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作戦には人見知りじゃだめ?

「制服はこれを着てね。それから、二人は基本は売り場の方で、もし喫茶店の方にも人が入ったらそちらもお願いね」

新庄奈緒子さんが、説明する。


日曜日、午後7時。今日は初バイトの日。結衣といっしょに、ちょっと緊張しながら、ケーキ屋「サントノーレ」に来ている。


「わー、かわいい制服だね!」結衣がはしゃいでいる。結衣のはブルーを基調としたスタイリッシュなデザイン。奈緒のピンクの制服とも少し違って清楚な雰囲気。俺の方は、グレーのジャケット風に、蝶ネクタイ。


「制服ってみんないっしょじゃないんだ・・・」

「へへー。一点ずつ私がデザインしたんだよ。いろんなのがあるから、どんなタイプのバイトさんが来てくれても安心ってわけ」

「へえー。すごいな。・・・ん?奈緒はもしかして、バイトさんじゃなくって?」


「ふふ・・・。私は普通のバイトさんじゃないんだよ・・・。サントノーレはうちの実家だから!」

「そうだったんだ!それで、私たちの採用とかもお任せだったんだね!奈緒すごいなぁ」

結衣が目を丸くする。


「でしょー。サントノーレの未来は私の肩に!ってところよ」

「俺らもがんばって手伝います」

「うん。よろしくね。じゃあ、早速着替えて来て、そして喫茶店のバイト募集の張り紙、剥がしておいてくれる?三人集まったから、もう募集終了ってことで」


「三人?ってことは、もしかして」

結衣と顔を見合わせる。



「あ、上牧先輩と結衣だ。いらっしゃいませー」

思った通り、厨房の中から麗香の声。


「麗香も来てるってことは、北海道旅行の成果は上々ってところ?ていうかいつの間に帰って来てたの?!」

麗香はバイトしてもいいかお母様の許可を取りに、北海道まで旅してくる、という話だった。


「あははー、ついさっき北海道から帰って来たばっかりよ。飛行機すっごい揺れて怖かったよぉ。もう乗りたくないしー」

結衣に抱きついてガタガタ震えている。


「リオ行きは大丈夫なのか?地球の裏側なのに・・・」

俺が聞く。


「いいえ、いいえ。リオには行かないんです。北海道の方で門前払いでしたから。レディーはアルバイトしちゃだめだって!」


「え?まじで?それじゃあ・・・」

「うん、そうなんです。アルバイトして金貨とか銀貨を手に入れるっていう夢は叶えられませんでした・・・」

ちょっとしょげた様子。

「5円玉は金じゃないし、100円玉も銀ではないけれどね」結衣が可笑しそうに言う。


「そうか、だめだったんか・・・。奈緒がアルバイトは三人集まったから、って言うからてっきり麗香もいっしょかと」


「いっしょですよ!私もたびたびサントノーレにお邪魔しようと思うんです。奈緒が許可してくれたので。バイトはできないけれど、新作のケーキのアイデア出したり、たまには、ちょっと手伝わせてもらったら・・・とかね」


「そっか、麗香は料理得意だもんね」

一度、結衣の家でごちそうしてもらったことがあったが、今まで食べたランチの中でも5本の指に入るくらい美味かった。


「麗香ちゃんにも制服用意したよー。いつでもこれ着て遊びに来てね!」

奈緒がにっこりとして、クリーム色のワンピースを手渡す。綺麗なレースがついていて、気品がある感じ。


「ありがとうございます!制服まで用意していただいて。・・・あ、北海道のお土産持って来たのでよかったらどうぞ。こちらは奈緒のご両親にも」

麗香が紙袋からお菓子の箱をいくつか取り出す。


「あ、六花亭の『バターサンド』だ。これ美味しいよねー」

奈緒がうれしそうにしている。


「私、バターサンドとかも作れたりしますよー。サントノーレはケーキとシュークリームがメインだからちょっと違うかもしれませんが」

「そんなことないよ!新しい試みはいつでもウェルカムカモンだから。調理場と調理器具自由に使っていいからぜひお願いね!」

「ありがとうございます。私、人見知りなので、できればカウンターじゃなくて中の方で、と思っていたところなんです。お菓子作りなら大好きですので」


バイトできないって言いながら働く気満々だ・・・。む、これは俺ら正規のアルバイトよりも貢献度が高くなるのでは?!



・・・

「いらっしゃいませ。・・・はい、モンブラン2つですね。承知しました。少々お待ちください。お帰りまではどれくらいの時間ですか?保冷剤をお入れしますので」


初めてのお客さん。なんだか斬新な気分。いつも買いに来てはいたけれど、売る側になるのって初めてだもんな。


隣で結衣がガラスケースを開いてモンブランと保冷剤を詰めてくれる。


「はい。1000円、お預かりします。・・・200円のお返しです。ありがとうございました。またお越しください」


結衣と揃ってお辞儀をする。大学生くらいの爽やかなお客さん。これから帰って彼女と甘々ケーキタイム・・・だろうか?勝手にそんなことを想像したりする。


「いらっしゃいませー。・・・はい、デラックス抹茶シュークリームですね。ありがとうございます」


俺が応対すると、結衣がちょっとぎこちない手つきでシュークリームを紙袋に入れる。


「ありがとうございました。どうぞお気をつけてお帰りください」



・・・

「結衣ー?なんでお客さん来たら俺の後ろに隠れるんだよ」

「私、知らない人と話すの恥ずかしくって・・・。勇真平気なの?」

「俺はむしろ出会ってすぐ別れる人の方が気兼ねなく応対できるけど・・・。結衣の方がいっつも学校でしゃべってるじゃん?」

「知ってる人だといいんだけど。私、こういうの苦手かも。ケーキ詰めするから、おしゃべりは勇真よろしくね」

・・・既に右半身隠れてるし。今お客さんいないんだけど・・・。


「まじかよ。奈緒みたいにモテモテになるチャンスだと思ったんだけどなあ。ほら、さっきの大学生、イケメンだったろ?財布もおしゃれだったし」

「ほんとに?緊張して全然気づかなかった・・・」


「ええーっ?結衣らしくないなあ。もしかして、わざとやってる?恥ずかしがってる方がウブのバイトさんぽくて、かわいく見えたり、とか狙ってるんじゃ?」

「私、そんなわざとやったりしないわよ。あー、次のお客さん来たよ・・・」

壁際に後ずさりする・・・。どうもお客さん苦手なのは本当のようだ。


学校とは違って、そんな一面があったのか・・・。なんかかわいいな。

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