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麗華の提案@かき氷屋

「暑いし、かき氷でも食べようか」俺が提案する。

「いいよー、舌がヒリヒリするし」奈緒が答える。

「奈緒さん、まむし汁なんか飲むから」

「あら、私はサントノーレの新作の参考にしようと思っただけよ」

「違う店になってしまいますよ。ケーキ楽しみにやって来た小さい子供とかが逃げ出しそう」

「うふふ。大丈夫。むしろ、まむし汁の効果で街には子供がたくさん増えるから」奈緒が冗談なのか、真面目に言っているのか、そんなことを言う。


「ねえ、勇真。そこにかき氷の屋台あるよ」結衣が少し上気した声で口を挟んだ。どうやらすっかりまむし汁を飲み干してしまったようだ。


「いらっしゃい、かき氷はいかがですか。イチゴ味、メロン味、パイン味、お好きなものをどうぞー」

ハチマキを巻いた威勢の良い屋台のおじさんが声をかける。


「よかった。『普通の』かき氷みたいで」俺がテントを覗いて言う。

「三人いるし、一つずつ違う味買ってみようか。奈緒は何味がいい?」

「私はメロンで」

「じゃあ、私はイチゴ、勇真はパインね」

「おう。ところで、どっかで聞いたんだけど、かき氷のシロップって本当は全部同じ味らしいぞ。色と香りで脳が錯覚するんだって」

「えーっ?そうなの?!」

結衣と奈緒が驚いている。ふふ、どこかのユーチューバーが言ってた雑学。驚いたろう。



「じゃあさー、みんなで確かめてみよ。ちょうど一種類ずつ買ったんだし」

テントのベンチに腰掛け、奈緒が提案する。

「結衣ちゃんからね」奈緒が結衣の後ろに回り込み、両手で結衣の目を隠す。それから、俺の方をじっと見る。

「勇真くん、早くしなさいよ」

「え?」

「ほらほら」あごでテーブルに並んだカラフルなかき氷を指す。

「え?俺が食べさすの?」

「私は両手が離せないから」


奈緒の毅然とした(?)調子に負けて俺はスプーンに手を伸ばす。バイト先の上司だから従うのは当たり前よな、と自分を言い聞かせつつ、イチゴのかき氷をひとさじすくって結衣の口元に差し出す。

こういうの初めてだし、なんか、変な感じ。女神ちゃんが口をすぼめて、スプーンからかき氷を食べる。


「イチゴ味ね」即答。

「正解、じゃあこれは?」

「メロンね」

「うぅ・・・」

「あははー。全部当てられてるしー。勇真くんの雑学、ちょっと信用ならないわね」奈緒が可笑しそうにしている。


「そうかー。都市伝説的なやつだったか」

「勇真もやってみてよ」と結衣。

「え?俺も?」

「うん。勇真、料理できるんだから、味音痴ってことはないでしょーね」女神ちゃんがからかってくる。

「余裕だろ。全部当てるから」

「当てられなかったら罰ゲームね。よし、奈緒は目押さえてて」


罰ゲームとか、聞いてないし。手際よく、奈緒が俺の後ろに回って両目に手をかぶせる。ふーん、これが奈緒さんの指か。なんか、もにょもにょ動かしてるし。

「普通に隠すだけでよくないか?」

「あ、ごめん。つい、いつものお菓子をこねるクセが出て・・・」奈緒が弁解にならない弁解をする。



「はい、あーん」

「女神ちゃん、人が見たら恥ずかしいから黙ってやってくれよ」

「いいけど。目隠しと食べさしてるシチュエーションは恥ずかしくないんだ・・・」

そういうわけでもないけど。



「うわ!冷たっ!」急に冷えたスプーンが頬に当てられた。

「あははー。さて何味でしょう」

「分かるわけないだろ」

「じゃあ、あーん」

ぱくり。ふむふむ、これはパインだな。余裕じゃないか。


「パイン」

「正解」


「はい、あーん」

「イチゴとメロンのミックス」

「おー、正解だよ」


「はい、今度は?」

「イチゴ30%、パイン70%」

「すっごーい!勇真グルメだね」


「はい、これは?」

「ただの氷。シロップかかってない」

「ただの氷を食べさせてるのは誰でしょうー?」

「え?結衣じゃないのか?いつの間にか奈緒さんと場所入れ替わってる?」

「ファイナルアンサー?」

「二択しかないだろ。結衣じゃなかったら奈緒さん」


「残念でしたー。予想外のところを突かれましたね、上牧先輩。これで罰ゲームができます!」きらきらした第三の声は・・・。


「麗華?!なんでここにいるの?」

「びっくりでしたか?私もちょうど来てたんですよー。ばったりですね」

大宮麗華が洒落たピンクのポーチを肩から提げて立っている。隣にはスーツ姿の梅ちゃん。お祭りにスーツで?!梅ちゃんがスーツ着ると、会社員というよりもむしろ秘密結社の一員か何かのように見える。案の定、周りの人がじろじろ見ている。


「上牧さま、奇遇でございます。結衣さま、奈緒さまも楽しんでいらっしゃるようで」

「麗華ちゃんやっぱり誘えばよかったねー。レディーが来るところじゃないかなと思って」結衣が謝っている。


「いいのよー。私も、急に思いついて来ただけだから。お祭りって初めてで。梅ちゃん、その格好じゃ浮いてるし帰ってもいいよ。もうみんなといっしょだし」

「承知しました。くれぐれもレディーにふさわしからぬことはなさいませんよう。皆さまも例えば、縁日で何人に振り返られたなどということをお競いになってはいけませんよ。それでは失敬・・・」

梅ちゃんが会釈して、それから、かき氷の甘いシロップの香りに鼻をひくつかせて立ち去った。



「梅ちゃん、いつもながらグッドアイディアを残していったね!」麗華がはしゃいだ声で言う。

「アイディア??」俺は首をかしげる。

「ほら、小さい頃は広かった縁日もこうして歩いてみるとものの数分で終わっちゃうでしょう。これからさっき梅ちゃんの言ってたゲームしようよ」結衣が説明する。

「さすが、結衣ちゃん。分かってる〜」麗華が図に乗る。

「なるほど、縁日にそんな楽しみ方があったのね!」と奈緒。


「いったい何を始めようって言うんだ?」俺はよく分からない。

「だからさ、私と奈緒と麗華が一人ずつ、参道の端から端まで歩いて、何人が振り返るか数えるの。一番多かった人が優勝ね」と結衣。


「それって・・・三人の友情を壊しそうなゲームだよな」

「私たち、そんなので壊れるほど脆い友情じゃないわよ」結衣が即答する。

「それに・・・負けたら勇真のせいになるだけだから」

「なんでだ?」

「勇真がエスコートして参道の端から端まで歩くんよ」


「えーっ?!なんで俺が」

「さっきのかき氷味当てっこの罰ゲームってことで!」

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