作戦のためならバイト始めちゃう?
「いらっしゃいませー」
かわいい店員さん。大学生のバイトさんだろうか。薄い桃色の制服が店の雰囲気によく合っている。白色のキャップからはショートボブの先がのぞいている。
「あ、抹茶シュークリームですね」
う・・・ついに覚えられてしまったか。ここしばらくは、よく来ていたからな・・・。
「えっと、はい。今日は期間限定のやつで」
「デラックス抹茶シュークリームですね。ありがとうございます。これ、毎年人気なんですよ」
「あ、はい」
人気って、500円もするのに!?
「いつもシュークリーム買って帰るなんて優しいね。彼女に?」
「い、いえ。これは・・・病気の母に買って帰るだけですから」
「あははー。出まかせね。ほんとはかわいい妹ちゃんでもいるんじゃない?」
う、なぜ見抜かれた?「かわいい」かどうかは別として。
紙袋にシュークリームを詰めてくれる。
「あ、そうだ。今日は新作のケーキがあって、『ガトーフロマージュ』なんだけど、よかったら、一つごちそうするから食べて行かない?いつもお世話になってるし。ね?」
「い、いや・・・それは」
「いいって。遠慮しないで。紅茶も出すから。アッサムティーにするわ。座って待っててね」
「あ、はい。ありがとうございます」
売り場の隣には小さな喫茶店があり、買ったケーキをそのまま食べることもできる。結衣と最初にモテ回復作戦(仮想カップル)を契約した懐かしいところだ。
今日は誰もお客さんがいない。
少ししてガトーフロマージュと紅茶が出てきた。
いただきます。
ビターなチョコに、ほんのりチーズの風味。意外な組み合わせだけれど、けっこう合うんだな。現実世界にもよくあること。
結衣と俺もそうだろうし、麗香と結衣だって性格はぜんぜん違うのに、親友だし。
夕方ということもあってか、喫茶店の方と対照的に、売り場の方が活気づいている。
大学生らしき人や、俺と同じように学校帰りの学生、若いサラリーマンらしき人・・・。
ん?これはモテモテじゃないか。
ガトーフロマージュを出してくれた店員さんは一番愛想がよくて、よくおしゃべりしているし、ケーキもよく売れている。
こうして見ていると、なんだかケーキ目当てというよりも美人の店員さん目当てに来ているのでは?と思えるほど。
そうだ!いい作戦を思いついた。結衣もここでバイトしたらモテモテでは!?クラスの子以外に知り合えるチャンスだし。
ちょうどいい具合に、壁に「アルバイト募集中」の張り紙がある。
「あ、もしかしてバイトしたい?」
さっきの店員さんが、お客さん並んでいるのを放ってこっちにやって来る。
「い、いえ。ちょっと見てただけで」
俺がバイトしたいわけじゃないけど。
「ふーん。今人手不足だから、いつでもウェルカムだよ!いつも来てくれてるし、妹思いで優しいこと知ってるから、やりたいなら即採用ね!」
「あ、ありがとうございます」
「まだ名前言ってなかったね。私、新庄奈緒子。奈緒って呼んで」
「上牧勇真です。よろしくお願いします」
「勇真くんね。こちらこそよろしく。またいつでも来てね!」
次の日。
「結衣、おはよう。昨日思いついたことなんだけど、『サントノーレ』でバイトしない?新たなモテ回復作戦として」
俺は、昨日の出来事を簡単に説明する。結衣が乗ってくれるかと思って、「新庄奈緒子」のモテ方については実際よりもだいぶ誇張しておいた。
「ふーん。なるほどね。私たちが契約したケーキ屋さんかぁ。縁起はよさそう。・・・でも、店員さんがみんなモテるとは限らないわよ」
「結衣なら問題ないだろ」
「なんで?」
「それ聞く?」
「うん。聞きたい!」
結衣が期待顔でせっついてくる。
「仕方ないなあ。うん。結衣がかわいいから。言わなくても自分で知ってるだろ」
「うふふ。聞きたかったから。ちなみに、その新庄奈緒子とかいう子よりも?」
「2、3倍は。てか、別に比較しなくても。もしかしてだけど、張り合ってる?」
「ううん、違うの。私は勇真がまた、その子に会いにケーキ屋さん通い詰めてるのかと思った」
「そんなわけないだろ!やっぱり女神ちゃん、ジェラシーじゃないか」
「ま、まさかね」
結衣がぽっと赤くなる。
「とにかく、ちょうどバイト募集中だったし、やってみたら?」
「そうねー。勇真もやるなら」
「何で俺まで!?」
「だって、金欠でしょ。稼がないとだめでしょ」
「モテ欠の結衣に言われたくないな。ま、確かに金はないけど。主に妹のせいで」
「あ、あと、麗香もこの前アルバイトしてみたいって言ってたよ」
「大宮さんが?!一番バイトする必要なさそうな人なのに」
麗香嬢の懐事情は相当なものとうかがい知れる。
「うん。お金はあるけど、バイトしたいんだって。そうだ!今日の昼ご飯には麗香も誘おうよ。それでサントノーレでオッケーだったら、みんなで押しかけようよ」
「いいけど。そんなにバイト募集してるかなあ」
「ま、それは交渉次第ね。じゃ、決まり!お昼ご飯は学校前のレストランでね!」
「え?外なのか?」
「麗香ちゃんは毎日抜け出してレストラン行ってるよ。学校の食堂とか購買とかで食べてると思った?」
「特になんとも考えてなかったけど・・・麗香すごいな・・・」
そんなわけで、その日の昼休み、結衣、麗香と校舎を出たところで待ち合わせ。
「上牧先輩、ご一緒にランチできるなんて嬉しいです!今日は私が行きつけのレストランに招待しますね。結衣ちゃんも」
「まじで?学校抜け出していいのか?」
どこか、秘密の抜け道でも知っているのだろうか。
「はい!全然問題ないですよ。じゃ、行きましょう」
麗香が先立って歩いていく。
向かう先は・・・普通に正門じゃないか。大丈夫なのか。
「警備員さんいるけど・・・怒られないのかな」
麗香は気にせず、堂々と進み、警備員さんににっこりして、ちょこっと手を振る。
す、すごい。顔パスだ。俺と結衣まで。
裏で賄賂でも払っているのだろうか?!それとも、麗香の毅然とした態度とバストのおかげ・・・だったりして。




