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34話 人形が住む洋館(6)


 少しの間気を失っていた蓮が目を開けると、そこは何も見えない真っ暗な空間だった。座り込んだ状態から立ち上がろうとすると、途中で頭に何かがぶつかったので目線をそちらに向けると、天井に吊るされた人形とばっちりと目があった。


「ぎゃーーー!!!」


 突然目の前に人形が現れて、蓮は悲鳴を上げる。反射的にその場で後退るが、その過程で床に躓いて尻もちをつく。元々暗い場所もお化けも大の苦手の蓮にとって、今の状況は耐えられそうになかった。吊るされた人形と目を合わせたまま、蓮は力なく呟く。


「こ、こわい……」


 蓮の頭に生えているウサ耳は下に向かって垂れている。涙を目に溜めながら周囲を見渡すと、暗いところに目が慣れてきたからか、周りの状況がわかるようになってきた。木製の壁に土でできた天井。あちらこちらに小さな西洋人形が置かれている。


「ここ、地下室…だよな?」


 床の扉の先は全て地下室に繋がっているというアスの話を思い出す。確かに今いる場所は地下室のイメージにぴったりな、暗くて閉鎖的な空間だ。扉は内側からは鍵が開かないようになっているので、外から開いてもらうしかない。アス達が助けにくるまで大人しく待つ事にした蓮は、壁にもたれて床に腰を下ろした。

 何もする事がないので、自分が今人形だらけの地下室にいるという現実から逃れるために、恐怖心をやわらげようと蓮が目を瞑ると、頭の中で様々な思考が渦巻きはじめた。


 ―――早く誰か助けにきてほしい。暗いのは怖い。何か楽しい事を考えるのはどうか。楽しい事?甘いものが食べたい。そういえば家の冷蔵庫にプリンが冷やしてあった。帰ったら食べてしまおう。母さんの分だけど、まあいいか。こんな事があった後なんだから、罰は当たるまい……。


「君、どうしてこんなところにいるの?迷子?」


 別の事を考えていた時に突然話しかけられ、蓮の心臓は跳ね上がる。


「ひっ!ごめんなさいっ!人のプリンを食べようとして!」

「プリン?なんの事?」


 恐る恐る目をゆっくりと開けると、目の前にいたのはしゃがんで蓮の顔を覗きこんでいる少年。その姿に思わず蓮は目を見開いた。


 中性的な顔立ちをしたその少年は白いロングワンピースを身に纏っていた。腰まで伸びている薄桃色の長い髪は、暗闇の中でも光を放つかのように輝いている。透き通った白い肌、宝石のように煌めく青色の瞳―――神秘性すらも感じられるその容姿を目にした蓮は呆然とする。少年は心配そうに蓮を見つめているが、その目はどこか無機質である。


「僕はこの地下室に住んでいる人形、名前はサキ。君、糸形家の人間じゃないよね?どうしてここに来たの?」


 蓮が事のあらましを話すと、サキは吹き出して笑った。


「ハハッ!なんだよそれ!そのアスって子、かなり天然だな!同じ人形として、一度会ってみたいよ」

「会えばいいじゃん。多分この後、地下室まで迎えに来てくれると思うし」


 人形なのに人間のように無邪気に笑うサキを見て、彼に少し親近感を覚えた蓮が何気なくそう言うと、サキは少し顔を曇らせた。


「それはできないよ」

「何で?」

「んー、まあ。色々あるんだよ」


 サキは蓮から目を逸らして言葉を濁らせる。何か言いにくい事があるのかもしれない。そう考えた蓮は話を変える事にした。


「…話は変わるんだけど、この周りにある人形って誰が作ったの?」


 地下室のあちらこちらに散らばっている、メイド服を着させられた西洋人形達を見て、ずっと気になっていた事を蓮は聞いた。


「迷だよ。彼女が10歳の時、僕が寂しくないようにってね、いっぱい作ってくれたんだ。迷は変わった子でね。よくこの地下室に遊びにきてたんだ」 


 サキは懐かしそうにそう語り、その表情はどこか寂しそうだった。





 蓮とサキがしばらく会話していると、ガチャン、と鍵が開く音がした。それと同時に、扉を開けたアスが申し訳なさそうに地下室に入ってくる。蓮の姿を見つけ、アスは安堵した表情で言った。


「ら、来条さん!無事でよかった…ご、ご迷惑をおかけして、申し訳ございません…っ!」


 アスは謝罪の言葉を述べながら、物凄い勢いで頭を上下に振っている。


「そんなに謝らなくていいよ。それよりほら、アスさんに会わせたい子が…あれ?」


 アスにサキを紹介しようと思った蓮は、彼がいた方を振り向くと、その姿は忽然と消えていて、辺りを見渡してもどこにもいなかった。 




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