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38話 恋バナ(?)


「いやー良かった良かった!一件落着って感じ!」


 洋館における問題は全て解決し、任務から帰る途中瑠依が満足そうに言った。


「明ちゃんが消えちゃったのは寂しいけどな」


 地下室からサキが出てきた後、自分の願いが叶った明は消滅した。もう会えないのは寂しいが、消える直前に彼女は笑っていた。だからあれでよかったのだと、蓮はそう思った。

 サキは今後、迷と一緒に暮らす事になり、迷と一緒に現界へ帰っていった。別れ際に迷からチームへのお礼の品としてもらった手作りのぬいぐるみを腕に抱えながら、瑠依が言った。


「あのサキってお人形さん、とっても綺麗だったわ!ちょっと雰囲気が夢乃に似てたわね。同じピンク色の髪だし」

「なっ!るーちゃん!?そ、そんなわけないじゃないですか!わ、私なんかと比べたらサキさんに失礼ですよ!」


 似てると言われて、夢乃が想像以上に焦って否定したので、少し驚きながらも瑠依は「え?なんかごめん」と謝った。似てるって言われて、そんなに焦るものなのか?と、そのやりとりを傍から見ていて蓮は疑問に思ったが、言及するほどでもなかったので特に何も言わなかった。 





 藤井に今日の任務の報告をした後、現界に戻ってきた蓮は私服に着替えて買い物をした帰りに、家の近くにある川沿いを歩いていた。川の近くにある広場で子供たちが鬼ごっこをして遊んでいるのを見ていると、さっきまであった出来事が夢だったんじゃないかと思ってしまうほど、鏡界の出来事はどれも非現実的であった。

 川沿いに広がる草をぼんやり眺めていると、1人の少女が川の方を見て座っている事に気づく。その少女の顔に蓮は見覚えがあった。


「……奈月?」

「え、来条君。何でここに?」


 蓮に突然名前を呼ばれて振り向いたその少女は、奈月癒枝だった。いつも落ち着いた様子の奈月が、今日は珍しく驚いた顔をしている。現界で蓮に会ったのがそれほど意外だったらしい。


「俺、ここら辺に住んでるから。師匠は何でここに?」

「ハハ、師匠とかウケる。そんな大した事してないでしょ。私もそこそこ近所に住んでるよ。ここ、落ち着くからぼーっとしてた」

「あー、ちょっとそういうのわかるかも。邪魔してごめんな?じゃあ俺はこれで…え?」


 その場を立ち去ろうとした蓮の服の袖を奈月がぐいと掴む。奈月の視線は川の方を向いたままで、蓮は何故掴まれたのかわからない。


「ちょっと話そうよ。せっかく現界で会えたんだし」

「お、おう……いいけど」


 蓮は隣に座るが、奈月はずっと川の方を見ていて、蓮の方に視線を向けない。奈月は親切な子だが、積極的に話をするタイプだとは思っていなかったので、彼女から話をしたいと言ってきたのは少し意外だった。蓮が奈月の方に目をやる。片耳に三日月の形をしたピアスをつけている奈月の横顔は、どこか悲しそうだった。

 お互い何を話していいのかわからず、沈黙の時間が暫く続く。先に話を切り出したのは奈月だった。


「来条君ってさ、恋ってした事ある?」

「こ、恋!?」


 急に予想もしていなかった話題を出され、蓮は困惑した。これが噂の恋バナというやつなのだろうか。そうだとしたら話す相手を完全に間違えている。今まで恋とは無縁の生活を送ってきた蓮は、返答に困ってしまった。


「な、ないけど…何で?」

「私、好きな人がいるの」

「そ、そうなんだ。なんかちょっと意外だな」

「でもその人、いつか私の事を殺すと思う」

「は、はあ!?何で?」


 蓮は面食らった顔で聞き返した。恋バナというからには少女漫画のような青春っぽい話を想定していたが、蓋を開けてみれば恐ろしく殺伐とした内容だった。一瞬冗談かと思ったが、奈月の真剣な表情を見るかぎり、どうやら本当の事らしい。こんな恐ろしい話をしておいて、当の本人は表情一つ変えずに依然として川の方を見続けている。


「んー、なんていうかさ。人類の敵みたいな人なんだよね」

「なんだよそれヤバイ奴じゃん。早く関係切った方がいいって」

「そうなんだけどね…なんか好きになっちゃったんだよね」


 人類の敵というからには、奈月の思い人は相当悪い事をしているのだろう。何故そんな人を好きになってしまったのかは蓮にはわからないが、関係を切った方がいい事は確かだ。


「奈月が殺されるの、俺は嫌だよ…。マジでやめとけよ」


 奈月とはまだ短い付き合いだが、蓮にとっては大鎌の使い方や魔力の扱い方を教えてくれた恩人だ。いくら奈月がその人を好きとはいっても、黙って見過ごすわけにはいかなかない。しばらく沈黙の時間が続いた後、奈月は蓮の方を向いて微かに笑みを浮かべた。


「ハハ、冗談だよ。冗談。来条君、からかうと面白いから」

「…本当に冗談なのか?」

「うん、本当に冗談」


 さっきの表情は冗談のように見えなかったが、これ以上話を続けてもはぐらかされて終わりな気がした蓮は、訝しげな表情のまま小さな声で「そうか…」と呟いてその話をするのをやめた。


 その後、蓮と奈月は他の話をして日が沈み始めた頃に別れたが、結局奈月が何を考えているのかわからなかったので、蓮は頭の中でもやもやしながら家への帰り道を歩いた。




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