モテ回復作戦・・・ネクストステージ行こうか!
「こんばんは。あ、勇真がいる。今日、木曜だったね」
「結衣のシフト日じゃないけど」
「うん。今日はお客さんとしてなの。ココアシフォンケーキ二つお願いね」
「はい、ココアシフォンケーキ二つです。760円になります」
「もうすぐ、バイト終わりの時間だね。喫茶店の方で待ってるから、いっしょに帰ろっか」
「お、おう。いいけど。まだ15分もあるぞ」
「席で勇真の働きぶり観察してるから」
・・・
「お待たせ。それじゃ帰ろっか」
「うん。勇真、ケーキもってね。私、部活のラケットもってるから」
手渡される。
「バドミントン部はどう?麗香は入部するの?」
「うん、仮入部で気に入ってくれたみたいだし、来週入部届出すって」
「そうか。よかった。高校が気に入って。・・・ほら、入学にいろいろあったみたいだから。結衣と同じ高校に行きたかったとか、梅ちゃんが首懸けたとか」
「あ、聞いたんだね」
「うん。この前麗香がバイト、じゃない、手伝いに来てた時に。いろいろなことがあるんだなって」
そうこうしているうちに、マンション「Chateau de Rouge」に到着。
「あ、そうだ。勇真、ケーキいっしょに食べようか。せっかくだから」
「そのために買ったのか?」
「うん。私、アルバイトも慣れてくると楽しいなーって。紹介してくれてありがとうってことで」
結衣がちょっと頬を染めている。
「ロビーで食べよっか。ちょうど誰もいないし。ね?」
エントランスに入って右側にホテルのロビーのような一角があり、小さな丸テーブルやおしゃれな曲線を描いた椅子が置いてある。
箱を開けるとココアの甘い香りがかすかに漂う。手にもって、口に入れるとふわりとした感触と、甘さが広がっていく。
「ココアシフォンケーキか・・・。前に食べたことあるな・・・。結衣は覚えてる?」
「うん。最初にサントノーレに来た時だったよね」
結衣がケーキをもぐもぐしながら言う。
「確か、モテ失ったー、どうしようー!?って騒いでたね」
「もうっ、すぐからかおうとするんだから」
「あはは。モテ失ったの事実じゃないか」
・・・
「うん。でも・・・今の方が、もしかして幸せかも・・・。モテは失ったけれど」
しばらくしてから、結衣が神妙に言った。
「そうなのか?それじゃ、モテ回復作戦は終了かな?」
そう言ってから、一抹の寂しさを感じている自分に気がついた。
「ううん。そういう意味じゃないの。作戦はやめないでね。お願い!」
「いいけど。そういう意味じゃなくて、どういう意味?」
「教えてあげない!勇真にはわからないから」
赤くなっている。
「なるほど、仮想カップルを解消したくないんだな」
「そういうことでもあるけれど・・・ってなんで勇真に言い当てられないといけないのよ!」
「なんとなくそういう気がしただけ。今日の結衣はわかりやすいなあ」
「もうーっ!馬鹿にしないでよ。・・・それじゃ、今、私が考えていること分かる?」
「当てたらいいことあるの?」
「そうねー。シフォンケーキより甘いものあげてもいいよ。ま、勇真には絶対当てられないけれど」
ふーん。シフォンケーキより甘いもの、か・・・。
「結衣?」
じっと目を見つめると・・・結衣がみるみる赤くなっていく。
これは、珍しいな。今日は、もしかしたら、いつもと違って勝てそうかもしれない。
「な、何よ」
目を逸らされる。
「今日の俺の勘をなめるなよ」
「当てられるわけ・・・ないでしょ・・・」
その言葉が終わらないうちに、結衣の肩を抱いて、そして・・・唇にそっとキスする。
・・・3秒くらいあっただろうか。舌がちょっと触れ合って、一瞬血潮が巡り合ったような感覚がした。
「ほら、当たっただろ。女神ちゃん」
「・・・」
「シフォンケーキ、まだ残ってるよ」
「うん」
・・・
「勇真?」
「はい?」
「・・・シフォンケーキの味だったね」
「え?・・・あ、そういうことな。そりゃシフォンケーキ食べてたんだから当然だろ」




