Kisses from my sister
「こらー!またこんなことを」
「誘っただけなのに?なんか問題あるかなぁ」
「大ありだよ!!それ、俺が誘ったことになってるから!」
どうやって言い訳しようか・・・と思っている間に既読がついてしまった。
俺が「いっしょにお風呂入らない?」なんて言ってるのを、今この瞬間に結衣が読んでると思うと・・・やばい、やばすぎる。
急に着信画面になり、スマホが手の中で振動した。
「あ、電話かかってきた。うう・・・俺、恥ずかしくて出られないから、莉奈、あとはよろしく」
莉奈が電話に出る。
「もしもしー?莉奈です。・・・うんうん。びっくりした?・・・そう?よかった!・・・じゃあ今から行くね!」
OKなんかい!
「やったー!来ていいって。よし、シャトーまでもうひとっ走りだ!」
莉奈がいきなり駆けだす。
「待てよ!そんなにはしゃぐなって!!」
夜のシャトー。最上階まで上がって麗香嬢のご住まいへ。
「お邪魔しまーす」
おおー。玄関が俺の部屋くらいもある。
「どうぞー。あ、上牧先輩も」
「勇真、さっきはすっごいびっくりしたよ!勇真のド変態!って思った」
「そう反応されると思った。莉奈が勝手するから」
莉奈を突っついた。
「とみせかけて、ほんとは勇真が送ったんじゃないの?」
「なわけあるか!!」
「あははー。ちょうどお風呂沸いてるよ。麗香、莉奈ちゃんいっしょに入ろ!勇真は、梅ちゃんと晩酌でもしてて」
「ノンアルでな。そういえば、大宮さんのご両親は?勝手に押しかけちゃってるけどいいのかな」
「あ、うちの両親は今離れ離れで・・・」
あ、これは聞いてはいけないことを聞いてしまったか・・・。
「・・・母は北海道、父はリオデジャネイロに行っています。毎月の半分くらい出張でいないんです」
「あ、そうなんだ。大宮さん半分一人暮らしなんか・・・。すごいな、そしてちょっと羨ましい」
「いえいえ。梅ちゃんがいるので一人じゃないですよ。それに、しょっちゅう電話にメールにうるさいですよ。特にリオは昼と夜が逆だから、夜中まで『お風呂入った?』とか、『今何してるの?』とか・・・」
そうなんだ。まあ、お嬢さまだから仕方ないよな。
大宮さん家のリビングには猫脚のテーブルや安楽椅子、ロイヤル・コペンハーゲンの紅茶セットなどが置かれている。調度品が見たことないほど豪華。壁には・・・貝殻の上に立った裸婦の絵画。・・・「ヴィーナスの誕生」だっけ。
隣の部屋ではグランドピアノがあり、執事の梅田さんがジャズを奏でている。シェフに、運転手に執事に、ピアノって・・・梅田さんの能力って無制限なのだろうか。
豪華快適なソファで、大宮さんがくれたGODIVAのアイスを食べながらのんびり待っていると、結衣がまず上がってきた。
「気持ちよかったー。勇真もいかが」
「俺は遠慮しとく。そろそろ帰らないと母さん心配させるし」
「そうなんだ。莉奈ちゃんももう上がるよ」
と言った数秒後・・・。
「あー、いい湯だった。お兄ちゃんも冷めないうちに入ってきたら?広いし、豪華だし、ジャグジーがついてるし、それに、まだ麗香ちゃんが入ってるよ」
「最後のはやばいだろ!」
「大丈夫だよ。今日は泡泡になる入浴剤入れたから。何にも見えないし」
「大丈夫な理由になってない!」
「あと、麗香ちゃんも『上牧先輩も来たらいいんですが』って言ってたよ!」
「まじかよ!絶対嘘だろ」
「あ、バレたか。そう言ったら入る気になるかなと思って。ほんとは莉奈が『お兄ちゃんも来たらいいのにー』って言ったんだよ」
「あ、そう。もはや驚きません」
・・・
「お兄ちゃん、今日はありがとう。ジョギング付き合ってくれて、お風呂まで」
「いえいえ。別に何もしてないから」
「ううん。いっしょにいてくれたじゃない。ほんとにありがとうね」
そして・・・莉奈が首に両腕を回してきて、頬にキスする。
「やめろって。いきなり何しだすんだ!!」
髪がまだ少し濡れていて、入浴剤の匂いがする。妹とはいえ、若干どきどきしてきた。
「あ、結衣ちゃん。羨ましそうにしてるー」と莉奈。
「してない、してない!!」結衣が真っ赤になっている。
「妹特権だよ!羨ましいでしょー。ねー、お兄ちゃん」
何度もキスしてくる。
「ちょっと、おい!まじでやめろって!」
慌てて身体を引き離した。
「仲いいねー。ほほえましいー」
結衣がくすくす笑っている。
「おい、莉奈。ふざけてないでそろそろ帰るぞ。もう10時半だから帰って寝ないと。大宮さんはまだなのかな」
「麗香ちゃんは長湯だからね」
「じゃあ悪いけど、結衣、よろしく言っといてくれ。先帰るから」
「うん。また明日学校でね」
「おう」
玄関に向かう。
「ねえ、勇真?」
「うん?」
「10秒だけ私を捨てていい?」
結衣が何かためらっているのか、顔をふせてもじもじしている。
「え?どーゆーこと?」
しかし、結衣はそれには答えず、無言のまま・・・。
そして、突然顔を上げて・・・俺の右頬にちょん、とキスをした。
うわ、いきなり、なんだよ!?全身が瞬間沸騰のように熱くなった。
「あ、ごめん。私、お風呂でのぼせちゃって。一瞬頭がぼーっとなっただけ。今のは忘れてね!」
隣で莉奈がびっくりしている。
「ああーっ。結衣ちゃんずるーい。どさくさに紛れて。お兄ちゃん真っ赤だよ。莉奈の30キスより、もしかして効いてる??」
「べ、別に、効いてないって。てか結衣は反則技過ぎるだろ。莉奈、帰るよ。結衣、また明日」
「うん。バイバイ」
両手を小さく振る。
マンションの1階で・・・。
「結衣ちゃん、ついにやっちゃったね。でも、莉奈の方が上手でしょ。結衣ちゃん不慣れな感じだった・・・」
確かに、莉奈の言う通り、おぼつかない感じではあった・・・。しかしそれにしても効いたな。莉奈の30分の1(?)なのに。不思議な現象だ。
「えっと・・・風呂でのぼせてただけだろ!?」
「えー??あれは照れ隠しでしょー。さっきの絶対わざとだよー」




