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2話 現実逃避


「母さん。俺、女の子になっちゃった」


 目に涙をためて情けない顔をしている蓮は、やなぎに訴えかけるように伝えたはずだったが、肝心の相手は全く心配してくれそうな気配がなかった。やなぎは、じっとりした目で蓮を見ながら腕を組む。


「かなり気合いの入った女装ね。声まで変えたの?それでお母さんの目を誤魔化せるとでも?」

「本当だって!パジャマがぶかぶかなんだぞ!?体格レベルで変わってんの!」


 やなぎは、蓮をじっと観察するような目で見た後、突然近づいてぺたぺたと蓮の体を触り始めた。


「いきなり何すんだ!」

「あらホント。腕あたりの筋肉が今までと違うわね。アンタ、本当に女の子になっちゃったの?」


 一体この母親はどこで息子の体の変化を判別しているのか。顔とかもっと他にあるだろうと思った蓮だが、それを言うとまた面倒な事になりかねない。


「何でだと思う?」

「そうねえ…あ、わかったわ!きっと魔法よ!魔法の力よ!そうに違いないわ!」


 そう言いながら、やなぎはくねくねと腰を振りながら踊り始めた。この深刻な状況で踊りだすなど正気の沙汰ではない。


「ま、魔法…?」


 蓮が唖然としている間に、やなぎは携帯電話を開いて何かを調べ始めた。きっと魔法について調べているに違いない。蓮はため息をついた。


「これじゃあ話にならないよ」

「そう?私は魔法だと思うけど」

「はあ、そもそも魔法だとしたら、どうやって元の体に戻すんだよ。魔法使いを探すのか?どうやって?もういいよ、母さんはあっち行ってて!」


 蓮はそう言ってやなぎの背中をぐいぐい押しながら部屋の外へ追い出し、扉を閉めた。


「もう、頑固なんだから。とりあえず学校には休みって連絡しておくわね」

「ん」


 扉の向こうからする母の声に雑な返事をした蓮は、すっかりふてくされてしまい、ベッドに横たわり二度寝する事にした。こういう滅茶苦茶な事が起こった時は、現実逃避が一番なのだと、蓮は自分に言い聞かせて眠りについた。





「…ここはどこだ?」


 蓮が目を開くと、そこは真っ暗な空間だった。手あたり次第に歩いてみても、壁すらもない、全く何も無い暗闇の中。さっきまでベッドで寝ていたはず。そう思った時、これが夢なのだと気付く。

 

「夢ならどうでもいいか」


 夢の中であるなら、何が起きようとどうでもいい。夢なのだから。蓮は暗闇の中、小さく丸まって体育座りをし、パジャマのまま、夢が終わるのを待つ事にした。

 それにしても、夢の中でも女の姿とは何と残酷なことか。夢くらい元の男の姿に戻ってもいいのではないか。夢まで俺を裏切る気なのか。そんな事を考えていると、突然、首筋に冷たい何かが当たった、蓮は小さな悲鳴を上げた。

 

「ひゃっ!何だ?!」


 蓮は咄嗟に後ろを振り向いたが、何もいない。その代わりに、地面には大量の鉄の鎖が落ちていた。


「鎖?何でこんなところに?」


 鎖を調べようと手を伸ばそうとしたその時、蓮の右足に鈍い痛みが走った。足にはいつの間にか鎖が巻き付いていた。鎖を解こうとしたが、今度は右手首にも鎖が巻き付き、気付いた時には両手両足に鎖が巻き付いていた。

 これは夢なのだから、妙な事が起きても仕方ない。そう思った蓮だが、不気味である事には変わりなかった。


―――早くこの不快な夢から覚めてほしい。


 鎖が巻き付いて身動きが取れなくなった蓮は、解く事を諦めて仰向けになる。すると今度は、鎖が首に絞めつけるように巻き付いてきた。


「ぐっ……」


 手足ならまだ耐えられた鎖の痛みも、首となれば話は別である。呼吸が出来なくなった蓮は抵抗しようと体を捩るが、状況は悪化するばかり。意識が遠のいていく中で蓮はぼんやりと死を悟る。


――そうか。俺は、ここで死ぬ、のか。





「はっ」


 最初に目に入ったのは自分の部屋の見慣れた天井。蓮はあの悪夢から覚めた事に気付き、安堵したが、両手が自分の首を絞めるような状態になっている事に気付いた。


「何で俺は自分の首を絞めようとしているんだ…悪夢の影響か?最悪だ」


 首を擦りながら、蓮がベッドから起き上がって立とうとした時、1階からインターホンの音がした。





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