お誘いは廊下の片隅で
ここは結衣を信じて任せた方がよさそうだ、ということで俺は言われた通り、自分の席に戻ったが・・・。
やばいやばい、これは完全にはみってるやつの姿じゃないか。ああー、どうすればいいんだ?
クラスもだんだん静まってきているのが状況の切なさを物語っている。これは最後に池田先生が気の毒そうな表情でやってきて、どこか3人グループになっているところに入れられるパターンだ。
万事休す・・・と思ったその時。
「おい、上牧。俺らと組もうぜ」
話しかけてきたやつがいる。
えっと、誰だっけ。あ、そうそう。中山ね。隣には他に山本と岡町もいる。3人とも去年は別のクラスだったし、あまり知らないが・・・これは天祐だ。
「うん。それじゃ、よろしく」
「ちょうどあと1枠だったんだ。上牧が入ってくれてありがたいよ」
なぜか喜ばれているし。
「上牧のために1枠開けてたのに、山崎の方に行くから」
なぜか確保されているし・・・って本当か?
ちらりと結衣の方を見ると、にっこりして親指を立てている。「上手く行ったでしょ?」とでも言いたげに。
いったいどうやったんだろう。わからないけれど、急に優しくされると普段とのギャップでどきどきしてくる。結衣はそういう技多いからな。
「はいー、みなさん無事にグループ作れたみたいですね!Good job!」
池田先生のアニメ声。
うん、ほんとに無事に。結衣のおかげで。
周りを見ると、だいたい男女に分かれてグループができている。例外は山崎のところくらい。
「じゃあ、残りの時間は雑談でもしてグループ仲を深めてくださいねー!」
またクラスが賑やかになった。俺は中山、山本、岡町の誰もあまり知らないので会話に窮する。中山は真面目で成績がいいイメージ。山本は確か吹奏楽部で、音楽好きのイメージ、岡町は背が高く、クールでおぼっちゃまのイメージ。
って一体何を話せばいい?!
「遠足って高1と合同なんだよな」誰も話出さないので、俺が気まずさを紛らわせようと話しかける。
「そうだな」と山本。
「去年も行ったし」と中山。
「誰か知ってる後輩いるか?」
「いないな」と中山。
「俺も」
「俺も」
・・・会話が続かない。せめて、「上牧は知ってるやついるか?」くらい聞いてくれよ。そしたら大宮さんの話持ち出して少しは会話になりそうなのに。
「お前ら家に執事とかっていたりするか?」
苦し紛れにつないだ。
が、言ってから即座に後悔した。どんな話の振り方だよ!と自分でも思う。意味わからんやつだと思われるのがオチだ。
ところが・・・。
「岡町のとこ、2、3人いるぜ」と中山。
「あいつ、親が貿易会社持ってるから」と山本。
「まじかよ!いるのかよ!適当に言ったのに。今年入学してきた女子にそういうやつ知ってるんだが」
「え?まじ?誰だよ」岡町が食いついてくる。
ふうー、とりあえずあと20分やっていけそうだ。
ホームルームが終わる頃には大宮麗香のおかげで曲がりなりにも4人の気心が知れた。それだけでなく、もっと収穫があったような気がする。
あの岡町。一見平凡だし、クラスで目立っていないけれど、いいやつそう。家に執事がいるというし、大宮さんにぴったりだったりして!?
帰り支度をし、9班の3人と別れて、教室を出る。
1階の廊下に出たところで、向こうから誰かが手を振ってやってくる。
・・・大宮麗香だった。うわさをすればだ。
「上牧先輩!お疲れさまです!」
「お疲れ、大宮さん」
「上牧先輩は園遊会、何班ですか?」
「園遊会?ああ、遠足のことね。俺は9班だよ」
「わかりました!じゃ、私も9班になりますね!」
「どういうこと?」
「明日、うちのクラス、ホームルームで班分けあるんです。例年同じ数字の班がペアを組むので・・・上牧先輩よろしくお願いします」
「わざわざ合わせなくても・・・」
「私、人見知りなんです。高2の方でも誰か知ってる人がいたら落ち着くので」
大宮さんってほんとに人見知りか?と思ったが、言わないことにした。
「大宮さん、今朝の話だけど・・・平凡で目立たない人と長くいると好きになる可能性があるっていう法則があるらしいんだ。俺の班にも・・・」
「あ、それって上牧先輩のことですね!私たち、まだそんなに長くはいませんけど・・・」やば、ここでフラグかよ。俺に立てるな!!
「俺じゃないって。とにかく平凡で目立たないやつを探せってこと!あと、少しでも気になるやつが現れたら、毎日ご飯に誘うとかして長くいるようにすること。俺ができるアドバイスは以上だ!!」
「ありがとうございます。考えていてくれたんですね。やっぱり上牧先輩は頼りになります!!」
「いや、俺が考えたというより、聞きかじった話だけど」
「ところで、上牧先輩、明日のランチ、ご一緒しませんか?」
「しません!アドバイスの適用先間違ってるって!!」
「あら、明日はハンバーグステーキの日だったんですが。上牧先輩は草食系男子だったんですね」
別にさして残念そうでもなく、さらりとそう言う。
廊下の向こうから結衣がやってきた。体操着に着替えて、バドミントンのラケットを持っている。
「あ、麗香だ。探してたところ。今日バドミントン部の見学していかない?仮入部はまだだけど、特別に見せてあげるよ」
「え?そうなの?行く行くー。上牧先輩もいっしょにどうですか?」
「俺は帰宅部に入部済みだから」
「そうでしたかー。残念です」
「勇真、さっきは助かったみたいね」結衣が耳元で囁く。
「うん。ありがとう。とりあえず、はみらずにすんだ。どうやったの?」
「それは秘密。まあ、モテ療養中でもあれくらいの男子を動かすのはわけないってこと。勇真を除いてだけど男子なんてちょろいものよ」
「どういう意味?」
「ううん。なんでもない。勇真が無事にホームルーム切り抜けられたんならそれでいいや」
「女神様って、助けてくれることもあるんだね」
「私は勇真が困ってたらいつでも助けるけど・・・。別に、『女神様』じゃないし」
結衣が拗ねたそぶりをする。
「あはは。だいたいは女神様モードで、たまに結衣モードだね。さっきみたいに」
「じゃあ、もう一度結衣モードになるけど、明日もいっしょに学校行って、それからいっしょにご飯食べない?」
結衣がちょっとはにかんで誘ってくる。
「うん。俺はいいけど」
「じゃ、麗香は梅ちゃんの車よろしくねー!」
「いいよ。回しとく。先輩もバス停で!」
まじか、車なのに遅刻するやつ繰り返すのか!?




