温泉リフレッシュ・・・いざ出発!!
「よう、上牧」
火曜日の朝、通学路でクラスの友人の山崎建人に会う。
「おう、山崎か。浮かない顔だな。今日からテストだからか?」
「テスト?何だそれは?」
「ついに脳内から抹消してしまったか。留年しても知らんぞ」
「そんなことよりさ、俺は上牧のせいで大変なことになったんだ」
「俺のせいで?いったいどうしたんだ?」
「上牧、昨日学校の図書室でいちゃいちゃしてただろ?」
「してない。お前の見間違えだ」
「それで、相川さんといさかいになった。せっかくうまく行きかけていたのに」
山崎はクラスの相川美羽が好きである。
「意味がわからない。俺と何の関係があるんだ?」
「俺も美羽と図書室で勉強してたんだ。で、お前が水無瀬さんといちゃついているから、ついそっちばっかり見ていたら・・・」
「あ、なるほど。相川さんに怒られたんね」
「うん。俺はちょっと参考にしようと見てただけなのに」
「参考にするな。ってどんだけ見てたんだよ」
「とにかく美羽がすっかり怒っちゃって、口聞いてくれなくなった・・・」
「完全に自分のせいでしかないだろ!」
「いや、上牧と水無瀬さんのせいだろ。どうすればいいと思う?アイデアくれたら許すけど」
「はぁー?テストで忙しい時にまた・・・。ま、考えておくよ。その代わり仲直りしたら焼肉とカラオケとボーリング奢れよ」
「わかった。じゃ、頼んだぞ。これで安心してテストに臨める」
「・・・テスト思い出したか」
・・・
「有馬温泉までは山の麓から歩いても行けるけど、結構遠いし、梅ちゃんも一緒だから車で行こうか」
数学のテスト後、意気消沈している俺の前に結衣が楽しそうに現れる。
「うん」
「もっと楽しみにしないの?旅行なのに」
「山崎が相川さんと喧嘩したんだって」
「それで思い悩んでいるの?勇真優しいね」
憂鬱なのは撃沈した数学のテストのせいだけど、まあそういうことにしておくか。
「まあね。あの二人せっかく付き合いかけてたから」
「・・・一緒に一つの山を越えれば絆も深まるものよ」
一緒に山を越えるか・・・登山したらいいのか?「徒歩で有馬温泉行こう」って誘ったらどうかとでもアドバイスしておこうか。山崎に。
「確かに。困難を乗り越えた時は達成感もひとしおって言うしなあ」
「勇真、テスト大変でしょ。ほんとは」
結衣が急に真面目な表情になる。
「まあね」
「終わるまで毎日一緒に勉強しようか。一緒に山越えしようよ。温泉の前に」
「それって・・・絆を深めたいってことか?」
「さあー?どうでしょうねー?」
結衣がいたずらっぽく笑って頰をつっついてくる。
思わず山崎の方を見ると・・・思った通り、ニヤニヤしながらこちらを見ている。俺はこっち見るなと全力で念力を送る。そりゃ、相川さんが怒るのも無理ないな。
・・・憂鬱なテストも結衣のおかげで(?)何とか最終日になり、最後の科目も終了し、ついに温泉旅行!
「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
結衣が梅ちゃん車に乗り込んで騒いでいる。
「よろしくお願いします」と奈緒。
「麗華嬢さまのご学友がまた一人増えましたね」
「梅ちゃん、奈緒さんは二つ上の先輩だよ。そして、『サントノーレ』の未来の支配人」
と麗華。
「麗華嬢さまのご先輩に相ふさわしくていらっしゃる」
「奈緒、合格だって」
結衣がくすくす笑う。
俺は助手席に座っている。梅ちゃんは寡黙に山道を運転している。後ろの三人がうるさい・・・。最近流行っているらしいドラマの話で盛り上げっているようだ。
「運転手兼執事というのも大変じゃありませんか?」
梅ちゃんに話しかける。
「正確には、加えてシェフ兼子守兼ボディーガードですから」
「あははー。今日は三人も集まってうるさいし。お互い大変ですね」
ん?今車道の脇を見覚えのある姿が通り過ぎたような。
慌てて振り返るが既にカーブの向こうに消えていた。
「おい、今山崎と相川さんらしき人影がなかったか?」
後ろの席を振り返る。
「え?見てなかったけど」
「私も」
「おしゃべりしてたからねー」
「お前らもっと景色楽しむとかしろよ!」
車が突然ブレーキをかけて道端に停車した。梅ちゃんがスマホを取り出して何やらしている。
「どうしたの?道迷った感じ?」
梅ちゃんに尋ねる。カーナビはついていない。
「いえいえ。道は記憶しております。停車いたしましたのは、米ドルを売るタイミングとなったからでございます」
「???」
「梅ちゃん、破産しないでね」と結衣。
「かしこまりました、結衣さま」
「大儲けしてうちから出て行ったりしないでよね」と麗華。
「かしこまりました、麗華嬢さま」
「両方の願い聞いたら一円も儲からないから、とりあえずFXはやめたら?」
梅ちゃん、行動に予測がつかない・・・。
再び発車。
「梅ちゃん、さっきの取引どうだったの?」
奈緒が興味津々で聞いている。
「5万円ほど儲かりました・・・」
声音一つ変えずに言う。
「わー、すっごーい!」
「おっしゃるほどでは」
「ねえ、勇真。勇真は大金持ちになったらどうしたい?」
今度は結衣。
「さあー?考えたことないな」
「じゃあ、私たち三人が勇真のしそうなこと考えるからその中から選んでね」
「何でだよ!?」
「じゃあ、奈緒からどうぞ?」
結衣が無視して話を進める。
「そうねぇ。勇真くん、うちでのバイト熱心だから、大金持ちになったらサントノーレを店ごと買い上げそう。それで、オーナーになって、私はただのバイトさんに戻って・・・」
「おいおい、サントノーレの未来のオーナーになるのが夢じゃなかったのか?」
「あ、夢だけれど、勇真くんだったら、譲ってあげちゃうよ?そしたら、私頑張らなくて済むし」
「夢を簡単に明け渡すな!!」
「はい、奈緒はおしまいー。次麗華の番ね」
結衣がどんどん進める。
「そうですねー。上牧先輩がお金持ちになったら・・・うちよりお金持ちになったら・・・。あ、思いつきました!私とご縁を結べますね。両親も諸手を上げて賛成でしょう」
「麗華、ふざけすぎだぞ!!」思わず顔が赤くなる。
「はい、そこまで。じゃあ最後は私かー」
結衣が勝手に思案する。
「・・・そうね〜。勇真は平凡だから、お金持ちになっても平凡なことしかしなさそう。せいぜい、私にBVLGARIの香水買ってくれるくらいしか・・・」
結衣がちょっとはにかんでいる。
「一人だけ現実的なのぶっこんできたな。結衣はそれが望みなのか?」
「まさかまさか。さ、早く三つの選択肢のうちから選んでよ」
「まともな選択肢がないだろ!?」
「十億あったらどれも現実的じゃない?」
奈緒が乗ってくる。
「どれもありうる話じゃない」
と麗華まで張り合ってる。
「えー、まじで選ばないとだめなのか?・・・それじゃあ、一番普通そうなやつとして・・・ブルガリで」
「やったぁ!私の勝ちね!!」
結衣が一人喜んでいる。
「残念、サントノーレ買収かと思ったのに」
「上牧先輩は内心、私の選択肢が一番と思ってますから」
「三人で勝負してたのか?!聞いてないぞ!!」




