温泉リフレッシュ・・・いっしょに露天風呂??
泉豊荘の温泉。
広くて、のんびりできる。しかも他に誰もお客さんいない貸切状態だし。結衣はスイートルーム以外満室とか言ってたけど本当か?
温泉は金泉と銀泉がある。金泉と言っても別に金色ではなく、どちらかというと泥水に近い。銀泉の方はただの透明なお湯。これを金泉銀泉と呼んだ昔の人は風流だったんだろうな・・・。
まあ、ここならゆっくりできそうだ。心地よいお湯の流れる音。さっきまでの三人の喧騒とはまさに対照的だ。
露天風呂で、日暮れでも眺めながら、久しぶりに全身を伸ばして、のんびりと・・・。
「きゃわ!!」
竹垣の向こうから声。そして、どっぼーん!と水しぶきの音・・・。
「勇真いるー?」結衣の声。
「先輩のところも貸切ですかー??」
「そっちから大声で叫ぶな!!」
「あ、やっぱり露天風呂にいるんだ。私、すごいカンでしょ」奈緒の高い声・・・。
・・・温泉リフレッシュってこんな感じだっけ?
女湯の三人の騒ぎがすごいし、竹垣の上から水しぶき飛んでくるし。
ま、他にお客さんいないし、これはこれで楽しむか。
銀泉の中を軽く泳いで、竹垣の側まで行き、水しぶきを向こう側に投げ返した。
「きゃあー。水投げ込んでこないでよ!!」
結衣の声。
「そっちだってやってるだろ!」
そう言ってる間にも大量の水しぶきが頭の上に落ちかかってきた。
「勇真くん?今のは誰の水でしょうー??」
今度は奈緒の声。
「わかるわけないだろ!?」
「飲んでみたら誰かさんの味がするかもよ」
奈緒さん、しれっとR18発言ぶっこんでくるな・・・。
「上牧先輩、金泉と銀泉を混ぜてみたらどうなるでしょうー??」
今度は麗華。
「温泉をめちゃくちゃにする気かよ!」
「答えは少し薄くなった金泉でしたー。ワインでいうロゼみたいなものですね。ちょっとしょっぱいけど」
「実験するな!」
ふう、ほんとにお客さんがいなくて良かった。誰かに見られたら、恥ずかしいどころではないだろう。
いい感じで日暮れになってきた。天頂が濃紺色に包まれて、露天風呂の岩が黒々としてくる。
ん?岩の間に・・・。
「うわ!」
誰かいた!?
「よう、上牧。相変わらずいちゃいちゃしてるな。男湯と女湯に分かれてるのに、さすがモテの上牧だな」
「山崎か・・・。びっくりした!心臓が止まるかと思った。いるならいると言ってくれよ」
「上牧の行動があまりに面白いから隠れて見てた」
「また、そんなことを。てか、山崎、やっぱり来てたんだな。相川さんと」
「うん。お前がいっしょに山にでも登ったら絆が深まるって言うから誘ったんだ。日帰りで、ちょうど相川さんも隣で入ってるところ。ぐふふ・・・」
山崎がニヤニヤしている。
「勝手な想像するとまた嫌われるぞ」
「察しがいいな。実はすでにやらかした」
山崎が温泉の中で、ぶくぶくとため息をつく。
「は?せっかく登山誘って、しかもここまで来てくれたのに?途中何をしでかしたんだ」
「上牧のせいだぞ。源泉のところで水無瀬さんといちゃいちゃしてるからつい見てたら、美羽に『どこ見てるの!』って怒られた」
「こっそり見る癖直した方がいいぞ。別にいちゃいちゃしてないし」
「いや、水無瀬さんの手、握ってただろ?俺もどうやったらあんなふうに・・・?」
「ここから相川さんに『好きだー』って叫んでみたら?」
「まじで?」
山崎が竹垣の上を見る。
「おっと、早まるな。さすがに冗談だよ。てか少しは疑えよ」
「上牧を信頼してるから。恋愛に限ってだけど。で、どうすればいい?このままじゃ帰りの電車は別車両だ・・・」
「そんな悲壮な顔をするなよ。そうだなあ・・・あ、そうだ。温泉上がったらスイートルームでしばらくのんびりするっていうのはどうだ?相川さんのために用意したよとか言ったら機嫌直してくれるんじゃ?」
「この旅館のスイートルーム?いいアイデアだと思うが、俺が破産するよ」
「しゃーない。特別に1時間ただで借りれるようにしてやるよ。その代わり、相川さんが機嫌直したら、焼肉とカラオケとボーリングとゲーセンで奢れよ」
「どんどんツケが増えてないか?それはそれで破産しそうだが、ここは乗るしかない!どうやったらいいんだ?」
・・・
「勇真、上がってたんだ。さっきね、温泉にクラスの相川さんがいたよ。すっごい偶然だなーって」
「こっちは偶然、クラスの山崎に会った」
「知ってる。美羽が言ってた。てことは、二人は温泉デートねー」
結衣が夢見心地になる。
「喧嘩してたけど」
「あ、そうなんだ。相川さんは別にそんなふうにも見えなかったけど。で、勇真は相談持ちかけられたの?」
「よくわかったな。実はそうで、勝手で悪いけど、『円居』にでも呼んで仲直りしたらどうかって言ったんだ。これからご飯だし、少しだけ貸してもいいか?麗華?」
「うん。もちろんです、せっかく取ったスイートだから役立てないと!」
「勇真優しいのね、麗華も」
結衣が微笑んでいる。
「じゃ、先に荷物置いてくるね。結衣のは?」
「これもいっしょに持って行ってくれる?」結衣が麗華にトートバッグを手渡す。
ロビーでコーヒー牛乳を買った。これからご飯だけれど、温泉上がりのコーヒー牛乳は格別だからな。ちなみに結衣はフルーツオレ。
「ねえ、勇真?さっきはちょっとふざけすぎた?のんびりできてたらいいけど」
「あ、貸し切りだったし大丈夫だよ。気にしなくて」
「勇真一人で入るの寂しいかなーと思って」
「いや、風呂って普通一人で入るものだろ」
「そうお?ちょっとだけ、いっしょに入ってる気がしなかった?竹垣一枚しか隔てられてなかったし」
「別に。結衣はそんなこと考えてたのか??」
「まさかまさか。そんなはずないでしょー」
そう言いながらも赤くなっている。これは珍しく自滅か・・・?
「結衣は金泉と銀泉どっちが好きだった?」
「うーん、金泉かなぁ。何回か入り込んだら銀泉の良さもわかるかもだけど。さりげない良さって感じだから」
「俺も金泉の方がわかりやすかったな」
「ちなみに・・・『円居』の部屋風呂も金泉だよ?」
「そうだな」
「・・・」
急に黙りこまれた。
「寝る前に入ろうか?」
「・・・」
「いっしょに」
「もう・・・勇真の変態」
「無視するから、期待してるのかなと」
「・・・」
「またかよ。女神ちゃん、技の数多いな」




