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3話 麦茶を返せ


「誰か来たな……」


 蓮の家にインターホンの音が響き渡る。1階にいる母が出てくれるだろうと蓮は思っていたが、同じ音がまた家中に鳴り響く。


「あれ、もしかして母さん、俺が寝ているうちに出かけた?仕方ないな」


 1階に降りて玄関の扉を開けようとした時、蓮はふと思った。

 

 果たして今のままの姿で出ていいのだろうか? 

  

 蓮は今、サイズの合わない部屋着を無理やり着ている状態だ。男の体だった時は身長が173cmあったのが、女の体になってからは155cmにまで縮んでしまった。


 家だからいいだろうと思っていたサイズの合わない部屋着。ズボンはゴム紐をきつく結んでなんとか脱げないようにしているが、上のスウェットは肩がずり落ちそうで、袖も長すぎて手が見えていない。事情を知らない人から見たら、だらしない恰好に見えるだろう。


 とはいえ、相手を待たせるわけにもいかないので、着替える時間はない。


 「ええい!ままよ!」


 ここはもう割り切るしかないと腹を決めた蓮が扉を開けると、そこには制服姿の赤崎錐野の姿があった。走ってきたのか、息を切らしていてかなり切迫した表情をしている。


 錐野は蓮の姿を見て首を傾げる。錐野は幼馴染なので、蓮の家族構成も知っている。蓮には兄が1人いるが、妹も姉もいない。ちなみに、蓮に恋人はいない。

 蓮の家に少女がいる事に、錐野が疑問を持つのは当然の事であった。


「……蓮の親戚の方ですか?」

「いや、実はな。俺が蓮なんだよ」

「は?」



 蓮は錐野を自分の部屋まで迎え入れて、学習机の前にあるキャスター付きの椅子に座らせた。今の部屋着姿を見られたくない蓮は、自分より一回り小さいサイズのウサギのぬいぐるみを抱きかかえている。ぬいぐるみの頭に顔を埋め、自分の姿を隠すようにしてベッドの上に座った。そして、今日起こった全てを話すと、錐野は言った。


「はあ、そういう事だったのか。とにかくお前が無事でよかった」


 錐野はかなり驚いた様子だったが、蓮が想定していたより冷静で、すぐに話を理解した。


 普通なら、冗談を言っているのだと思われてしまうところだが、錐野は違った。話を聞いてくれそうな雰囲気を感じ取り、蓮は安堵する。すると、錐野は何か考える素振りを見せた後、言った。


「実は俺、魔法使いなんだ」


 蓮は麦茶を吹いた。


「な、何言い出すんだよ急に…」

「こう言っても、お前は簡単には信じないだろうがな」

「え、いや…信じないっていうか…ええ…」


 蓮の脳の処理が追い付かない。付き合いの長い友人が実は魔法使いだったなどと、そう簡単に飲み込めるような話ではない。ただでさえ女の体になった事で頭が混乱している。


 しかし、錐野とは長年の付き合いだ。友人が本気で困っている時に冗談を言うような男ではないという事は知っている。だから、きっと本当の事なのだろう。本当の事なのだろうけども。魔法使いだなんて、そんな事を急に言われても。返す言葉が見つからず、蓮は言葉が詰まった。


「こんな事を言われても混乱するよな。でも、お前の今の状況に関係する事なんだ。少し長くなるが…ちょっと話すか」


 錐野は椅子に座り直し、魔法使いについて話し始めた。




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