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着られない水着は2年間

バスタオルの中から出てきた水着一式。白いタイルの床の上で、真夏の太陽のように輝いている。

俺は着て来た服を全部同じように着て、さて、この水着はどうしたものかな、と思案する。リビングに戻って、どういうリアクションをしたらいいだろうか。やられる気しかしないが、なんとか逆襲する手はないものか。



水着はそのままに、リビングに戻る。


「あー、さっぱりした。結衣、シャワーありがとうね」

「いえいえ。ところで、ちゃんと着替えられた?」結衣がくすくす笑っている。莉奈も水着の罠のことを既に聞いたのか、ソファに顔を埋めて笑いを噛み殺している。

「ご心配なく。ところで、結衣ちゃん?」俺はちょっと声を落として囁く。

「な、何よ?」ちょっと警戒モード。

「プール、行きたいの?」もっと声を落として囁く。

「え?」

「ほら、行きたいアピールしてたでしょ?新しい水着なんか買っちゃって」

ふふ、予想外の手だったろう。結衣がちょっと紅くなる。


「い、いや、あれはずいぶん前の誕生日に麗華からもらったものだから。使わないから莉奈ちゃんにあげようと思って。そっかー、勇真のバスタオルに紛れてたかー」

棒読みで誤魔化そうとする。


「使わないの?もしかして泳げないとか??」

「もうー、分からないかなあ?プール行きづらいから使わないの。ほら、モテ全盛期の時とか思ってみてよ。今は知らないけどさ」


なるほど、他の人の視線が気になるのね。でも、なんかさっきまでと違ってちょっと自信なげな口調では?

気のせいだろうか。


実はさっき、脱衣所で作戦練ってるときに、水着のタグをよく見て来た。Bとあった。確かに、麗華に比べると控えめサイズなのかな、とは思っていたけど。麗華と比べてはだめかもだが、ちなみに奈緒に比べても控えめ。

どうでもいいけど、麗華はどうやってサイズ知ったんだろうか。


それはさておき、完全無欠に思える女神ちゃんの、もしかして弱点?

胸コン(プレックス)とか?

そういえば、前にそんなことを匂わせたこともあった(←4.3話ご参照ください)。ちょっと探ってみようか。


「ねえ、結衣。宿題終わったらプール行こうよ。モテ回復作戦にいいプランだと思うぞ」

「行かないって。麗華にいっつも誘われるけど、断ってるの!」

「でも、せっかく誕生日プレゼントに貰ったんだろ?使ってあげないと」

「勇真?そんなに誘うってことは、もしかして、あれ着てほしいんでしょうー」挑戦的な目。でも・・・なんかいつもほど自信満々でない、というか棒読み的。


「そういうことでもあるかな」俺はお天気の話でもするように平静に言う。

「もう!しれっと何言ってるのよ!莉奈ちゃん隣で聞いてるのに。莉奈ちゃんに過激な影響になるから、この話はもうおしまい!!」

莉奈は過激なのがスタンダードだけどな・・・。



なんとか水着の罠を外したあとに、結衣と莉奈と、隣の麗華家のインターホンを押す。

「はーい。あ、結衣ちゃんね。今行く」

麗華が出てくる。

「みんな揃って遊びに?」

「うん、結衣がプール行きたいんだって」

「違う違う、勇真と莉奈ちゃんの夏休みの宿題!」結衣が慌てて打ち消す。ふふ、効くなあ。

「えっと、麗華、ごめん。ちょっと宿題がピンチで人手があったら助かる。よかったら莉奈の宿題見てくれないか?空いてたらだけど」

「あら、もちろん。じゃ、すぐ準備してくるね。莉奈ちゃん、一緒にお勉強しましょ」

「うん!」莉奈嬉しそう。

「・・・私、結衣がやっとプール行ってくれるんかとちょっと嬉しかったんだけど。水着プレゼントしたのに、全然着てくれないしさー」と麗華。

お、これは麗華を味方につけられそう。


「ほら、麗華も言ってるだろ。宿題終わったらみんなで行こうな」

「ううー、なんか勇真が調子乗ってるなあー。じゃあ、次の勝負で勇真が勝ったら考えるわ」

「勝負するのかよ」

「絶対負けないんだから」結衣が火花を散らしている。



再び結衣のリビング。テーブルに各々の宿題の山が積み重なって狭くなっている。

「で、何からやるんだ?一番ピンチな莉奈からな」

「そうお?じゃあ自由研究からかな」と莉奈。

「自由研究あるのか?!今から何研究するんだ?」

「朝顔でも育ててみる?」莉奈が頭を使わずに言う。

「今から?!『8月31日。朝顔が発芽した。以上!』でいいんならな」


ピンポンとインターホンが鳴って、結衣が出る。

梅ちゃんを引き連れて来た。

「麗華嬢さま、ノートをお忘れですよ。それから、いつもの時計も。私がいなくてもしっかりお勉強なさってくださいね」

「ねえ、梅ちゃん。なんか莉奈ちゃんの自由研究のアイデアないー?」結衣が尋ねる。

「ほう、自由研究でございますか。やるもやらぬも自由ということになさっては?」

「なるほど、それもそうね」莉奈嬉しそう。

「んなことが認められるのかよ」俺は半信半疑。


「そうしましたら、こういうのはいかがでしょう」梅ちゃんが腕からスマートウォッチを外しながら言う。みんなは期待顔で梅ちゃんの次の言葉を待った。

「・・・ここにりんごウォッチがあります。先週出たばかりの新モデルの。これを着けていると、心拍数が測定できるのですよ。いかがですか?いろいろな運動などなさって、計測結果を研究におまとめになっては?」

「ほうー、なるほど、それならものの数時間でできそうね。梅ちゃん天才だわ」結衣が感心している。


「麗華嬢さまのりんごウォッチもございますので、被験者を2名になされば、データの信頼度も高まりますよ。・・・もちろん、お二人で心拍数をお競いになるなどとお遊びになってはいけませんよ。真面目なご研究なのですから」梅ちゃんが結衣と俺の方に視線を投げて、ちょっと皮肉めかして言い、颯爽とワイシャツを翻して立ち去った。



「勇真、さっき言ってた勝負ができるね」

梅ちゃんがいなくなると、結衣が勝ち誇ったように言う。

「え、俺らが被験者になるのか?」

「『ひけんしゃ』ってなにー?」莉奈が聞く。

「要するに、データを取る人な。で、お前がそれをレポートにまとめる」

「ふーん」

「勇真、心拍数って高い方か低いのかどっちが勝ちなんだろ」と結衣が思案する。

「別に勝ち負けとかないと思うけど。ま、強いて言うなら、低い方が勝ちかな。心臓強いと、低く出るから」

「なるほど、じゃあ落ち着いてリラックスしてればいいのね。早速試してみましょ」

結衣が麗華のりんごウォッチを腕に巻く。俺は梅ちゃんの最新モデルを着ける。


「私、65だよ。勇真は?」

「61だ。勝ったな」

「じゃあこれでどう?ほら、下がっていく。64、63・・・60」結衣がソファに横たわる。

「いや、おんなじ条件で測らないと、研究にならないから。さっきのが座ってる時のデータってことで。莉奈、計測結果メモったか?」

「はいはい!座ってる時、結衣ちゃんが65でお兄ちゃんが61と」莉奈がノートに記録する。ふふ、今日は何だか調子がいい。俺を恥ずかしがらせようとして仕掛けてきた水着の罠も難なく回避できたし、今日は絶好調では?


「ねえ、勇真ー。じゃあ次は腕相撲で勝負しようよ。ほらほら」結衣が両手の指をもにょもにょ動かす。ほっそりした指が可愛らしい。しかも今日、初めて気づいたんだけど、うっすらとピンクのネイルしてるし。ちらりと腕時計を見ると、既に75。やばいやばい、これは弱点ついてきたか・・・。


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