温泉リフレッシュ・・・ベッドが気になるの?!
「あー、満足。釜飯美味しかったね。お料理も」
夕食後、結衣が満ち足りたように言う。
スリッパで廊下を歩いて部屋「円居」に帰る。結衣は白地に淡い桜模様の浴衣。このまま夏祭りにでも行けそう。
「そうだな。温泉もよかったし、泉豊荘にしてよかった」
「他のみんなも気に入ってくれてたしね。梅ちゃんも」
「後の二人と梅ちゃんは?」
「ロビーでお土産見てるとかでしょ。二人と梅ちゃんは放っておこうよ」
ちょっと口を尖らせて言う。
「急に仲間割れでもしたのか?」
「ううん、そうじゃないけど・・・」
そう言いながら結衣がベッドにダイブする。スイートルームの高級そうなベッド。
しかし・・・ベッドでごろごろして、無防備だな。背中からヒップのラインがくっきり見えるし。
俺も上からダイブしたいな・・・とか、思ったりしてはいけない。そんなことを考えているとまた攻撃を食らうし。
頭から追い出す。
「うーん、ふかふかしてていいね。さすがスイートね。麗華ちょっと羨ましい。勇真も飛び込んでみたら?」
「え?」
やはり来たか。
「・・・もちろん、隣のベッドにね」
結衣が顔だけ回して言う。
「あ、うん」
ふうー。一瞬勘違いしそうになった・・・。
「ん?勇真、このベッド使われた形跡があるよー」
「は?使われた形跡??」
「ほら、美羽の香りがするよ。あと、知らない男の子のも」
ほらって言われても・・・。
「山崎がそこで土下座してたんだよ。きっと。相川さんに『よそ見して申し訳ない』とか言って謝罪してたんだろ?」
「ほんとにそれだけかなぁ」
結衣、疑わしそう。なんで話をややこしい方に持っていくんだ?!
「それだけって、他に何かあるのか?」
「それは勇真が聞いてみてよ。メッセージで」
「えー?まあいいけど。ちゃんと仲直りできたか気になるし」
スマホを取り出してメッセージアプリを起動する。
〔上牧勇真〕さっきはどうだった?スイートルームの効果あったか?
ややあって・・・。
〔山崎建人〕上牧、焼肉とカラオケはお前のものだ
〔上牧勇真〕まじか?てことはうまく仲直りできたのか?
〔山崎建人〕仲直りどころじゃない。いい感じになったから、改めて正式に告白した
〔上牧勇真〕まじかよ、それで返事は?
〔山崎建人〕オッケーだって。これで、俺も勝者の仲間入りだ!!
〔上牧勇真〕あんまり調子に乗るとまたへまをするぞ
そっか、ついに告白したのか。
しばらく待ったが、急に既読がつかなくなった。
今頃帰りの電車だろうか。スマホばっかり見てるとまた嫌われそうだし、相川さんとしゃべってるならいいか。
「ねえ、勇真。何をニヤニヤしてるの?山崎くんから返事あった?」
結衣が仰向けになって聞く。
「えっと、うん。あった」
「それで?」
「・・・」
「え?まさか、山崎くんと美羽はここでイケないことを?!」
「女神ちゃん、その発言は、はしたないですよ」
「あ・・・」
気づいたのか結衣が赤くなる。
今日の女神ちゃんはさりげなく、いや、ダイレクトにエロいな・・・。
「山崎は『円居』で相川さんに告白してうまくいったんだって。この部屋も想像以上の力を発揮するな。梅ちゃん、部屋変えて正解だった」
「あ、そうなんだ。これで山崎くんと美羽もラブラブカップルかー」
「フラれるまではな。あの二人、しょっちゅう喧嘩してるから」
「嫌い嫌いも好きのうちよ。そういえば、私たち、喧嘩したことないよね?」
「え?そうだっけ?ずっといがみ合ってるようなものじゃないのか、女神様?」
「え?そんなことないでしょ・・・今のちょっと傷ついた。リアルに・・・」
結衣がうつむいてふくれっ面をする。
「あ、ごめん。その、結衣がしょっちゅうからかってくるっていう意味。別にそれでもいいんだけど」
「なるほどー。そうやって勇真がすぐに謝るから喧嘩にならないのね。たまにはぶつかりあった方が仲も深まるんだよ?」
「仲深めたいの??」
「もうっ。揚げ足を取る機会を逃さないんだから!私はただ、美羽がちょっと羨ましいなって思っただけ・・・」
意味ありげな発言。返答に困る。今のはお誘いってことか?!
気まずさを紛らわせようと、スマホに目を落とすと、いつの間にか山崎から返信が来ていた。
〔山崎建人〕上牧、助けてくれ(>_<)
〔上牧勇真〕どうしたんだ?!
〔山崎建人〕やらかした・・・。あと一駅だったのに、相川さんが口聞いてくれない
〔上牧勇真〕何をどうしたって言うんだ?
〔山崎建人〕さっきの駅で塾帰りのJKが乗って来て。俺の前に立つから
〔上牧勇真〕あ・・・いつものパターンか
〔山崎建人〕ちょっとかわいかったんだ。それでつい凝視してしまった。おい、どうしたらいい?
〔上牧勇真〕もう知らん!
山崎のやつ、予想を裏切らないな・・・。




