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文化祭は文化祭?

「うーん、どうも薄くならないなあ」

今日は高校の文化祭。10月なのに、初夏のような日差しと気温。あっちこっちで楽しげな笑い声が聞こえてくる。

校庭には模擬店がずらりと並んでいて、非日常感がすごい。いろんな食べ物の香りが混じり合って、いつもと違う校庭の空気。

うちのクラスのクレープは校舎から一番離れた側。美術部の子が作ってくれた看板には、チョコバナナクレープのリアルな絵と、端っこに、小さく「カフェ サントノーレ コラボ中」と書いてある。



俺は、本来、文化祭とかのこういう雰囲気は得意じゃないのに、なんだか今年は自然とテンションが上がってくる。

春に女神ちゃんこと、結衣と出会ってから、すっかり世界の見え方が変わったなあ。学校って、こんなにキラキラしてたんだ。今日が文化祭ってのを差し置いても。


「勇真、クレープじゃなくなってるよ。お店のコラボ先、サントノーレから、星乃こーひぃに変えた方がいいんじゃないの?」結衣がからかう。

えっと、厚焼きパンケーキで有名なとこね。行ったことないけど。


サントノーレでけっこう練習したつもりだが、いまいち上手くならなかった。いっつも、バイトではホールだけど、キッチンさせてもらったら上手くなるのだろうか。いや、俺の技量じゃ奈緒さんが許してくれるかどうか。


「そういう結衣はどうなんだ。どうせまた破れて・・・」

「ふふーん」結衣が焼き上がったクレープをお箸でひょいとつまんだ。

絹のような滑らかさ、反対側が透けそうなくらい薄い。1ミリたりとも破けてない。

練習した回数、俺と同じくらいなのに。・・・これが女子力っていうものか。


「結衣・・・いつの間に」

「ふふーん、薄くてふわっふわのクレープなら、人気ナンバーワン間違いなし。お店は行列して、大繁盛。看板娘の水無瀬結衣も完全モテ回復!」

「女神ちゃん、調子に乗りすぎですよ。ちょっとクレープが上手くできたくらいで」

「ふわふわのクレープでモテ回復って言ったの、勇真でしょ!」結衣が真っ赤になって怒っている。


隣でクレープにトッピングしている相川美羽が、くすくすと笑う。素直で、ちょっと天然な相川さん。俺らの馬鹿みたいな会話聞かれてたけど、相川さんならそんなに気にならない。


ちなみに、山崎とはまだ上手く行っているようだ。俺が言うのもなんだが、山崎がこんなにも長い間、フラれないでいるのも予想外だった。もうすぐ半年だし。

山崎のガツガツしてるけど、人が良くてちょっと抜けている性格と、おっとり、ちょっぴり天然の相川さん。意外とマッチしているのかも。


相川さんはクレープにバナナを入れて、チョコをトッピングする係。中身を何にするかは、クラスでも結構議論したけど、結局、コスパよくて、売れ筋良さそうなチョコバナナクレープになったのだ。



結衣の言ったことに反して、今のところ、お客さんはあんまり来ていない。少なくとも、人気ナンバーワンとか大繁盛とかとは程遠い様子。


「そんなにお客さん来ないね。サントノーレのバイトだったらこんなに手持ち無沙汰な時間ないからなんか不思議な気持ち」と結衣。

「まー、そうだな。やっぱ、たこ焼きとか焼きそばとかの方が並んでるみたいだな。あと、場所も校庭の端っこって感じだしなあ。ほら、結衣がもっと前に出て呼び込みとかしたらどうだ?看板娘として」

「嫌だよ。恥ずかしいから」結衣が新しく焼き上げたクレープで顔を隠す。



にぎやかな校庭を校舎に向かってぐるりと見渡すと、大人から小学生まで、たくさんの人で埋まっている。サッカー部がやってるお好み焼きなんか結構な行列である。山崎建人が腕まくりしてお好み焼きをどんどんひっくり返していってる姿がちらりと見えた。


「文化祭って、親とかだけじゃなくって、中学生とかも来てるよな。やっぱ、文化祭とか見て、ここの高校にしようとか思うのかな。俺は適当に決めたけど」

「文化祭って校風出るもんねー。あとは制服とかかなぁ。うちはセーラー服だけど、ブレザーのとこもあるし・・・。中学校と変えたいって言う人もいるね」結衣が思案する。


うちの中学はブレザーだったなあ。今も校庭に何人か来ている。あっちの方からも見慣れた影が・・・。


「わ、チョコバナナクレープだ。一緒に食べよ、食べよー!」噂をすれば、聞き慣れた声。莉奈が制服姿で、お友達二人を両側に連れてこっちに来る。


「サントノーレとコラボだって!絶対美味しいでしょ」莉奈のテンションが高い。

「一つ300円です」俺が言う。

「お兄ちゃん、私はタダでいいよね?」

「莉奈は600円となります」

「いいよー。奢ってくれるのお兄ちゃんだから、いくらでもいいや」


莉奈のお友達二人が、「莉奈のお兄ちゃんなんだー!」とか、「やっぱスイーツとか奢ってくれるんだ!うらやまー」とか騒いでいる。テンションが莉奈そのもの。莉奈が3人に増えたみたい。やっぱり類は友を呼ぶってやつか。


「あたし、決めたわ。ここの高校にする」莉奈はクレープをぱくぱく食べながら真面目っぽく言う。

「決めたって、日頃から言ってるじゃん」

「改めて、お兄ちゃんとおんなじ高校に入ろうって決めたの!でも、残念だなあ。あたしが入学した時はお兄ちゃんは大学1年生になるのかぁ。あ、そうだ!お兄ちゃん留年したらいいんだ。2年ほど」

・・・お友達の前で恥ずかしげもなくブラコンをさらけ出せるなあ。


「留年しそうなのはむしろお前だろ。言っとくけど、うちの高校はそんな簡単じゃないぜ。よく勉強しないと」

「お兄ちゃん、校長先生に言っといてよ。可愛い妹が受験するから、合格よろしくね!って」

「チョコクレープ並みに甘い人生を送ってきたようだな。莉奈は」

俺は真っ当なことを言ったつもりなのに、莉奈のお友達、二人して、「グッドアイディアじゃん」とか言ってる。

で、みんなして一通り騒いだあと、「じゃ、またねー」と両手をひらひら振って去って行った。



校舎の時計を見ると、もうすぐ10時。

「相川さん、そろそろ俺たちシフト交代だろ。まだ手持ちの生地あるし、上がる前に一枚食べてく?結衣がまだ焼きたそうにしてるから」

「え?いいのかな」

「余ってるし全然いいだろ。てか、結衣、もう焼き始めてるし」

「なんか、すっかりハマっちゃった」結衣、楽しそう。


「焼き上がったらちょっとパスして」

「え?なんで?いいけど」

「相川さん、トッピングもしておくから、エプロンとか外してていいよ」

「ほんとに?じゃ、先、着替えてるね。山崎くんと待ち合わせあるし」

相川さん、ちょっと緊張した面持ちでテントの奥に下がる。これから山崎と文化祭回るのかー。と思うと、山崎がちょっと羨ましい。やっぱり彼女がいるっていうだけで、文化祭も全然違うよなー。


俺は結衣が焼いたクレープを受け取って、さっきまで相川さんが担当してたチョコをトッピングするボトルを取る。

「ふふ、ちょっとしばらく、山崎になってやる」俺は結衣に、にんまりと笑う。そして、ボトルを逆さにして絞りながら、クレープにでかでかと、LOVEの四文字を入れる。


「勇真ー、どういうつもりー?それって」結衣が肩越しに覗き込んでくる。

「山崎はこれから相川さんと文化祭デートなんだって。出だしが肝心だし、これで上手くいくこと間違いなし」

「うーん、美羽はこんなのもらって嬉しいかな?」

「相川さんは、教科書とかにメッセージ書くのが好きだから、嬉しいだろ」

俺は、ふと春の出来事を懐かしく思い出しながら言った。(←1章、ご覧ください)


「うーん、でも、勘違いしたら?」

「勘違い?山崎は相川さんが好きなんだし、たまには率直に、いや、クレープ越しであっても、想いを伝えるのはいいことと思うよ」

「そうじゃなくって・・・。ちょっと貸してよ」

結衣がチョコを奪い取って、クレープに小さく書き足す。


by 山


「byとか古いなあ。平成初期とかじゃないの?そんなの書いてたの」

「古くてもいいの!勘違いしないのが大事なの!!」なぜか結衣が必死になってる。


「あ、相川さん。クレープできたよ。山崎からメッセージ付きだけど」

俺はクレープを包みに入れて差し出す。


「ありがとう」

包みを開いて、相川さんは頬をぽっと紅く染めた。ちょうどのタイミングで、向こうから山崎建人がやって来た。

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