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文化祭は星空祭?

山崎と相川さんが連れ立って校舎に向かっていく。結衣はエプロンを脱いで、ベンチに腰掛け、スマホで何やら打っている。俺と結衣がさっきまで担当してたコンロ前には、次のシフトのクラスメートがすでに陣取っていて、クレープを焼き始めている。


ちょっと手持ち無沙汰。あ、そっか。これから文化祭回れるのか。でも山崎は相川さんと行ってしまったし、そういえば、俺は友達が少ないんだった。校庭は人でいっぱいだけど、どうやら俺の知り合いは見当たらなさそう。


ちらりと結衣の方を見ると、さっきと変わらず、文字を打ったり、画面に見入ったりしている。きっと友達とLINEしてるんだろうな。これから待ち合わせ場所とか、どこから回る?とか。


しまった、先に誘っておけば良かったか。いつもの感じで、「シフト終わったら、ちょっと見て回らないか?」とか言うチャンスはいくらでもあったのに。普段ならそれくらい、全然普通なのに、なんか、今のこの感じ、めちゃくちゃ誘いづらい。

先約はあるのか?今にも予定決定なのか?それとも誘われて返信中?


しかし、このままいたら、じきに結衣が顔を上げて、「あれ、勇真まだいたの?どうしたの?」とか言うだろうし、かといって、このまま一人で校庭の群衆に突っ込んでいくにも相当な勇気がいる。

うう、これだから、こういうイベントが嫌いなんだよ!


「えっと、結衣?ちょっとだけ文化祭回らない?空いてたらだけど」

この緊張感に耐えかねて、突っ込んでしまった・・・。喉がからから。


「え?」結衣がスマホから顔を上げる。

「えっと、うん。これから予定がなかったらって話ね」


「いいよ」結衣がスマホをカバンのポケットに入れた。

「いいんだ・・・」なんだか、嵐が去ったかのような平和。

「うん。てか、勇真、なんで緊張してるの?」

「してないしてない!熱心にスマホ触ってるから、話しかけづらかっただけ!」

「あははー。お上手な言い訳だこと。奈緒さんに、クレープ上手く焼けたよってLINEしてたんだよ。じゃ、行きましょうか」


「お、おう」

俺はテントを出て、並んで歩く結衣との距離感をどれくらいにするかに若干戸惑いながら、歩き出す。

「なんか、いつもと様子が違うわよ。もしかして、二人で文化祭回るっていうので意識してるとか?ただのモテ回復作戦なのに・・・。作戦の一環!」

結衣がわざとらしくため息をつく。


そうか、その手があったか。作戦の一環っていう誘い方があった。それなら自然に誘えたのに、なんかガチになってしまった。さっき山崎と相川さんが、いかにもな雰囲気で文化祭デートに行ったからだろうか。



「で、結衣はどこ行きたい?お昼にはちょっと早いし、校舎でも見て回る?B組のお化け屋敷とか?」

「お化け屋敷ねえ・・・。あ、勇真、なんか期待してるでしょ。暗いとこに連れてって、それに、お化けなんか出ちゃうとなると・・・」

結衣が機会を逃さず、からかい始める。なんかいつもの空気がちょっと戻ったようで、ほっとした気持ちになる。


「うん、結衣が平然とお化けをスルーして行って、外出てから、『子供騙しだったね、全然怖くなかった』って言うのを期待してる」

「もうっ、またからかおうとして。私はそんなに可愛げなくないよ?」

「からかおうとしたのは女神ちゃんだろ」


「じゃあさー、お化け屋敷よりもあっちのプラネタリウム行ってみない?」

校舎の2階に上がったところで結衣が廊下の先を指差す。

「プラネタリウムなんかあるんだ」

「そうよー、お化け屋敷よりロマンチックでしょ」

「そういうの、求めてるんだ」小気味よく言葉尻を捉える。

「違うって。求めてない!あの看板ちょっと可愛いなって思っただけ」

結衣が指差した看板は、サンリオの双子星のキャラ。お月様に腰掛けていて、なんともメルヘンチック。女神ちゃんの趣味にぴったりな看板。


「うんうん、よく分かるよ」俺は深く頷く。

「なんで上から目線なのよー」

「ま、面白そうじゃん。入ってみようぜ。ちょうど上演始まりそうだし」

俺たちは高一の知らない生徒の案内に従って教室に入る。


ほとんど真っ暗。案内の人がライブのペンライトみたいなのを明かりにして、教室の壁に沿って並べられた椅子を示す。俺は端っこの席に、結衣はその隣りに座った。目が暗さに慣れてくると、教室の真ん中に球体の映写機みたいなのが、机の上に据えられているのがぼんやりと見えた。


そのうちに、どこからかリラクゼーションミュージックみたいなのが流れて来た。そして、いきなり天井に、ぱっと満天の星空が現れた。「おおー」と観客から歓声が上がる。


「みなさま、高一C組のプラネタリウムにようこそ!」

暗闇からちょっと緊張気味の声。ん?この声は?

「この声って、麗香じゃないか?」俺は結衣に囁く。

「麗香ちゃんのクラスだったんだ!」結衣が耳元で囁き返す。


「・・・みなさまがご覧になっている、ただいまの星空は、今晩の星空です。東の空に、ひときわ輝いているお星さまは、カストルとポルックス、双子座の兄弟です」

麗香、頑張って説明している。天文って興味なかったら星の名前覚えるだけでも大変そう。


「・・・ですが、双子のお星さまと言えば、キキとララの方が馴染み深いですよね」

麗香の声がハイトーンになる。俺は結衣の方を見た。

「看板の子たちね。勇真知ってる?」結衣が身を乗り出して、俺の耳元で囁く。そういえば、あのキャラたち、そんな名前だっけ。


「・・・今日は、双子座を夜空に眺めながら、キキとララの誕生秘話をしましょう」



 とても星のきれいな夜 とおいとおい星の国で ふたつの小さな星が生まれました

 ・・・

 おとうさま星もおかあさま星も あまりかわいがりすぎたため

 すこしあまえんぼうで わがままになってしまいました


 このままではいけないと思ったおとうさま星は

 おかあさま星と相談して 地球という星に 旅にだすことにしました


 地球にはいろいろ つらいことやかなしいことがたくさんあることを 

 いつも雲の上からながめて知っていたからです



「ねえ、勇真。なんか素敵なお話ね」結衣がまたしても耳元で囁く。息が温かい。



 ・・・

 星のくにを はなれるのは とてもさびしいけれど

 これから どんなことにであうかもしれません

 ちょっぴり不安で ちょっぴりワクワクしながらとびたちました

 ふたり 力をあわせて がんばることを 約束して・・・



「ねえ、勇真、私たちも双子だったらどんなだったかな?」

結衣がまたまた囁いてきて、今度は上半身ももたせかけてくる。

メルヘン大好きな結衣が、麗香の語るおとぎばなし聞いておかしくなってるのか?!


「双子?いや、想像できないなあ」

「お星さまに一緒に乗って、こんな感じかしら?」

結衣が、ぴったりとくっついて、腕を絡ませてくる。待って待って、いきなりすぎるだろ!やばい、どうしたらいいんだ。


「勇真?なんで固まってるのよ。私たち、双子の兄妹よ。カップルじゃないんだよ。お星さまに乗って、どこまででも二人で飛んで行く・・・」

いやいやいや、結衣は、なりきってるのかもしれないけど、俺からしたら、双子の妹じゃなくて、結衣でしかないから。

急いで、くっついてるのを結衣じゃなくて莉奈だと思い込もうとする。莉奈がいつものように無理やりくっついてきただけ。結衣じゃなくて莉奈。莉奈莉奈。


・・・無理だ。もう、匂いとかからして違うし。血液型も遺伝子も、まるっきり違うんだから!

意思に反して差異が意識されると、ますます心臓が鼓動を早める。


結衣の体温がじわっと全身に伝わってくる。教室、暗いとはいえ、ぼんやりとでも他の人見えるし、こんなの見らえたら・・・。

確かに、どこでも飛んでいけそう。恥ずかしすぎて、宇宙の果てまで行ったきり、もう地球に帰ってこれないかも。



不意に、ぱっと教室が明るくなった。結衣が、夢から覚めたかのように、ぱっと離れた。お客さんたちが立ち上がって、ぞろぞろと出ていく。真ん中の映写機の反対側に、麗香がマイクを片手に、額の汗を拭っているのが見えた。


「麗香ちゃん、お疲れさま!私たち来てたんだよ。とっても上手な説明だった」

結衣が何事もなかったかのように、麗香に駆け寄って行った。

©️サンリオ

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