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31話 人形が住む洋館(3)


 アスが洋館の扉を開けると、そこは広いホールになっていた。明かりはついていないが、窓から差し込む昼光のおかげで薄暗い程度で済んでいた。下には質の良さそうな赤い絨毯が敷かれ、天井にはシャンデリア、ホールの中央には大きな女性の石像が飾られている。


「さっそくおでましのようですね」


 アスがそう言った直後、石像の裏からメイド服を着た黒い髪の女性が、音を立てずに蓮達の方へ向かってゆっくりと歩いてくる。それは糸形家の製作した人形のうちの1体であった。誰かに操られている。おそらく洋館を乗っ取った者の仕業だろう。蓮達は武器を出そうとしたが、アスが止める。


「お待ちください。あれはミラといって、迷様のお父様が作った大切な人形です。なるべく穏便に済ませたいです」


 ミラは赤い目をギラギラと光らせ、鎖鎌を構えて今にも攻撃してきそうな様子である。


「瑠依さんの『人形操作』で魔力を解除すれば、ミラも止まります」

「私の魔法、発動するには対象のものに触れなきゃ駄目なんだけど、どうしようか」


 『人形操作』を発動させるには、操作する人形に直接手で触れる必要がある。普段は自分で作った人形が対象なので、その条件は容易く達成できるが、今回の相手は鎖鎌を持って攻撃態勢に入っている人形。抵抗する相手に触れる事は、そう簡単な事ではない。その上こちらは武器を使えず、素手での戦いに慣れている者はこのチームにはいない。


 さて、どうやって相手の行動を封じるか―――瑠依が考えていると、日衣菜が彼女の肩を指でトントンと軽く叩いた。


「出そうか?アイツ」

「え…でも、嫌なんでしょ?」

「嫌でも使うべき時は使わなきゃ」


 何の話をしているのかわからない蓮がきょとんとした顔で2人を見る。日衣菜は暗い表情で指をパチンと鳴らすと、彼女の目の前に突然、黒く塗られた棺が出現した。


 日衣菜はなにやら不機嫌な様子で、その棺を強く蹴り上げ、縦に立った状態にした。


 なんて罰当たりな!蓮は彼女の行動を見て動揺する。蓮が知っている日衣菜は、クラスでも明るく社交的で優しい女の子。こんな乱暴な事をするような子ではなかったはずだ。


四岐(しき)!出てきな!」


 日衣菜が今までに聞いたことのないくらい荒々しい口調でそう叫ぶと、縦になった棺の蓋の部分が、内側から誰かが蹴ったかのように勢いよく外れ、中から1人の若い男がのっそりと出てきた。棺から出てきたその男は、土で薄汚れた服を着ていて、髪もボサボサの状態で肩半分まで伸びている。男の表情からは生気が感じられない。


「四岐。目の前にいるメイド服の人形、素手だけで動きを封じて。傷つけたら駄目。アンタならできるでしょ?」


 四岐と呼ばれたその男は、日衣菜の命令口調に特に気にしていないといった様子で、低い声で「おう」と返事すると、ミラの方へ向かって走りはじめた。


 ミラの投げた鎖鎌の攻撃を、四岐は最低限の動きでかわして距離を詰め、背後をとる。ミラが後ろを振り向く前に、素早く彼女の両腕を掴んだ。身動きできなくなったミラは、何とか四岐の腕から逃れようとするが、男の力が強いのか、びくともしなかった。


 四岐はミラの腕を掴んだまま、気だるげに日衣菜に話しかける。


「おーい。これでいいの?」

「瑠依ちゃん、今のうちに魔法を!」


 瑠依はミラの近くまで行き、額の部分を手で触るとミラは一瞬にして動かなくなった。


「魔力の上書きができたわ。これでこの子はもう大丈夫」

「ありがとうございます」


 アスは礼を言うと、動かなくなったミラを抱えて部屋の隅にそっと置いた。


 ミラをアスに渡して手が空いた四岐は、再び日衣菜に話しかけようとしたが、その隣にいた蓮の姿を見て目を見開き、動きを止めた。

 四岐の視線がこちらに向いていると気付いた蓮は、反射的に後退るが、四岐は目を細めながら徐々に近付いてくる。蓮の顔を近距離で凝視した後、彼は先ほどまでの様子からは考えられないほど高いテンションで言った。


「何コイツ!可愛い!すっげー俺のタイプなんだけど!誰?新入り?」

「は、はあ!?」


 急に可愛いなどと言われ、素っ頓狂な声をあげた蓮を見て、四岐は目を輝かせる。日衣菜にはいつもの優しい雰囲気はなく、冷たい視線を四岐に向ける。


「その子は来条蓮。新しいチームのメンバー。早く来条君から離れて」

「へー。来条蓮って言うのか。よろしくな蓮!俺は四岐!」


 日衣菜の忠告に全く耳を貸さずに、四岐は蓮を後ろから抱きしめ、蓮の頭に顔をうずめる。


「ひっ」


 四岐の鍛え上げられた硬い筋肉が布越しに体に当たり、あまりにも突然の出来事に蓮は硬直した。


「髪がふわふわ……可愛いな…」


 四岐は蓮の柔らかな髪の感触を楽しんでいる。身長が180はある男が少女を背後から抱きしめているその様子は、まるで獲物に捕らえられた小動物のようであった。それを見た日衣菜は血相を変えて、四岐の横腹を足で強く蹴る。


「ちょっと!来条君から離れろって言ってんでしょ!怖がってんじゃん!」

「いたたたたたわかったわかった」


 日衣菜の足蹴をくらった四岐は蓮から離れる。夢乃は「女の敵です!」と言いながら、スカートのポケットから塩を出して四岐にしきりに投げつけている。


 一体この男は何者なのだろうか。蓮は日衣菜に聞いた。


「照原、この四岐って奴は何者?何で棺から出てきたの?」

「私の特殊魔法は『死霊召喚』でね。文字通り死霊を召喚して従わせる事ができるの。従わせるって言ってもまあ…ある程度の行動までしか制限できないけど」

「え…じゃあ四岐は死霊って事?」


 日衣菜は小さく頷く。


「怖がらせてごめんね、来条君。アイツにあんな変態的な一面があるなんて、私も知らなかったの。本当にごめんなさい」

「て、照原が謝る事じゃないから…ハ、ハハ…」


 蓮は死霊という言葉を耳にして顔を引きつらせる。その死霊にさっき抱きしめられていたのかと思うと、ゾッとして鳥肌が立った。





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