モテ回復作戦・・・もっと私の方見てよ!
結局、山崎-相川さんカップル化作戦の計画は何一つ思いつかないままに3時間目も4時間目も過ぎ、お昼休みになった。
うちの学校は食堂があるので、たいがいの生徒はそちらに行く。
「上牧、行こうぜ」
いつものように、山崎が声をかけてくる。
「すまん、今日は行けない」
「何でだ?」
「俺じゃなくて、相川さん誘った方がいいぞ。相川さんも毎日食堂だから」
「そ、それがお前の作戦一号か?なら試してみるか」
適当に言ったことだけど、山崎は本当に相川さんを誘って、食堂に行ってしまった。
教室にはあまり人が残っていない。水無瀬さんも見当たないので、俺は教室を出て中庭に向かう。
すでに水無瀬さんはベンチのところで待っていた。
「勇真、モテ回復作戦はうまくいきそう?」中庭のベンチに座るなり水無瀬さんが問いかける。
「どうなのかな。まだクラスのみんな俺たちが付き合ってることに気づいてないみたいだからなあ」
「女子たちはみんな気づいているよ。鈍感なのは勇真と男子だけ」
「あ、そうなんだ。で、女子たちの反応は?」
「みんな『上牧がー!?』って驚いてたよ」
「だろうな」
「あとは男子勢の反応を見ることね」
「俺が結衣と付き合ってると広まったら学年中のイケメンたちが黙ってはいないだろ。作戦はきっとうまくいくよ」
「そうだと、いいんだけど。ていうか、勇真はほんとにそれでいいの?」
「最初からそのつもりだろ。また結衣がモテだしたところで俺は手を引くから。俺だって学年中のイケメンたちと戦うのはごめんだから」
「それはそれとして、ほんとにそんなあっさりと手を引けるの?」
「そんなに言うってことは手を引かれたくないってことだな!?」
「違う違う!私みたいなかわいいのをあっさり手放せるのかなって思っただけ」結衣が真っ赤になっている。
「自分で言うなよ」
「早くお弁当食べよう!冷めないうちに」
弁当箱を受け取る。温かい。ふたを開けると、カラフルなふりかけご飯に、厚焼き卵、ミニトマト、アスパラの豚肉巻き・・・。
「おいしそう、しかもあったかいし」
「購買のところのレンジで温めてきたからね」
「突然だけど、相川さんは山崎のことどう思ってるのかな?」
「急にどうしたの?」
「いや、ここだけの話だけど、山崎が相川さんに告白したいらしくて。どうやったら上手くいくかなとずっと考えてたから」
「ふうん、そういうことかあ・・・。なかなか簡単ではなさそうね。山崎くんのことは仲のいい友達とは思ってるみたいだけど、告白となると・・・」
「そっか、やっぱり険しい山か」
「そうね・・・そんな気がするなあ。でも、勇真優しいのね。山崎のこと応援して」
「女神様ほどでは」
「その言い方やめてって。それに私は別に優しくないよ」
「夢に現れてモテパワーくれるなんて、そんな優しい女神様が他にどこにいようか」
「もう!あのことは思い出させないでよ!」
しゃべっているうちに、中庭の向こうにある食堂から次々と昼飯を食べ終えた生徒たちが出てきた。俺と水無瀬さんの方を訝しそうに見るやつもいる。
「今のこの状況見て、私たちが付き合ってるって分かるかなぁ。普通にお弁当食べてるってだけって感じだね」
「普通に食べてるだけで何が悪い」
「勇真??」
「何?」
「もっと私の方見てよ」
「は?」
「あーん」
卵焼きが口元に差し出される。しまった、油断した。後に引けない状況・・・。
「ちょっと待った!一言忘れてるぞ。『作戦の一環として』はどうした?」
「・・・」
無視かよ。
卵焼きがアップで目の前、いや、口の前に出現したまま停止している。結衣のピンクの箸先、右手、そして、じーっと見つめてくる顔が、こういうシチュエーションに対する免疫ゼロの俺を揺さぶってくる。
ああー、周りにたくさん目があるのに。この固まったシーンを打開するには結衣の箸から卵焼きを食べるしかなさそうだ。今回は一本やられた。
ぱくり、もぐもぐ。不思議にさっき食べたのと違う味に感じる。なんかさっきのより甘くないか?気のせいだろうか。
「・・・作戦の一環としてね」結衣がにこっとする。
「言うの遅いわ!」
「あははー、赤くなってる。今のは完全にカップルだね。10人は目撃したかな。どう?もう一回する??次はミニトマトで」
「いや、も、もう・・・。あ、着信だ」ポケットのスマホが振動している。何というベストタイミング。こんな時間に電話なんて普通ないのに。
発信主は・・・うわ、ここで妹かよ!事故にでもあったのか!?
「もしもし?」
「もしもし?お兄ちゃん?今何してるの?」
「う・・・」
「う?」
横から水無瀬さんがいたずらっぽく笑いながらスマホを取り上げた。
「莉奈ちゃん?今、勇真は結衣とお弁当食べてるところ」
「ええー?いいなぁ。うらやましいなぁ。私も行っていい?」
「いいよ!おいでよ」
「いいわけないだろ!」スマホを奪還して怒鳴る。
「中学校から走って5分で行けるのに」
「学校から脱走するな!」
「お兄ちゃん、帰りにね、いつものケーキ屋さんでシュークリーム買ってきてよ。莉奈が好きなやつね」
「要件はそれか。メッセージで済ませろよ。しょうもないことでわざわざ電話してきて」
「莉奈の声聞きたいかなーと思って」
「もういいわ、切るぞ」
切断。ふうー、大変な妹だ。横で水無瀬さんが面白そうに笑っている。
・・・
「ごちそうさまでした。妹の100万倍上手だな。今度妹に教えてやってよ」
「うん、また莉奈ちゃんに会いに行くね!」
あ、言わない方が良かったか。あの二人がいっしょになるとまた大騒動だ。うっかり忘れていた。




