女神様、家に来る
ピンポン、と玄関のベルが鳴る。
「お邪魔しまーす」私服に着替えた水無瀬結衣が入ってきた。紺のトップスに、無地の膝丈スカート。清楚系でかわいい。
「何で俺の家知ってるんだよ」
「外までカレーのにおいがしてるから。おなかすいたー。あ、そっちは妹さんね」
「上牧莉奈です。中2です。よろしくお願いします」
「莉奈ちゃんね。私は水無瀬結衣。結衣って呼んでいいよ」
「じゃあ、結衣ちゃん、今晩は特製カレー作ったから食べていってね」
「ありがとう。すごいねー。莉奈ちゃんが作ったの?」
「そうです。莉奈が心を込めて作りました」
「あ、そこにあるのはバドミントンのラケット?私もバドミントン部なのよ」
「結衣ちゃんも!?奇跡だね!今度相手してよ」
「いいよー、そんなに上手くないけど、いっしょにやろー!」
こいつらほんとに初対面か?出会って秒でよくこれだけしゃべれるな。コミュ障予備軍の俺には真似できない。
「莉奈ちゃんの家、綺麗だね。レイアウトがシンプルで今風って感じ」
「そうお?今度結衣ちゃん家も行ってみたいなぁ」
「いいよー。いつでも来てー」
行き来する気満々だ・・・。
二人は無視するとして、ご飯にしようか・・・。
というところで、大事なことを忘れていることに気が付いた。
「あ、ご飯炊くの忘れてた・・・」
「お兄ちゃん!!」
「勇真ったらドジだねー」
「意気投合するな!」
「みんなでゲームでもしながら待ってたらいいじゃない。ご飯私が炊いとくわ」
水無瀬さんが勝手に台所に入って手を洗ったり、お米を計りだしたりし始めた。なぜか場所を把握していて手際がよい。
「お水はこれ使ってね」莉奈が冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。
「へえ、水道水じゃないんだ。味にこだわってるのねー」
「えへへ。莉奈グルメだから」
そういうのなら、カレーくらい作れるようになれよ!と言いたいところだが、大人げないと思って黙っていた。
「それじゃあスイッチオン。炊き上がるまでリビングで遊んでましょ」
「お兄ちゃん、三人で遊べる何かない?」
「莉奈は宿題やった方がいいんじゃないの?どうせまだだろ。ほら、水無瀬さんに教えてもらって」
「ええー?宿題は晩ご飯の後でお兄ちゃんに教えてもらう」
「誰が教えてやると言った」
「お兄ちゃんのケチ!」
「うふふ、仲のいい兄妹ねー。羨ましいわ。私一人っ子だから」
どこをどう見たら仲が良く見えるんだ・・・と思ったが、案外事実なのかもしれない。先週まではお互い、いがみあっていたのに。
・・・そう考えると、女神様のおかげだと言えなくもない。
「ゲームしないなら、お話でもしてましょ。ねえ、結衣ちゃん。結衣ちゃんはお兄ちゃんの彼女なの?」
「いきなり振る話題がそれかよ!」
「えへへー、一番関心あることだから。それで、どうなの?結衣ちゃん」
「莉奈ちゃんすごい観察眼ね。・・・そうね。当面は勇真の彼女ね」水無瀬さんがうなづく。
「違うから!」俺は慌てて否定する。
「てことは許嫁?やっぱりお兄ちゃん、うちに居てくれないの?これから莉奈の宿題はどうしてくれるの?」
「そういう意味じゃなくて、水無瀬さんは彼女じゃないから。ただの友達」
「お兄ちゃん、莉奈のことも忘れないでね。あたし、結衣ちゃんに嫉妬するわー」
「・・・水無瀬さん、妹何とかしてよ」
「心配しないでいいよー。勇真は莉奈ちゃんのことが一番好きだから」水無瀬さんが笑いながら、逆にフォローする。
「勝手に決めつけるな!」
うう、双方からいいようにもてあそばれている・・・。
両手に花ならず、両手にじゃじゃ馬だ。
外はすっかり暗くなった。ようやくご飯が炊きあがり、二人のおしゃべりも落ち着いてきた。
「いただきまーす」
カレーだけだけど、不思議に華やかな食卓。
「美味しいー。莉奈ちゃん料理とっても上手だね。いつもこんなの食べられる勇真は幸せね」水無瀬さんが舌鼓を打っている。
「すごいでしょー。たくさん食べてねー」莉奈が俺の方をちらりと見ながら言った。はいはい、すごいすごい。反論する気も起きません。
「・・・と言いたいとこだけど、ほんとはね。お兄ちゃんが全部作ってくれたの」
莉奈がにっこりとする。
「え?そうだったの?勇真が??」
「うん。お兄ちゃん料理すごい上手で。私は全然だめだから、いつもすごいなーって思ってるんだ」
・・・
「ま、大したことないけど。ほら、莉奈も玉ねぎ切っただろ。カップラーメンからは進化したじゃないか」
「えへへ・・・みじん切りにしちゃって怒られたけど」
「でもおかげで、いい具合に甘いカレーになったよ」
オレンジ色の電灯の下、いつもより少し賑やかな夕食のひとときだった。
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おかげさまで1章完結です。
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