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それぞれの想い

シフト


上牧勇真  木曜 16:00~19:00

      日曜 19:00~21:00

水無瀬結衣 火曜 19:00~21:00

      日曜 19:00~21:00

大宮麗香  いつでもおいでー


*急用などで来れないときは新庄(080-7xxx-xxxx)までお願いします

わからないことは何でも聞いてね


メッセージアプリのグループノート。奈緒から招待されたので参加ボタンをポチっと。


こうして、帰宅部の俺にも初めて、定期的な放課後の予定ができた。


今日も学校帰りに「サントノーレ」に向かい、着替えてカウンターに立つ。今日はどんなお客さんが来るかなー。少し楽しみでもある。


入り口の方をうかがっていると・・・誰かが入り口に続くスロープ脇の植え込みでこそこそしている。

店の中を覗いているようだ。

まさか、強盗・・・?


「奈緒さん、怪しい人が覗いています」

厨房の中へ声をかける。

「あら、泥棒かしら。それともライバルがうちを乗っ取りに?」


扉が少しだけ開いて・・・。


「こんちはぁ」

・・・妹の莉奈だった。


「お前か!なんでこそこそ入ってくるんだよ!!」

「お兄ちゃんがどんな感じで仕事しているのか見たいなーって思って」

「だったら、普通に入って来いよ」

「お兄ちゃん、莉奈に『いらっしゃいませー』は?」

「別に、歓迎してないから」

「むぅー。あたし、デラックス抹茶シュークリーム買いに来たのにー」


「あ、そちらが噂の妹さんね。勇真くんに似てかわいいねー。私は新庄奈緒子よ。奈緒って呼んでね。『子』はなしで」

「子」はなしでって毎回言ってるんだ・・・。


「莉奈です。中2です。よろしくね」


厨房からほんのりとブランデーのいい香りが漂ってきて、麗香が出てきた。

手に持ったパレットにはバターサンドがたくさん載っている。


「あ、莉奈ちゃん来てたんだ。ちょうどいいところだよ。今、新作のバターサンド焼きあがったばっかりだから」

「やったー!味見していい?」

「おいおい、売り物だぜ」

「莉奈ちゃんには特別にあげるー。はい、あーん」

麗香が半分に割ったバターサンドを食べさせている。


「美味しいー。麗香ちゃんお手伝いいいなー。私もやってみたいなー」

げ、料理能力ゼロの莉奈が手伝いするとなると・・・食べられるものも食べられなくなるからな。


「・・・高校生になったら。お兄ちゃんが言ってたから」

あ、助かった。てっきり今すぐって言い出すんかと思った。


「奈緒さんってそういえばどこの高校なんですか?」

「私は神辺高校だよ」

「おおー。進学校だ。奈緒さんすごいですね」

「ふふ。私は『サントノーレ』を担っていかなくちゃならないから、しっかり勉強しなきゃ」

「奈緒さん、さすがです。莉奈も見習えよ」


「私も、学年で一番になったことあるよ」

莉奈が得意そうに言う。

「バドミントンの話だろ!」

「お兄ちゃん、すっごーい。ドンピシャだ。莉奈のこと、何でも知ってるねー」

「お前の考えそうなことはすぐわかる」

「あははー。うれしいなぁ」

「別にほめてないけど。奈緒さん、この子の調教頼むよ。今後が心配だ」


「うふふ。莉奈ちゃん、かわいいね。今後といえば、莉奈ちゃんは勇真くんのとこの高校か私のところの高校かどっちに行きたい?」

奈緒が聞いている。

「えーっと・・・お兄ちゃんも奈緒ちゃんもどっちも好きだから迷っちゃうなー」

「俺らは判断材料じゃないから!!」


・・・

「莉奈、邪魔してないでそろそろ帰った方がいいんじゃないか。莉奈が来てからお客さん一人も来てないし」

「お兄ちゃんが働いてるとこ、見たかったのに・・・。あ、そうだ。私もデラックス抹茶シュークリーム買うんだった」



「はい。500円になります・・・」

「もっと明るく、スマイルで言ってよ!」

「千円お預かりします。・・・はい、お釣りです」


「お釣り渡すとき、手握ってよ」

「そんなサービスしてないから!他の店に行け!」



・・・

やっと帰ってくれた。ま、これから莉奈が自分でシュークリーム買ってくれるようになるといいけれど。


莉奈が来たことが関係あるのか、ないのか、その日はいつもよりもお客さんが少なかった。

自然に、奈緒、麗香と雑談する時間が長くなる。


「麗香はなんでうちみたいな普通の高校にしたの?もっと、その、お嬢さま学校に行っていないのが前々から不思議で」

「えっと、それはですね。上牧先輩。いろいろなことがありまして」

「いろいろなこと?」


「はい。まあ簡単に言うと、結衣と同じ学校に行きたかったんです。私たち、小さいころからよく遊んだり、私は両親がよく出張でいなかったので、結衣は姉妹で、結衣の家は半分自分の家みたいなものでした」

「仲良かったんだね」


「はい。でも、小学校も中学校もいっしょじゃなくて。その、私はいわゆるお嬢さま学校に行かされていたので。そこはなかなか窮屈なところでして、私は結衣の話を聞くたびに、おんなじ高校に行けたらなーと思っていたんです」


「なるほど。それで、今の高校にしたのか。でもご両親はすんなりと承知してくれたの?」

アルバイトもだめというくらいだから・・・。


「いいえ、いいえ。とても説得できませんでしたよ。でも、梅ちゃんが助けてくれたんです。首を懸けてくれて」

「え?」


「梅ちゃんがね、出すはずだった高校の願書を出さずに、すべり止めだった今の高校の願書だけ出したんですよ。『うっかりしてた』とか言って」

「へえ、梅ちゃん、すごいことするな」

「ええ。私が今の高校に行きたいのを知って、こっそりやってくれたんです。それで、ほとんどクビが言い渡されそうになったんですが、両親は何とか思いとどまってくれました。私も説得して。だから、梅ちゃんには本当に恩があるんですよ」


なるほど・・・そんなことがあったのか。結衣と麗香の友情、そして梅ちゃんのさりげない愛か・・・。


なんだか素敵な話を聞いた気がした。

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