温泉リフレッシュ・・・部屋ではドキドキ。
ドッキリ作戦。奈緒のターン。
「勇真、そろそろいいんじゃない?行ってきてよ」
「まだ着替えの途中だったらどうする?結衣か麗華、こっそり見てきてよ」
結衣が忍び足で扉に向かい、そろりと隙間を空けて覗いている。
「オッケーだよ。バスタオルにくるまって髪乾かしているから」
「微妙なタイミングだなあ。ほんとに大丈夫か?」
「大丈夫だって。見えないから」
結衣を信じることにして、ドッキリ作戦を開始!
脱衣所の扉をガラリと開けて・・・。
「奈緒さん、大変です。ドッキリとかで遊んでいる場合ではありません」
「ど、どうしたの?」
奈緒が振り返る。
「大変です。サントノーレで焼いていたチーズケーキが燃えています」
「それなら、焦がしチーズケーキとして売るから問題なしよ!」
「違うんです。店ごと燃えています!火事です!!」
「ええーっ!?大変だ!!どうしよう。早く帰らないと!!」
奈緒が取り乱して部屋に駆け込んでくる。
「奈緒ー、そんなに慌てたら、バスタオル取れちゃうよ」
結衣が諭している。
ほんとだ。左手で押さえてるけど、離したらすぐ落ちそうで心もとない。
「それどころじゃないよ!!どうしよう。サントノーレの未来が・・・」
ほんとに信じてるのか・・・?!案外(?)ピュアというべきか、未来の店主への思い入れが強いのか。
「どうしよー!走って帰らなくちゃ。あ、でも夜だし、この辺はイノシシ出るっていうし。あ、そうだ。梅ちゃん、車を早く出して!!」
大パニック。
「かしこまりました。すぐお出ししましょう」
「梅ちゃんまで悪ノリしなくていいから!これはドッキリだから。店、燃えてないよ」
俺が慌てて言う。
「え?ドッキリ?」
「奈緒さん、想像以上のリアクションだったね!あ、店は燃えてないけど、チーズケーキが焦げちゃったのは本当だよ。家からメッセージ来てるよ」
麗華が奈緒のスマホを指差す。
「え?どれどれ?あ、お母さんからだ。『そちらは楽しんでる?うちでは今日チーズケーキを焦がしてしまいました。やっぱり奈緒がいないとだめね。将来はよろしく!』だって。あー、びっくりした。三人とも演技うますぎるよ。まだドキドキしてる」
「あははー」
「奈緒さん、見事に引っかかりましたね」
次は結衣のターン。
「あんまり驚かせないでよね。私、こういうのあんまり得意じゃないから」
「自分は白雪姫とか火事とか散々考えてただろ!倍返しにするから!」
「ふふん、どうでしょうねー」
結衣がお風呂に消えた。
こちらは作戦会議。
「上牧先輩、何かアイデアありますか?結衣の一番驚きそうなこと」
「そうだなぁ」
「勇真くん、いきなりお風呂に入って行ったら?一番のドッキリになるよ」
「奈緒さん、それは逮捕されるから」
「それじゃあ、出て来た途端、『好きです。結婚してください』とかは?」
「奈緒さんの思考はどうしてそんな方向ばかりなんですか?!」
「上牧先輩。結衣が出てくる気配です。今、着替えてます」
麗華が中をこっそり覗いている。
「はや!?準備する時間くれよ」
「勇真くん、よろしくね。一番驚きそうなことをお願い!」
「俺かよ。誰かアイデアないんか?」
「結衣ちゃんの弱点は勇真くんが一番知ってるはずだから」
「ここは先輩にお任せします」
・・・ハードル上げてくるなあ。
どうしようか。小道具なんか用意している暇ないし。
しかし、何も思いつかない。こうなったら適当にノリで行くか。
結衣が出て来た。
「露天風呂熱いよー。すぐ出てきちゃった」
「おかえり」
俺は頭を抱えて言う。
「何考え込んでるの?もしかして、ドッキリ何も思いつかなかったとか?」
「ドッキリって何の話?俺はもっと重要なことを考えていたんだが」
「重要なことって??」
「結衣に関係すること。そこに座ってよ」
「え?いいけど・・・」
結衣がソファの端っこに腰掛ける。ちょっと何かを期待してるかのような上気した顔。いや、単に温泉に入っていたからか。
「えっと、結衣、ごめん。言っておかないといけないことがあって。・・・悪いけど、モテ回復作戦はこれ以上できない。俺たちは仮想カップルではいられなくなったんだ」
「え?それはどういうこと?」
ん?意外と冷静なんだな。さすがに、「え?じゃあ、ほんとのカップルになりたいってことかなー??」とか言ってこないか。いつもはそんなこと言ってからかってくるのに。やはり、警戒しているんだろうか。
・・・もう少し攻勢をかけてみよう。
「どういうことかというと、それは、その、言いにくいんだが・・・」
照れくさそうなふりをする。これでどうだ?これなら、あたかも告白してくるかのように思うだろう。持ち上げておいて、そしてドッキリを発動だ。
「言ってよ」
結衣がちょっと小声になる。効いているんだろうか?赤くなっているようにも見えなくはないが、温泉出たとこだしなあ。まあ、効いていると信じて、発動するか。
「うん。ほんとに言いにくいんだけど、その・・・俺も縁あって彼女ができたので。ごめん、結衣!今までありがとう」
「あ、そうなんだ・・・。ちな、ちなみにそれは誰?」
「え?」
そこまで考えてなかった・・・。シンプルに聞いてくるとは。
「・・・えっと、相川さん。うん、これから山崎と決闘に行く」
・・・
「嘘ばっかり。勇真のドッキリ作戦は失敗ね。お芝居下手ねー!」
「少しは驚けよ。せっかく準備したんだから」
「あははー。でも、ちょっとびっくりしたよ!一瞬、勇真が告白してくるんかなーと思ったりして」




