遠足は恋心とともに
今日は新入生との合同遠足。
小学生ではないが、ゆうべはやや興奮してなかなか寝付けず・・・目を覚まして時計を見ると・・・あ、やばい、二度寝してた。
時刻は8時5分前。
今日に限って莉奈が起こしてくれないで先に朝練行っちゃったようだ。
大急ぎで着替える。今日は私服だから、少し手間がかかる。
ピンポン、と玄関でベルが鳴った。
階下で母さんが出ている。
「勇真?友達が来てるけど・・・車で」
車で!?となると・・・。
窓の外を覗く。思った通り・・・梅田さんの車だ。
「勇真、寝癖ついてるよ。昨夜は夜更かしして寝坊?」
ぐ、見抜かれたか。
「上牧先輩、おはようございます!今日はよろしくお願いします」
「わざわざ迎えに来たの?」
「うん。勇真、メッセージに返信しないから、寝坊だろうなーと思って。早く準備して乗ってよ。遅刻するよ」
「わかった。すぐ行く」
スマホを見ると、確かに、7時過ぎから「おはよう」とか「起きた?」とか「まだなのー??」とか「早く!!」と連絡が来ている。
「行ってきます。遅刻しそうだから朝ごはんは抜きで」
母さんに言っておく。
「あら、起こせばよかったね。それより、友達が来るなんて珍しいわね。しかも可愛い女の子なんて」
「ま、まあね」
「今度からうちも車出さないとね。男の子が送っていかないと」
ツッコむとこ、そこかよ!うちの母さんは適応力が高いのか、大抵のことでは驚かれないのはいいところだけれど。
ザックを持って、車に乗り込む。
「お邪魔します」
「おはようございます。麗香嬢さまのご学友さま」
運転席にはおなじみの梅ちゃんこと梅田さん。
「上牧勇真と申します」
すでに何度かお世話になっていながら、まだ名乗ってなかったけれど。
「上牧さま、でしたか。いと高貴なお名前で。麗香嬢さまに相ふさわしい・・・」
「あ、勇真は俗なやつだから、梅ちゃん勘違いしないで。いきなり、モテモテになりたいな、とか言い出すやつだから」
結衣が反論する。これはどうやらジェラシー気味の模様・・・。
「失礼いたしました。もちろん、上牧さまは結衣さまにも相ふさわしくていらっしゃるかと」
「そ、そういうつもりでは・・・」結衣が口ごもっている。
梅ちゃん、おそるべし。言葉の端々から内心をキャッチしている。
・・・
快適な車から代わって、大型の観光バス。
中は騒がしいが、寝不足で、発車して数分もすると爆睡してしまった。
気がついた時には、国立あいな自然公園到着。
駐車場には他のバスも何台か停まっている。平日だし、特にこれといった何かがあるようなところでもないので、一般のお客さんはほとんどいない。
うちの高校のバスの他にほとんどいないが・・・。
ん?あれは・・・見覚えのある車。黒いBMWのセダン。もしかして・・・。
あ、梅田さん。なぜここに!?今日2度目。
「これはこれは。上牧さま。お着きでしたか。ちょうど麗香嬢さまのバスも先ほど到着しました」
「なんでここにいるの!?」
「私は麗香嬢さまの運転手兼シェフ兼子守兼ボディーガードですので」
なんか役職増えてないか?!
「上牧さま、どうか、お気になさらず。一般観光客を装って影法師のようにお付きしますから」
梅田さんそう言って、漂うように離れて行った。
公園の遊歩道を歩いていく生徒たちの列から少し離れて、景色を楽しんでいるように見せかけながら、芝生の中を折り目正しいスーツ姿でつけてくるが・・・。怪しい怪しい。
ただの不審者でしかないから。他の生徒たちは何とも思わないのだろうか。
・・・ま、見た限りではみんなおしゃべりに夢中で気づいている様子がない。
それなら・・・まあいっか。
梅ちゃん、あとで「麗香嬢さまに相ふさわしい御曹司を何人か見つけておきました」とか言い出したりでもするのだろうか。
高1C組の9班と合流する。大宮麗香と、あと3人は女子。俺の班は全員男子だから、なんちゃって合コンみたいでいやだな。
大宮さん、気まずいのか、俺とばっかり話そうとするし・・・。俺と大宮さんだけ列から少し外れて、完全に別グループになっている。
「おい、せっかくなんだから、他の人としゃべれよ。気になる人いるかもなんだし」
「あ、前に言ってたやつですね。上牧先輩のアドバイスは、『平凡な人と長くいたらいい』でしたっけ」
「まあな。ほら、うちのグループの岡町とかどうだ?いいとこのおぼっちゃまらしいぞ」
「あ、彼はいいです。私、モブキャラとは付き合いませんから」
モブキャラって!?まだ知り合って間もないのにモブキャラ扱い!?執事持ちとか滅多にいないと思うけど。・・・いや、大宮さん一家の周りでは普通だったりするのかもしれない。
公園内を散策、ということでみんな延々と歩いている。新緑が美しい。澄んだ空気のせいか、新入生もきらきらして見えなくもない。
「ちなみに、私、岡町くんより長くいる人で好きになりそうな人がいます。アドバイスのおかげで・・・」
「お、そうだったんだ。それはよかった」
「ちなみに、ちなみに、それは・・・上牧先輩です・・・」
うつむいて、消え入るような声。一瞬世界が二人きりになったような感じがした。麗香の心臓の音まで聞こえてきそうだ。
「俺かよ・・・」
「はい!先輩は私のたわいない相談にも乗ってくれますし、妹思いで優しいですし、それに・・・先輩の言う通り、一番『長くいっしょにいる』方ですし。あ、結衣と梅ちゃんを除いてですが」
「しかし、俺は結衣がいるから。ごめん」
「結衣とは仮想カップルですよね。それなら・・・」
例によってぐいぐい来るなあ。いつもの大宮さんを取り戻したようで少しだけほっとする。
「そうだけど、モテ回復作戦だから、『仮想』っていうのがみんなにわかったらまずいし・・・それに」
「それに?」
「実は俺は少し本気であったりするから・・・」
麗香嬢アタックをかわすために、何気なく言ってしまったが、言ってから、それがあながち嘘でもないことに気づいた。
「あら、そうなんですね・・・完全に『仮想カップル』かと思ってました」
「80%はそうだけど。・・・今のは結衣に言うなよ。結衣は勝気だから、また高飛車にからかってくるから」
「はい。約束します。先輩も、今の私の話、秘密にしててくださいね。結衣とはずっと親友でいたいですから」
「おう、絶対秘密にするよ」
大宮さんがにっこりして手を差し出す。自然にぎゅっと握手した。
「・・・上牧先輩ならきっと結衣ちゃんの心を掴めますよ。もしかして既にそうなのかも・・・。私鈍感で気がつきませんが」
「いや、結衣は単にモテ回復作戦のためだから・・・違うと思うよ」全身が火照ってきた。
「それと、先輩・・・あの・・・お礼をいいたくて。好きになるってことがちょっとわかった気がします。私、世間知らずですから。いろいろと教えてくれてありがとうございます」
「俺は何もしてないけど」
「いえいえ。上牧先輩がいたからですよ。なんだか希望も出てきましたし、好きな人はゆっくり探してみようと思います」
「うん。また何かあったら言ってくれ。岡町の他にも執事持ちのやつがいれば紹介するから」
「だから、モブキャラとは付き合いませんって!・・・あ、ごめんなさい。これからもよろしくお願いします。よかったら、連絡先交換しておきませんか?」
「おけ。こちらこそよろしく」
自然公園の広場の遊具に腰掛けて、連絡先に「麗香」が追加された。
園遊会での意外な出来事、ずっと忘れそうにない。女神様のくれたモテ、凄まじいパワーだな・・・。




