温泉リフレッシュ・・・夜。
「最後は麗華の番ね」
「あ、私、長湯ですから、先寝といてもいいですよ。出てきたらみんな寝てるっていうドッキリで」
「先に知ってたらドッキリにならないだろ」
「でも、確かに眠くなってたね。二回もお風呂入ったし。先寝ちゃってるかも」
奈緒がベッドに寝そべって伸びをしている。
「全然いいよー。私、『円居』の露天風呂、とっても楽しみにしてたから」
麗華が出て行く。
「ふうー。今夜はよく眠れそう。麗華ちゃんはこんなふかふかのベッドで寝るのかー。いいなー。お姫さま気分になれそう」
奈緒がベッドで転がりながら言う。
「クイーンサイズベッドだから、二人でも寝られるよ」
結衣がさりげなく言う。
「あははー。でも、私、寝相悪いから、麗華ちゃんを枕にしちゃいそう」
麗華の胸枕か・・・。ちょっとやってみたい・・・なんてことはない。
「そういえば、和室Aってまだ入ってないけど」
俺はスイートルームでないことを忘れていた。
「部屋は同じ階の206室。鍵もらってるよ。麗華出てこないし、引き上げましょうか」
結衣がカードキーを取り出す。
「そうだな」
和室A・・・その名の通り、ごく普通の部屋。せまい。いや、せまくはないはずだが、スイートルーム「円居」があまりに広かったので、そう感じざるを得ない。
「そっか、この部屋は布団なのね。眠れるかしら。普段、ベッドだから」
「俺はどこでも寝られるよ」
「勇真、布団敷いてね」
せまい部屋で目一杯間隔を空けながら、布団を手早く敷く。女子と同じ部屋って、ほんとにいいのか?いつの間にかそんな状況になっていることが未だ信じられない。
「勇真、なんで布団三枚も敷くの?」
「え?奈緒さんの分も出しておいただけだけど」
「あ、そうね。忘れてた。二人きりかと思いこんでた。じゃ、私、真ん中の布団で!」
「・・・」
やっぱり、今夜寝られないかも。
掛け布団を敷いたところで、結衣が浴衣姿でにじり寄ってくる。・・・う、俺はこういうのに免疫がないのに、やばすぎるシチュエーション。
頼むから、奈緒さん早く来てくれ。そして、「消灯するわよ!二人とも速攻で寝なさい!」とか指示してくれよ。
「ねえ、勇真?」
「は、はい?」
「緊張してるの?」
「いや、別に。なんでだ?」
本当は心臓がジョギング中のようになっているが。
「私はしてるけど」
「別に緊張する要因ないだろ。電気消して早いこと寝ようぜ」
奈緒も来ないし、部屋の電気をぱちっと消した。間接照明と、玄関の非常用ライトが淡く輝いている。意外と明るいままだな。
・・・起きて何かをするには暗すぎるが、かといって寝るには明るすぎるような感じ。ちょうど、内緒ごとでもするような、無駄にドキドキする雰囲気が絶妙だ・・・。
「ねえ、勇真・・・ドキドキするからなんかお話ししてリラックスさせてよ」
結衣が布団に入りながら言う。
「無茶振りだなあ。それじゃあ・・・昔々、あるところに、白雪姫というお姫さまがいました・・・」
「勇真?私、子どもじゃないのよ。もっと大人らしいことないの?」
「メルヘン好きだろ?」
さっき白雪姫になりきってたし。
「あはは、さっきのドッキリね。でも、あれは奈緒のアイデアだったんだよ」
「犯人は奈緒だったか・・・覚えていろよ」
「うふふ。奈緒ちゃん、やり手だからねー」
結衣が布団の中でもごもごと動いて、こっちに近づいて来た。グランドキャニオン並みに布団の間を空けておいたはずなのに、普通に踏み越えてくる。
今日はなんでそんなグイグイ来るんだ?!
温泉の匂いに混じって、女の子特有のいい匂いがするし。
「お、おい。なんでこっち来るんだ」
「えーっとねー。勇真にリードさせたら、私、お嫁にいけなくなっちゃいそうだから・・・」
「どういう意味だよ!俺は何もしてないぞ!」
「しようとしてたとこでしょ?」
「なんでそうなる?!てか、そんなにくっつくなって。奈緒さんが帰って来るよ」
「心配しなくても、カードキーは一枚しかないんだよ?」
いたずらっぽく言う。
・・・逆に心配なんだが。
「今日、楽しかったね。食べ歩きしたり、温泉で遊んだり・・・」
「お、おう。そうだな」
「今も楽しい?」
結衣が囁く。
「それは微妙」
「じゃあ、これでどう?」
結衣がもう少し寄って来て、横にぴったりとくっついた。
「おい、その位置だと床に布団ないだろ・・・」
「あ、そうね。じゃ、もうちょっと向こう行ってよ」
・・・結衣が俺の布団に完全に入ってきてしまった。
「うふふ。これがいわゆる添い寝ってやつね。ほんとは、麗華だったら、もふもふしてて気持ちいいんだけど、今夜は勇真でいいや」
俺は幼馴染の代用品?!
「人肌恋しい季節には早すぎるだろ」
「うふふ。冬だったらもっとくっついちゃうけど・・・今夜はこれくらいで」
結衣が手をつないできて、肩に頭をくっつける。
「・・・勇真?今夜は同じ夢、見れそうじゃない?」
「また女神様になって、『願いごとを叶えてつかわす!』とか言うなよ」
「あははー。勇真が『モテモテになりたい』とか願いごとしなければね」
「まだ覚えてるんだ」
「そりゃ、そうでしょー。あの時が始まりだったもんね」
「夢に出てきた女神様がクラスの結衣と分かった時は、びっくりしたなー」
「あはは。懐かしいね。あれから数ヶ月しか経ってないのに・・・これからも結衣と女神ちゃんをよろしくね!」
「ついに自分で言ったな。『女神ちゃん』って。自意識過剰だなあー」
「もうっ。そんなことないって!勇真がいっつも変なあだ名で呼ぶせいよ!」
怒りながら、女神ちゃんの身体がぴったりとくっついた。
・・・温泉リフレッシュ、ごちそうさまです。




