名残惜しい夏休みはもう1日プラス!
9月1日。なんだか、全身がずっしりと重たいように感じて目が覚めた。
目を開けても、身体を動かせない。
それもそのはず・・・。
「莉奈、なんで俺の上で寝てるんだよ?!」
「あ、お兄ちゃん、起きた。だってさー、耳元で呼んでも全然起きないんだもの。莉奈アラームも声だけじゃちょっと足りないかなと思って」
「だからって乗ってくるな!」
「学校行く時間だよ。今日から新学期だよ」
今日から新学期?!昨日、寝る前に恐れていたことが、今現実になっている。莉奈が離れたのに、起き上がれないほど憂鬱になってきた。
楽しかったなあ、夏休み。温泉旅行に、夏祭りに、昨日はプール・・・。思えば、こんなに楽しかった夏休みも初めて。結衣や麗華、奈緒、莉奈たちとよく遊んだからだろうか。だからこそ、いっそう、今日という日が憂鬱。
「お兄ちゃん、なんで泣きそうな顔してるの?」
「してないって。眠いだけ。お前は新学期、大丈夫なのか?宿題終わったのか?」
「宿題?うーん、昨日がんばったんだけど、寝落ちしちゃった。ちょっと残ってるけど、ま、いっかと思って。あたしは学校、楽しみよ」
「そっか、宿題ほとんどできたのか。ま、がんばったじゃん。結衣と麗華が手伝ってくれたのもあるけど」
「うん、ちゃんと自由研究の考察も書いたよ。『被験者Aは被験者Bが好きなため、触れ合うと、心拍数が100まで上がる也』とかいろいろ」
「一応、匿名にしてるんだな」俺は、いったい被験者Aは結衣なのか俺なのかどっちだろうと、眠たい頭でぼんやり思ったが、結衣と楽しく莉奈の自由研究で遊んだ日を思うと、辛さが増してくる。
朝ご飯をかきこんで、莉奈と一緒に玄関を出る。莉奈は徒歩で、俺は自転車。莉奈に手を振った時、ポケットでスマホが振動した。
結衣からだ。
〔みなせゆい〕おはよう 私、ちょっと風邪気味だから今日休むね 行ってらっしゃい( ; ; )
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「莉奈、結衣が風邪なんだって。昨日のプールで冷えたのかなあ」
「あ、昨日、あたしを置いてけぼりにして行ったプールね」莉奈がちょっと恨めしそう。
「けっこう長く入ってたからなあ。心配だなあ」
「うーん、ちょっとした風邪くらいだったらいいけど。お兄ちゃん、学校休んでお見舞いに行く?あたし、学校に電話してあげようか?」
「そんなこと、できるのか?莉奈が?」
「任せなさいよ。たまには、あたしを頼ってくれてもいいのよ」莉奈がちょっと頼もしげに言って、俺のスマホを取る。
「えっと、学校の番号は・・・。うんうん」
ピロロロ・・・
「もしもし?高2C組の上牧と申します。すみません、今日、熱があるみたいなので休ませてください。・・・はい、承知しました!お手数おかけします」意外としっかりした話し方。でも、あんな若々しい声で大丈夫なのかな?
「・・・休めたよ。担任の先生に伝えとくって。じゃ、また夕方ね」莉奈がもう一度手を振って、すたすたと歩いていく。
どうしよう。急に気が抜けた感じ。時計を見ると、8時15分。
急に時間がゆっくりと流れ出した。
コンビニでも寄って、何か買って行こうか。
結衣のマンション前のコンビニに行く。そうだな、バニラアイスにカップ麺、温泉卵、栄養のいいものを。
マンションのインターホンを押す時、ちょっとためらった。そういえば、結衣の母さんが出てくる可能性もあるのか。だったらどうしよう。
・・・まあ、いいか。いるなら結衣のこと心配する必要ないし、差し入れだけして帰ろうか。
「寝巻きだけど出ていい?」
思ったよりは元気そうな声。
「全然いいよ。むしろ」
「なんか言った?」
結衣が昨日と同じように、片手で胸を押さえて出てくる。ピンクの半袖の寝巻き。今、これ一枚しか着てないのか・・・。
ちょっと上気した顔。風邪ひいてても相変わらずの可愛さ。
「ちょうど、母さん仕事に行ったよ。差し入れなんて、ありがとうね」
「気にするな」俺はちょっとドギマギしながら、答える。
「私に近寄らない方がいいと思うよ。ちょっとプールで冷えただけだから大丈夫と思うけど。風邪移したら悪いから」
「モテ移した女神ちゃんだけにな」
「もうっ、こんな時に何言ってるのよ」結衣がちょっと笑う。俺は玄関に入って、少しためらいがちに、扉を閉める。コンビニの袋を脇の棚に置く。
「ちょっと失礼」結衣に言って、前髪をちょいと脇にやり、おでこに手を載せた。ちょっと熱いかな?すごく熱があるってわけでもなさそうだけど。俺は自分の額にも手を当てる。
「もうーっ、体温くらい自分で測るわよ」
なんだか、ちょっと嬉しそうでもある。
「寝てた方がいいんじゃないか?見張りなら俺がしてるから」
「勇真は自分自身を見張ってなさい。それよりさ、買ってきてくれたカップ麺でも食べようよ。ちょっとお腹空いてきたから。いっしょに」
「じゃ、お湯沸かすな」
台所に行って、ミルクパンに水を入れ、火にかける。
先週みんなで宿題をしたリビング。結衣がソファでだらけている。お湯の沸騰してくる音が聞こえてくるほか、水を打ったような静けさ。
お湯を注いで、3分間待つ間。
ソファの、結衣で埋まっていないちょっと余った端っこに腰掛ける。体温が感じられそうな距離。
「勇真、なんかいつもより近寄ってない?こんな時だからって、もう」
やっぱり、なんだかちょっと嬉しそうでもある。
「いや、普通に心配なだけだから」
「別に一人でも平気だけど、勇真がそんなに気になるんだったら、母さん帰ってくるまで、その・・・、一緒にいてくれる?・・・テレビでも見ながら」結衣がカップ麺の容器で両手を温めながら、こっちを見ないで言う。
「おう。平日だし、いつも見れないのが見れそうだな」
「・・・夏休み、一日延長だね。二人だけ」結衣が神妙に言う。
「お、おう」
「勇真は学校楽しみじゃないの?」
「俺は永久に休みがいいけど」
「でもさ、新学期始まったら、毎日私に会えるの、嬉しくない?」
「自信満々だなあ。ま、そうとも言えなくもないけど」
「あははー、ほんとは嬉しくて仕方ないでしょー。新学期始まっても、またいろいろ遊ぼうね」
ちょっと心配でお見舞い来たけど、いつもの勝ち気な結衣。
明日には機嫌よく学校行けそうだ。結衣も、俺も。
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また会う日まで!




