文化祭はダンス祭?
午後4時。
「ばんざーい。完売です」
結衣が空になったクレープ生地のトレイを指さしてみんなに伝える。
「お、さっきので最後か」と俺。
「バナナ、まだ2ふさ余ってるよ」と相川さん。
「勇真がクレープ分厚く焼くから余ったんでしょー」と結衣。
「ま、俺たちで食べようぜ」
「さっき、たこ焼きもお好み焼きも食べたのに、まだ食べるつもりー?」と結衣。
みんな、心地よい疲労感と、達成感を感じながら、片付けにかかる。
「サントノーレもお客さん増えるといいなぁ。今日のコラボで」結衣が声をひそめて言う。
「コラボしてるって気づいてる人、どれだけいたかな」
先生の許可得てないし、コラボといっても、大っぴらにはできず、看板に小さく書いてたくらい。たまに気づく人がいれば、「バイト先のカフェです。ぜひ来てくださいね」とか声かけてたけど。
でも、コラボ効果はともあれ、結衣と奈緒さんと練習したおかげで、満足いく出来栄えをお客さんに出せたと思う。なんだかんだで、それが一番嬉しい。
今回みたいにメニュー考えるところから、焼き方とか、トッピングとかいろいろ試してみて、今日、完売できたっていうのも初めての経験。売ったの一日だけだったけど、充足感が込み上げてくる。そういうのをいつもやってる奈緒さんってすごいんだなあ。改めて未来の店主の努力を感じる。
「いろいろあったけど、楽しかったな」片付けしながら、結衣に話しかける。
「うん。でもまだもうちょっと文化祭、続いてるよ。ほら、グラウンドでクロージングセレモニー始まりそう」結衣がにっこりする。
「知ってる。ダンスするみたいだけど、結衣はできるのかな?」
「誘ってるってことかな?私を」結衣がいちいち、えくぼを作って言う。可愛い子はどうしてこうも自然にえくぼを作れるんだろうな。いや、だからこそ可愛いのかな。どっちだ・・・。
「そうだけど。結衣ができるなら」少し間をおいて俺が答える。
「勇真がリードしてくれるなら」ちょっとはにかんだ笑みを浮かべる。
「フォークダンスとかだろ。リードとか、そんなんないだろ」
「やったことないから、リードしてくれないと踊れないなぁ」今度はあざとく来る。
「分かった分かった。俺も踊ったことないけど」
そんなことを言ってるうちに、音楽が始まった。いっぱいの人の中で、相川さんが山崎に引っ張られて、ダンスの輪の中に入って行ってる。相川さん、恥ずかしそうだけど、まんざらでもなさそう。
「俺らも行こうか!」
・・・
結衣がじっとしている。無理に引っ張って行ってほしい、と俺は解釈した。
ちょいと、結衣の左手を取って、グラウンドの真ん中に引っ張っていく。周りの視線がすごいかと思いきや、意外とそうでもない。なんだか自然に、この場に溶け込んでいるようで、ちょっとした安心感すらある。
「お、上牧だ。水無瀬さんと一緒って、やっぱり、もう付き合って・・・」山崎が相川さんと踊りながら糸に引っ張られるように隣に来た。
「よそ見してると、ぶつかるぞ」
キャッと悲鳴が上がる。音楽に合わせてくるっと回っていた相川さんに山崎が正面からぶつかる。
「ごめんごめん」
「もーっ、山崎くん、わざとやってるでしょー」
「あはは、なんかいい感じじゃないの」結衣がこっそり囁く。
俺はちょっと結衣を引き寄せる。
「え?」
「いや、音楽に合わせただけ」
そのまま、軽めのハグをする。結衣が胸の前で両腕をすぼめる。なるほど、こんなふうにして受け身になれるものなんだ。
もうちょっとだけ力を込めてぎゅっとする。
「勇真ー?いつまでそうしてるの?音楽終わったよ」
我に帰ると、あたりはいつの間にか、拍手とおしゃべり声でいっぱいになってる。
「・・・魂が飛んでいってた。宇宙まで」少し暗くなってきた空を見上げながらとぼける。
「私もよ。双子座まで」結衣も首筋を上げて空を見ながら、あははっと笑う。
太陽が西の空に沈み切った頃、長い長いお祭りの一日が終わった。
「上牧、水無瀬さん、みんなで打ち上げ行こうぜ!」
クラスのやつが声をかけてくる。結衣の方をちらっと見ると、楽しそうにうなずいている。
クレープのおかげで、クラスにすっかり溶け込んだ気分。みんなから、お疲れ!と肩を叩かれるし。・・・気づいたら俺も、今日一緒に頑張ったみんなにそうしていた。
「焼肉行くんだって。駅の噴水のとこに6時集合って」
荷物を取りに、教室に向かいながら、結衣に言う。俺の影に隠れるようにしてスマホを触っている。
「うん!で、打ち上げのあと、私たちはサントノーレで二次会ね。奈緒がクレープ上手くできたか聞きたいって」
結衣がスマホを見ながら言う。
少しずつ暗くなっていく10月の夕方。校門を出るとき、天頂に一番星と二番星が同時にキラリと輝いた。
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また会う日まで
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