極秘のノートは5月1日
「勇真もそろそろやったほうがいいんじゃない?宿題」みんなでお昼ご飯を食べた後、結衣が言う。
「そうだな、俺らが身体を張って頑張ったから、莉奈の自由研究もなんとかなりそうだし。あとは麗華が見てくれてるし」リビングでは、麗華が莉奈の中学校の教科書見ながら、懐かしーとか言っている。
「テーブル、狭いしあっちの部屋でしましょうか」結衣が結衣の部屋に案内してくれる。
ここに入るのも2度目。前来た時とあんまり変わっていない。おジャ魔女のぬいぐるみがベッドに置いてあるのと、おジャ魔女のステッキ(結衣が女神ちゃんになりきるときに使うやつw)が机に立て掛けてるのが目立つ。
机の上には、ノートやプリントが綺麗に積み上げられているが、全部コンプした夏休みの宿題だろう。
「ほら、宿題、全部できてるのよ。すごいでしょー、真面目でしょー。勇真と違って」今日、最初に会った時の優越感が戻ってきている。
「俺はまだ3割くらい。なので、女神様、どうか写させてください」
「写させてあげてもいいけど、私、あんまし間違えてないから、そのまま写すと勇真には出来杉くんかも」
「へえー、ちょっと見ていい?」一番上の数学の宿題ノートをパラパラとめくる。女の子らしい、繊細で綺麗な筆跡。結構真面目に丁寧にやってるし、確かにバツがついてるとことか、赤字でいっぱい書いてるところがない。
数学のノートの下には、英語の問題集のノート、その下は綺麗に折り畳まれたプリントの束、その下は・・・。
ん?これは何だろう。一見普通のノートのようだけど、手書きのタイトルがある。
「モテ回復作戦記」極秘
・・・間違って宿題の山に入れたんだろうか。モテ回復作戦記っていったい何を書いてるんだろう。今日は何人に声かけられたとか??むくむくと好奇心がもたげてくる。
「すごい、ほんとに間違ってる問題少ないね」とりあえず、気づいてないふりをする。
「でしょでしょー。勇真が遊んでる間に結構頑張ったのよー。ま、減るわけでもないし、写していいよ」
「全部写すのはプライドが許さないから、一冊だけでいいよ」
「ほんとー?あとで、やっぱもう一冊とか言うんでしょ」高みから、からかってくる。
ふふ、余裕でいられるのも今のうちよ。俺は女神ちゃんの秘密を握った。それも自ら「極秘」と言ってるやつを。
「じゃ、これは返すね」俺はモテ回復作戦記なるものを抜き取って、あとを机の脇にやる。で、リュックから自分のノートを取り出す。
「どうぞ、ごゆっくり。私は後ろで勇真サボってないか見張ってるから」そう言ってベッドに腰掛ける。
「はいはい、ご自由に。女神ちゃん」
さてと、女神ちゃんの秘密を開いてみるか。1ページ目:
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4/28 晴れ
契約 喫茶店 サントノーレにて 今日から作戦開始!
仮想カップルだって 勇真のくせにびっくりすること思いつくじゃん
ちょっと楽しみだったり
♡
LINEしてると夕ご飯に誘われた。あとで、妹の莉奈ちゃんが、なりすましてただけって分かったけど、ちょっとドキドキだった。
ま、勇真だし、そんなぐいぐい来るわけないよね。
でも、カレー美味しかったなあ
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ん?モテ回復作戦記とか書いてたけど、これは日記なのか。なんだか懐かしいことが書いてあるなあ。2ページ目:
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4/29 晴れ
いっしょに学校に行った。なんだか新鮮。
勇真、ネコにまでモテている。。
作戦1 お昼ご飯食べる
勇真の弱点:不意打ちで卵焼きを差し出すと断れない
4/30 曇り
作戦会議@空き教室
次の作戦の相談をしようと思って空き教室に呼び出したのに、二人きりになると急に泣きそうになった。このままずっと一人なのかなと急に思えてきて・・・
幸いなんとか踏みとどまった。気をつけないと。私の弱点なんだから
でも勇真、なんかいい作戦考えてくれるって。ちょっと頼もしかったり
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俺はページをめくるのをためらった。次は5月1日。
5月1日といえば、俺が(あくまで作戦の一環としてだけど)、告白した日だ。あの時は、お互い「作戦の一環として」なんて言ってたけど、もしかしたら、ページをめくったら、結衣の本心が書いてあるかもしれない・・・。でも、これは俺が思ってたのと違う極秘だ。誰々にモテたとか、モテ回復度とか、そんなこと書いてあるのかと思ったけど、まるで違った。これはまじで極秘で然るべきものだ。
「勇真、なに没頭してるの?」
「ん?なんか言った?」
「いや、真面目な顔してるから」
「結衣、ごめんよ。俺はやってはいけないことをやってしまった」
「へえー、今更、宿題写すのに罪悪感?」
「そうじゃなくって、これ」
「あ、それは?あ・・・」結衣が固まる。
「大丈夫、まだいいとこまで行ってないから。2、3ページしか読んでない。まだ4月30日」
結衣が飛んできて、作戦記を奪い取る。
「ふうー、迂闊だったわ。宿題に紛れてたなんて」すっかり赤面している。
「間違って新学期、提出しなくてよかったな」俺は気にしていないふうを装う。
「そんなことするわけないでしょ。自分の家だと思って油断してた・・・」結衣が恥じらっている。
「・・・でも、勇真にしてはよく思いとどまったわね」
「結衣がいいって言うんなら続きも読むけど」
「なに期待してるのよ。だめに決まってるでしょ」
「また勝負して決める?」
「絶対だめ。こういう乙女心溢れてるアイテムは、勝負とかとは違うの!だいたい恥ずかしいでしょ」怒った顔をする。
・・・乙女心とか言うのは恥ずかしくないんだ。
「いつか見せてよ。っていうか、なんかいつか結衣が見せてくれる気がするなあ。不思議なことに」
「え?」
「うん、今日とか明日とかじゃないけど。ずっと未来にさ、お互いの秘密なんて全然ない時が来るかもしれないから」
あ、自分でも気づかずに、プロポーズ予約みたいなのしちまった・・・。
「ねえ、勇真。それって?」
「え?」思わず顔が紅くなるのを感じる。
「やっぱ・・・なんでもない・・・。っていうかさ、なんで勇真まで紅くなってるのよ」結衣はそう言って、作戦記を抱きしめたままベッドに顔を埋めた。作戦記も顔も隠すかのように。
「ところで、宿題なんだけど・・・」
「もう写させてあげない!」




