止められないドキドキは100まで
「えっと、腕相撲の勝負ってことよな」俺は上腕筋にぐっと力を入れる。
「何言ってるの、そんなの勇真が勝つに決まってるじゃん。心拍数よ。さっきと同じルールで。莉奈ちゃん、準備はおっけー?」
「はい、それでは、心拍数勝負の2回戦行きますよー。二人とも手を繋いでね」
手を繋ぐって・・・。結衣はわざとなのか、ネイルをチェックするように、左手で、右手の爪を弄んでいる。
「上牧先輩、さっきと心拍数逆転してますよ」麗華が二人の時計を覗き込んで余計なことを言う。
「おう、スポーツの試合前って大体そんなもんだろ」急いでごまかし、早いことかたをつけようと、結衣の手を取る。
「じゃあ、位置についてー」麗華が二人の手の上をぎゅっと握る。
「よーい・・・どん」麗華の手が離れる。
手のひらに力が伝わってくる。結衣の力に合わせて、腕が倒れないように徐々に力を込める。最初一瞬、つよっと思ったけど、ん?こんなものなのか?前に山崎とやった時みたいな全身で必死に耐えるみたいなことがない。
・・・これは、俺が押し倒していいのだろうか。
「ねえ、勇真。遠慮してるでしょ。本気でやっていいのよ。じゃないと、自由研究のデータにならないでしょ」結衣が覗き込んでくる。
「結衣がそう言うなら」
俺は腕にぐっと力を入れる。すると、その分だけ結衣も力を込めてきた。なるほど、さっきのは流石に力加減してたんね。勝負事になると、必死になる結衣だから、これは・・・。
「中継でーす。現在、上牧先輩が85、結衣が70です!」麗華が実況中継している。
・・・て、俺負けてるじゃん。
結衣が上半身をちょっと近づけた。
「勇真?私とおんなじシャンプーの香りがするね。一緒にシャワーしたみたい」
いきなり何言い出すんだ?!
「上牧先輩が90になりました」麗華の実況。
「あははー。勇真弱っ」
「女神ちゃん?今気づいたんだけどさ・・・」結衣の言葉が終わらないうちに、もうちょっと結衣に近づいて目を覗き込む。
「・・・ネイル、可愛いね。してるの、初めて気づいた」そう言うのと同時に、ぎゅっと手を強く握って、そのまま腕を押し倒した。
「はいー、勝負あり。腕相撲は上牧先輩の勝ち。そして、心拍数の方は・・・」
「・・・上牧先輩が変わらず90、結衣ちゃんが、おっと、これは?91です!先輩の勝ちー」
「よっしゃ!2勝目だ」思わず歓声を上げる。
「えー?ほんとに??勇真が不意打ちで、変なこと言うから」
「俺がなんか言ったっけ?」
「・・・しかも、気づくの遅いし。ネイル」
「え?」
「なんでも・・ない・・」結衣がスマートウォッチをこっそり見ながら言う。
「勇真、今いくら?」
「だいぶ下がってきたぞ。68」
「私はまだ75あるんだけど・・・。ほんとにそんなにあるかなぁ。勇真のやつ、最新モデルだけど、私のつけてるのは違うんでしょ?誤差大きんじゃない?」
結衣が左胸に手を当てている。
「そんな大差ないだろ」
「ほんとかなぁ。ほら、確かめてみてよ、機械じゃなくて身体に聞くのが一番」
結衣が俺の右手を取る。ま、まさか、そうやって・・・。
そのまま、結衣の左胸にくっつけられる。やばばば、りんごウォッチ見ないでもやばい数値になってることが分かる。一気に顔に血が昇るし。
「ほら、数えてみてよ。私の鼓動を」結衣が囁く。隣で麗華と莉奈がきゃあきゃあ騒いでいる。
こ、これが水着の言うBカップなのか?普通にけっこうあるんだな。なんか、なんとも言えない、初めての柔らかい感覚・・・。
「85、90、95、・・・」麗華が実況する。100と言ったところで時計がピーッと音を立てた。
「・・・結衣ちゃんの圧勝です!先輩、針が振り切れそうですよ」
「針なんかないし、振り切れたりしないから!」俺が言葉にならない言葉を発する。完敗だ・・・。
「莉奈ちゃん、いい研究データが取れたね。やっぱ梅ちゃんのアイディア最強だわ」と麗華。
「ちゃんと考察も書いてね。どうして勇真が負けたか、とか」と結衣がアドバイスする。
「そんな考察はいらんから」俺が慌てて止める。
「・・・ふう、もうこれくらいで、十分自由研究書けるだろ。時計外すぞ。やっと60まで戻ってきた」俺は若干の解放感を感じながら、りんごウォッチを外す。
「・・・で、結衣はなんでまだ心臓に手を当ててるんだ?」
結衣が答えるより早く、りんごウォッチがピーッとなる音がした。
「ん?俺はもう外してるぞ」
「わ、私も外してるよ」なぜか結衣が真っ赤になりながら時計を外している。
「どうしたんだ?大丈夫か?」
「もう!なんでもないって。時差で来ることあるの!」
俺には結衣の言葉の意味がちょっと分からなかった。
心拍数勝負、最後は派手に負けたけど、2勝1敗。結衣が言ってた勝負、勝ったわけだな。
またそのうち、プール誘ってみよう、とそんなことを思った。




