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30話 人形が住む洋館(2)


 糸形家は魔法使い界隈で有名な人形師の家系である。人形といっても通常の人形とは違い、特別な魔法で加工された、いわば魔法使い専用の人形を作っている。


 糸形家に代々伝わる特殊魔法『人形製作』で作られた人形に魔法使いが魔力を流すと、その人形を自分の体のように動かす事ができ、人形が自分の分身のような状態になる。これが、一部の魔法使いには戦闘で役に立つので、時々糸形家に製作依頼が来る。


 今回問題になっている洋館は、糸形家が代々作った人形を保管する倉庫のような役割を果たしていた。セキュリティ面はしっかりしていたつもりだったのだが、相手が一枚上手だったらしい。何者かに洋館を乗っ取られてしまい、魔法によって迷が中に入れなくなってしまった。


 館内には今まで糸形家の人々が作った人形が保管されている。ほとんどの人形は部外者に悪用されないよう、糸形家の者の魔力以外には反応しないように魔法で細工されているが、数体だけその魔法をかけていないものがあったのだと迷は言う。


「それって、その数体の人形を、洋館を乗っ取った誰かが操っているかもしれないって事ですか?」

「だってこの陰気な洋館に入る理由なんて、それ以外考えられないもの。ご先祖様が作った人形を悪用するなんて、あってはいけない事だわ。本当は私が入って何とかしたいんだけど、私じゃ入れないのよ。そこで瑠依ちゃんの特殊魔法が必要ってわけ!」


 迷は瑠依に向かってウインクをした。瑠依はきょとんとした顔をする。


「私の特殊魔法…人形操作が?」

「糸形家の人形は、一度魔力を流したら魔力の上書きはできないの。つまり、最初に魔力を流した人間のみがその人形を操れるって事ね。でも、例外的に魔力の上書きが可能な特殊魔法が2つある。1つは糸形家が持つ特殊魔法『人形製作』。もう1つが『人形操作』、瑠依ちゃんの特殊魔法ね!」


 瑠依の『人形操作』の魔法があれば、たとえ館内で人形を悪用されていたとしても魔力の上書きを行う事で解除ができる。迷が洋館の中に入れない今、今回の任務では瑠依の特殊魔法が頼りである。


「何とかして洋館に入る手がないか、自分の手持ちの人形で色々試して調べてみたら、メイド服を着た少女なら入れる事がわかったの。私ってもう少女って歳じゃないから、どうしても他の子に頼らないといけなかったのよね。本当に申し訳ない!」


 迷のその話を聞いて、蓮が大きく手を挙げて言った。


「糸形さん!実は俺、女の姿ですが中身は男なんです!だから多分、俺は入れないですよ!」

「ん、大丈夫じゃない?この洋館にかかっている魔法は、体の性別だけに対して反応しているみたいだから」

「えっ。そう、ですか…」


 蓮はこの洋館の中に入りたくなかった。まず外観からして雰囲気が暗いし、窓を見た限りでは明かりもついていなさそうだ。お化けがいる。絶対いる。いるに違いないのだ。しかも、人形が動く?もうそれはホラー映画のワンシーンでは?想像するだけで蓮の足はがたがたと震える。

 今日は錐野もいないし、怖くなった時に腕をつかめる人間がいない。ひょっとしたら男だから入れないのでは?入らなくて済むのでは?とひそかに期待した蓮は、迷の返答にがっくりと肩を落とした。


 そんな蓮を他所に、日衣菜が残念そうに言った。


「糸形さんは中に入れないのかー。残念。館内の事に詳しい人が1人いてくれると助かったんですけどね」

「それなら心配しないで。私の人形を1体、案内人としてつけるわ」


 糸形が出したのはメイド服を着た小柄な少女の人形。見ていたら吸い込まれそうな紫色の瞳を持つ彼女は、蓮達に対して深々とお辞儀をする。


「はじめまして。アスと申します」

「わっ!人形が喋った!」


 人形から鈴の鳴るような可愛らしい声が聞こえ、蓮は驚くと、迷が得意げな表情をする。


「この子は自立型人形のアス。自ら意思を持って行動する人形なの!すごいでしょ!」


 通常型の糸形家の人形は、魔法使いの意識を人形本体と共有する事で人形を動かすが、アスの場合はそれをしなくても、人形自らが意思を持って行動する。アスは、迷の手持ちの人形の1つであった。


 アスは洋館の方へと歩きだす。それは、洋館内の調査が始まる事を意味していた。


「いってらっしゃーい!気を付けてねー!」


 そんな学校に行く我が子に声をかけるみたいな口調で送り出されても…蓮は糸形の妙に明るい声を聞いてそう思った。




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