今まで影の対処法について話し合っていたはずなのに、唐突にそんな事を言われたら正気を疑うのも無理はない。


「正確に言うと恋人の“ふり”をしてほしいの。恋の記憶からできた影が魔法使いに憑いた例は今までも何件も魔光会に報告されているわ。でも、どの魔法使いも影の退治に成功していてね、その中で一番効果的だったのが憑いた魔法使いに恋人がいると思わせる方法…つまり、影に失恋させるって事ね」

「俺と錐野が恋人の関係にあるように見せて、影に誤認させるって事か。最初からそう言えよ。びっくりしただろ…」


 蓮は既に疲れた表情をしている。瑠依の言い方は心臓に悪い。とはいえ、恋人のふりをするという話もそれはそれで厄介だ。錐野は友人であって、恋愛感情を抱いた事はない。それどころか、恋愛経験もないのにいきなり恋人のふりをするというのは難しい話ではないだろうか。そもそも、蓮は恋人の演技ができるほど器用な人間ではない。


 だがどんなに難しくても、大事な友人が困っているのだから助けないといけない。蓮は決意を固めて言った。


「…わかった。俺、やるよ」

「蓮ならそう言ってくれると思ったわ!今後の事なんだけど、私に作戦があるの!」

「へえ、もうそこまで考えているのか。で、作戦って何?」

「フフフ…まだ秘密!」


 不敵な笑みを浮かべる瑠依。嫌な予感しかしない蓮は、急に不安になった。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ