女神様、契約する
放課後、ケーキ屋兼喫茶店「サントノーレ」にて。
「じゃ、作戦会議開始ー」
テンションが高い。
「俺は関係ないけど」
「関係あるの!さ、どうやったらモテを取り戻せると思う?」
「ちょっと待った。まだ何もオーダーしてない」
「あ、そうね。どれにしようかしら・・・」
「俺はシフォンケーキとセットの紅茶で」
「じゃあ、私もおんなじのにする!あ、飲み物はメロンソーダで」
学校帰りに喫茶店に寄るのも俺としては珍しい。しかも隣には学校一の美少女である水無瀬結衣だ。夢の中でなくても、リアルに女神様と言っていいくらいの。
少し緊張してきた。
「注文もしたことだし、本題だけど、どうやったら元に戻れると思う?」
「俺が男子みんなに、『今なら水無瀬さんは誰とでも付き合うって』とふれまわっておこうか?すぐにまたモテモテになるよ。みんな高嶺の花と思っているから」
「そんな方法はないわ。私、そんな男たらしじゃないし」
「モテモテになりたいんだろ?」
「いつか白馬の王子さまに出会うためにね。もっと他に考えはないの?」
「そんなこと言われてもなあ。一平民が、力を失った女神様のためにできることなんて普通ないだろ」
「恥ずかしいから、女神様って言うのやめて!!」
その声が大きかったので他の客たちが何事かと振り向いた。クスクス笑っている人もいる。水無瀬さんが真っ赤になった。
「えっと、だから・・・とにかく何か考えてよ。どんな方法でもいいから」
「そうだなあ・・・」
シフォンケーキをひとかけ食べて、紅茶を一口飲んだ。
水無瀬さんがモテを取り戻す方法か・・・。普通ならおしゃれをするとか、えくぼを作るとか、そういう恋愛ステータスを上げる手があるものだが、水無瀬さんの場合はどれも上限値に達してしまっているからなあ。事実、先週まではモテモテだったじゃないか。
もう一口シフォンケーキを食べる。
「さっきから食べてばっかりじゃないの?考えてる?」
「水無瀬さんもメロンソーダ半分以上飲んでるぞ」
学校一の美少女がモテないとなってしまったなら、元に戻す方法なんてあるだろうか。並大抵な手段じゃ無理そう。
シフォンケーキをさらに一口食べ、紅茶を飲んだその時・・・。
突如として、普通じゃない方法がひらめいた。
「水無瀬さん・・・」
「何?いい方法思いついた?すぐ効くの?」
「そんなに身を乗り出して食いついて来なくていいから」
「わかったから、言って」
「水無瀬さん、俺と付き合ってよ」
・・・
「はあ?突然何言い出すのよ。こういうのをどさくさに紛れてって言うんだよ」
「いや、モテを取り戻すためなんだ。別に本当に付き合わなくてもいい。ただ、見かけだけがそうであれば」
「それでどういう効果があるの?」
「それを説明しよう。俺のような平凡なのが水無瀬さんと付き合ってるとなると、クラス中騒ぎ出すに決まってる。クラスの男子たちが、なんでお前がってなるだろ。それで、しばらくしたら別れる。すると、あんなやつが水無瀬と付き合えたんだから、俺もいけるんじゃないかってみんな思うようになる。つまり、モテモテさ」
しばらく沈黙があった。
「ふうん、なるほど。確かにそんな気がしなくもないね。よく考えたわね」
「俺にしては、だろ?ちなみにこのプランを実行することで、俺のモテ期も去ることになる。俺が水無瀬さんと、表面上付き合うことで、他の女子は手出ししなくなるから」
「私がクラスで一番かわいいから手出ししても無駄って思うわけね!」
「自分で言うな!ま、そういうことではあるけど」
「あははー。かわいいって言ってるんね」
一人で喜んでいた。
「・・・ということで、作戦がうまくいったら水無瀬さんはモテを取り戻せるし、俺は以前のひっそりした生活に戻れるし、万事解決ってところだな」
「あっさり言うけど、上牧はほんとにそれでいいの?」
「俺はいいんだ。正直女神様のモテパワーでモテるようになるのってどうかなと思うんだ。やっぱりチートじゃなくて自分の力でやっていきたい。俺の言えることでもないけど」
「わー、すごい。上牧の口からそんなセリフが出るなんて。恋人ごっこしているうちにほんとに惚れちゃったりして」いたずらっぽく笑う。
「俺は最初からその未来のつもり・・・だったりして?」
「冗談でしょ。でも、今日はいっしょにお茶できてよかったわ。これからよろしくね。契約成立ってことで」
「おう」
「連絡先交換しとこうよ。いつでも作戦会議できるように」
「連絡先って作戦会議のためかよ。ま、いいけど」
スマホを取り出して振ると、メッセージアプリに水無瀬結衣のアイコンが追加された。
水無瀬さんのアイコンはどこかの海の写真。海に向かってはじけた笑顔を投げかけている。
これが、クラスの男子の中で一番価値があるとされている連絡先か・・・。こんなに簡単に手に入ってしまうとは。
ケーキを食べ終えて、席を立つ。
「お会計はいっしょでよろしいですか」店員さんに聞かれる。
「はい、いっしょでお願いします」水無瀬さんが俺の方に一歩近づいて答えた。
「えー?俺が払うの?」
「デートでは当たり前でしょ」水無瀬さんがさらに接近してきて腕が触れるくらいになった。
「もう作戦始まってるのかよ!」
「善は急げって言うでしょ」
「ことわざの使い方おかしいから。だいたいやろうとしてること別に善じゃないし!」
結局、女神様にケーキおごる羽目になってしまったけれど、まあいいか。
次回は帰宅して妹回です。お楽しみに。