16話 特殊魔法
魔法使いが扱う魔法には大きく分けて2種類、普通魔法と特殊魔法がある。
普通魔法は、練習すれば誰でも使う事が出来る基礎的な魔法。蓮は錬ノ間で、魔力をコントロールし、武器の攻撃力を上げる特訓をした。あれは『武器強化』と呼ばれる普通魔法の一種である。
一方、特殊魔法は、それぞれ個人に先天的に備わっている魔法の事で、親からの遺伝によるものである。人によって使える特殊魔法の能力は異なる為、魔法使いは自分の持つ特殊魔法に合わせて独自の戦闘スタイルを身に着ける。
「親…じゃあ、俺は使えないのか。親は魔法使いじゃないし」
「いや、来条君も使えるよ。この世に存在する全ての人間は魔法使いになる素質を持っているからね。魔法使いになるか、ならないか…それだけの違い。人間は皆、特殊魔法を必ず1つ持っているよ」
特殊魔法って何だ?そう蓮が聞いてきたので、日衣菜は普通魔法と特殊魔法について説明していた。瑠依と日衣菜はノルマであった影3匹を無事に倒しきり、チーム015は待ノ間へ戻る為に、公園前でドラゴンが来るのを待っている。
「じゃあ、俺も持ってるのか?その特殊魔法とかいうやつを」
「持っているはずだよ。でも、親が魔法使いじゃないと大変なのよね。自分の特殊魔法の能力が何なのかわからないから。どんな魔法かもわからない状態じゃ、練習も出来ないじゃん?」
「むう……そうか」
「なんらかの弾みで自然に使えるようになる事もあるらしいから、そう落ち込まないで!」
自分の特殊魔法が何なのか少し興味を持っていた蓮が、落ち込んだ様子を見せていると、ふわふわと浮いた小さなクマのぬいぐるみが右肩に乗ってきた。
「ソウダヨ、ゲンキダシテ」
ぬいぐるみの声を代弁するかのように、瑠依が背後から裏声を出して言った。本物の生き物のように動いているぬいぐるみの頭を、蓮は撫でて可愛がった。
「瑠依の特殊魔法か?これは」
「そうそう。私の特殊魔法『人形操作』は、人形に様々な能力を与えて操る事が出来るの。ビームを出せるし、探索にも役に立つよ。蓮も持っているはずだけど、兄ちゃんからもらわなかった?」
「錐野から?」
そういえば、錐野からクマのぬいぐるみをもらったな―――蓮は、自分の体が女になってしまった前の日の出来事を思い出す。
「ああ、もらったよ。そうだ、あれのおかげで俺は助けられたんだった」
「そうよ、私に感謝してよね」
瑠依は冗談めいた口調でそう言って得意げな顔をした。
「そうだな…ありがとう。あれ、瑠依が作ったの?」
「違う違う、兄ちゃんが作ったの。私はもっと上手に作るわよ。私の魔法ってほら、便利だから、兄ちゃんから1つ欲しいって言われてね。ぬいぐるみも作ってあげるって言ってるのに、自分で使うものだからとかなんとか言ってさあ。不格好だったでしょ?」
「まあ、縫い目は荒かったけど…」
裁縫が上手な瑠依に作ってもらえばいいものを、わざわざ自分で作るあたりが錐野らしい。彼が慣れない裁縫をしている姿を想像して、蓮はフフッと笑った。