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スリルたっぷりのウォータースライダーは3、2、1で

「おーい、男子たち。こっちおいでよ」奈緒が二つ隣のレーンから呼ぶ。

「・・・結構泳いだし、休憩がてらみんなでウォータースライダーしに行こうよ」と奈緒。

「いいですねー。あのウォータースライダー、あまり高くないけどけっこう急でスリルあるんですよ」と麗華。

「おう、俺らは全然いいぞ」と山崎。


「結衣ちゃん?・・・うれしいんだけどね、そんなに私に胸押し付けてたら、私のスク水破れちゃうかもー。けっこう長いこと使ってるんだ」奈緒がしれっと過激なことを言う。結衣が、ぱっと奈緒から離れた。


明るくて、綺麗な黄色の水着。水滴がついて、窓からの夏の光で、キラキラと反射している。ん?ちょっと水着小さすぎる?やっぱり山崎の言うように・・・?

それと、別に胸コンになる必要なくないか?麗華とか奈緒が盛りすぎなだけで。


女神ちゃん、ひとたび奈緒から離れると、急につんとした表情で水をばしゃばしゃやって一人遊びしている。もしかして、勝手に拗ねてるとか??


みんなプールサイドに上がり、ぞろぞろと小プールに向かう。

「わー、こっちの方がお水あったかいね。南の島みたい」奈緒がはしゃいでいる。

「しかし、ずいぶん浅いんだな」と山崎が言う。俺の腰くらいまでしか、水が来ていない。

「結衣だけなんで首まで潜ってるの?」俺が首を傾げる。

「もうっ、勇真が見るからに決まってるでしょ?」結衣が両手で思いっきり俺に水をぶっかけながら怒ったような声で言う。

「あははー、結衣ちゃん照れ屋さんですねー」麗華楽しそう。それを聞いて、結衣は腹ばいに水の中に消えていった。ぶくぶくとあぶくを作っている。


結衣が水を跳ねかけたことで、急にスイッチが入ったかのように、みんな水をバシャバシャやったり、女子たちはお互い押したり、足を取ったりしてふざける。


「もうっ、勇真、こっちに水かけないでよー」結衣が片手で胸を押さえながら言う。

「さっきのお返しな」



それから、みんなで階段を登って、ウォータースライダーに向かう。半円筒形のパイプに水がゴーゴーと渦巻いている。スライダーの幅はけっこう広い。

「へえー、ちょっとスリルありそうじゃん」山崎が屈んで、水流を調べている。

「そうですよー。身体がぐるぐるなったりしますよー。絶叫系ですよ」と麗華。

「じゃ、俺から行くな」山崎が意気込んで足からスライダーに飛び込む。すると次の瞬間、仰向けに倒れて叫び声とともに、コーナーに消えていった。しばらくして、下の方からバッシャーンと大きな水しぶきの音がする。


「うわー、結構速いね。私、ちょっと怖いかも。麗華ちゃん、ベテランでしょ。手、繋いで滑ろうよ」と奈緒。

「いいですよー。一緒に滑りましょ!」麗華と奈緒が手を繋いで、そろそろとスライダーに足を踏み入れる。

「3、2、1で行くよー。3、2、1、きゃああー」奈緒の絶叫と同時に、麗華と二人、ぐるぐる回りながら滑り降りて行った。


結衣がちらっと、俺の方を見た。

「勇真?私、ちょっと自信ないかも」相変わらず、右手で胸を抑えている。俺は、ふと思いついて、結衣の言葉の意味をあえて取り違えることにした。


「そうかな?水着よく似合ってると思うし、それに・・・」

「え?」結衣がぽかんとする。

「別に自信なくすことないと思うなあ。いつもの女神ちゃんらしくない。ほら、麗華とかは、まあ盛り過ぎだけどさ。俺はそういう趣味じゃないし、なんというか、結衣にちょうどいい感じだと思うな」ちらっと胸に視線を落とす。


「何言い出すのよ?勇真の変態!私が言ってるのは、ウォータースライダーのこと!」結衣が両腕で自分自身を抱く。

「ウォータースライダー怖いの?」

「そうじゃなくって、水着がこわいの!」

「???」

「えっと、うん、ちょっとサイズが合ってなくてね。麗華がこれくれたの、2年前の誕生日だったから。それで、その・・・」

結衣が恥ずかしげにしている。俺はやっと意味がわかった。合わない水着が取れるのが怖いのね。

それにしても、やっぱり山崎の言う通りだったんだ。俺もさっきから、ちょっと水着のサイズが合ってないような気がしていた。2年間で成長したのか・・・。


「・・・私、やっぱり滑るのやめて階段で降りるわ」ちょっと屈辱的な表情。そりゃ、いつも勝ち気な女神ちゃんだから、そうだよな。でも、いくら女神ちゃんでも、ウォータースライダーで身体がぐるぐる回って、サイズの合ってない水着が外れるなんてことを思うと、「やっぱり怖いので無理でした」と言う方を選ぶだろう。


俺はしばし迷った。結衣がちょっと名残惜しそうに、ウォータースライダーの入り口に注ぎ込んでいる水を足先で触る。


「おーい、上牧、まだかー?怖気付いてるのかー?」下の方から山崎の声がする。

「怖がってるのは結衣ちゃんかなー?大丈夫、全然思ったほどじゃなかったよ!」奈緒の声も届いてくる。


「結衣?ほんとは滑りたいんだろ。大丈夫、絶対取れたりなんかしないから。ほら」俺はウォータースライダーに足を入れて、縁に腰掛け、手招きする。

結衣がちょっと立ち尽くしたあと、忍び足で近づいてきた。


微かに震えながら、腰を落として、俺の膝の上に乗る。一瞬で心臓が、さっきの山崎とのクロール対戦の時の数倍ドキドキになるけど、今日は心拍計もついてないし、好きなだけ鼓動してくれ。


けっこうずっしりと来るんだな。膝に乗せたことあるの、ネコくらいしかないけど、それと比べたら。

もちろん、スリムな女神ちゃんだし、軽量なんだろうけれど、人間だもんな。ぐっと胸の奥から愛しさが込み上げる。


「ちゃんと紐のとこを押さえてるからな」両腕をそっと回して、水着の山の裾野のところをぎゅっと押さえる。


「3、2、1で行くよー。3、2、1、Go」

「きゃあー」結衣が叫んでいる。けっこうスピード早いな。でも、身体が投げ出されるような感じでもないし、結衣が引き離されることもない。


ちょっと、永遠とも思える数秒間、結衣の体重を膝に、胸のふんわりを腕に感じながら、仰向けでプールに突入。


「わあー、結衣ちゃんと勇真が一緒に出てきたー」奈緒が騒いでいる。

「偶然な。ウォータースライダーでぐるぐる回ってそうなっただけ」

俺は結衣の方をちらっと見たけど、大丈夫、取れていない。



思う存分、遊んだあと、みんなすっかり満足し、暑さも吹き飛んで、帰り道へ。

俺はちょっとだけ、みんなと離れて、結衣と並ぶ。


「ウォータースライダー楽しかったね。またする?」

「今日は特別よ。期待しても、もうあんなことはないんだから!」と結衣。少しあせあせしている。

「今度新しい水着、買いに行く?」

「へえー、勇真、また見たいんだね。そう簡単に見せてあげないんだからねー」

すっかりいつも通りの女神ちゃんであった。

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