モテ回復作戦・・・ネクストステージ行こうか?
今日は木曜日。学校帰りに「サントノーレ」に寄ってアルバイト。
「こんにちは。今日もよろしくお願いします」
「お、勇真くん。今日は勇真くん一人の日だね」
一つ上の先輩の奈緒がにっこりする。
「はい」
火曜日は結衣だけの日。結衣と来るのは日曜日。
「結衣ちゃんもだいぶお客さん慣れしてきたみたいよ。ずいぶん笑顔になったし、この前はお客さんとたわいない雑談してたよ」
すっかり日も沈み、お客さんもまばらになってきたころ、奈緒が調理場から出てきて話しかける。
「そうなんですか・・・。お客さんにモテてますか?」
「あははー、気になるのね。心配しないでも大丈夫。私がよく見張ってるから!彼女のことは安心してていいよ」
「いえ、そういうことではなくて。あの、結衣は実は俺の彼女じゃないんです」
「え?そうなの?」
奈緒が驚いている。
少しためらったが、簡単に顛末を説明することにした。奈緒さんなら言っても安心だろう。
結衣がどういうわけか急にモテ失ってしまったこと、ここ、「サントノーレ」でモテ回復作戦の契約をしたことから、今に至るまで。
「・・・と、まあそんな感じなので、結衣は『仮想カップル』であっても彼女じゃないんです。あくまで作戦のためで」
「なるほど・・・そういうこともあるのね。彼氏彼女と信じて疑わなかったよ!」
「うーん。だいぶこなれてきたから・・・」
「さっきの話で、一つ分からなかったんだけど、そもそもどうして結衣はモテを失ってしまったの?私から見るとモテない理由はないように思うけれど」
「そうですね・・・俺もそれはよくわからないんです」
「なにか手掛かりを知ってるんじゃないの?」
奈緒が神妙な表情で尋ねる。
うん・・・手掛かりと言えるのかどうかはわからないが、4月の初めに見た夢、女神様からモテパワーを転移される夢、あれのせいだろうが・・・。
この話は結衣の他に誰にも話したことがない。信じてもらえないだろうというのもあるが、まあ恥ずかしいというのが一番の理由だ。
だが、奈緒さんなら・・・そんな話でも笑わないでいてくれそうだ。結衣のことも俺のことも親身になってくれるんだし、思いきって話してしまうのもありかもしれない。
「奈緒さん、実はあるんです。にわかには信じられない不思議なことがあって・・・」
そして、4月に結衣と同じ夢を見たこと、そこでモテを転移されたことを話した。
「へえー・・・そうだったんだ。それで勇真くんは結衣のこと、たまに『女神ちゃん』って呼んでるんだね!」
聞かれてたか・・・。人前では言わないようにしているつもりだったけれど・・・。てか、ツッコむとこ、そこなんだ。
そんな夢、ほんとにあり?とかじゃなくて。
「ま、夢を本当にするなんて馬鹿らしいという感じですが、その日以来すっかり様子が変わってしまったので」
特に俺は突然モテモテになったしな。
「いや、私は信じるよ。二人の夢の話、ありうることだと思うよ。だって、人間の知ってることってこの世界でほんの一握りなんだし。私たちの想像の及ばないことって実際にはたくさん起きているんだと思うから・・・」
そうだよな・・・。あの夢はもちろんだけど、それがきっかけで思ってもみなかったような出来事がいくつもあったしなあ・・・。
急にモテるようになったり、妹との関係が変わったり(いや、妹が変わってしまい)、普通だったら俺に縁のないようなお嬢さま、大宮麗香と知り合いになり、そして、アルバイトまで始め・・・。
思えばここ数ヶ月ほど毎日が輝いていたことはなかっただろう。
「ところでさ、モテ回復作戦とか言ってるけど、結衣ちゃんは本当にモテモテになりたいのかな?私から見たら、勇真くんにぞっこんって感じだけど」
「そ、そうですか?たぶん、急にモテ失ったから、モテに飢えてるだけだと思います。いつか言ってましたが、結衣は白馬の王子さま狙いですし」
奈緒の指摘に思わず頬が紅潮するのを感じた。
「うふふ?そうかなぁー。結衣がモテ失って、勇真くんが急にモテ始めた話だけど・・・なんかわかった気がするな」
「え?どういうことですか?」
「結衣は、勇真くんに惚れこんじゃって、それで自然に他の人を寄せ付けなくなっちゃったんじゃないかしら」
「ま、まさか。そんな気配はとても・・・」
「結衣ちゃんはもちろん、そんな気配は見せないだろうけれど。あと、勇真くんが急にモテるようになったのはもっと簡単なことよ。だって、どう見てもモテる性格してるもん。今までモテなかったのは、その性格が隠れてただけ。あの夢以来きっと勇真くんのいいところが表面化するようになったんだよ!」
「それはさすがにないでしょう。奈緒さん、買いかぶりすぎですよ」
「あはは、そうかもね。現に私も今、ちょっと惚れちゃってるし・・・いや、たぶん前からだと思うけれど。・・・女神ちゃんのモテパワーに私もやられたんかなー」
ケーキの並んだカウンターを背に奈緒の身体がぐっと近づいてくる。そして、奈緒の顔がせまって来て・・・。やばい・・・またフラグかよ!?
やっぱり、女神さまのモテパワー、尋常じゃないって。
「おっと、これ以上近づいたら、結衣ちゃんが黙ってはいないよね。ほら、うわさをすればやってきたよ」
戸口の外に結衣の姿が。
あれ、今日はバイトの日ではないのに・・・?




